HOME > 産官学連携

産官学連携ケーススタディ
『視覚障害者水泳用コースガイドの開発』

SFC研究所で行われている産官学連携による様々な研究活動とその成果をケーススタディとしてご紹介いたします。(肩書きは掲載当時のものです)

>> バックナンバー

視覚障害者水泳用コースガイドの開発:政策・メディア研究科仰木裕嗣助教授

大学院政策・メディア研究科の仰木裕嗣助教授が、視覚障害者のための水泳用コースガイドを開発し、特許出願のうえ製品化に成功しました。この技術開発の経緯や過程をお話していただきます。

コースガイド
コースガイド:試作品での評価実験にて

Q. まず今回製品化された「コースガイド」について簡単にご説明ください。

(仰木) 視覚障害者の方がプールで水泳を行うときに、「まっすぐ」しかも「安全に」泳ぐことを補助する用具です。具体的には、コースロープにウェットスーツ生地で作成した帯状のコースガイドをかぶせるようにし、視覚障害者の方はこれに沿って泳ぎます。柔らかな素材で出来ている帯に手を突っ込んでも、手は水の中に滑り込むために安全ですし、この帯に手先や体側を触れながら泳ぐことでまっすぐに泳げます。これまでは、初心者にはまっすぐに泳ぐことがまずは難しかったんですね。

Q. このコースガイドを開発したきっかけと製品化までの道のりをお聞かせください。

(仰木) 私はスポーツ工学という研究を行っているのですが、自分自身は長年水泳に携わってきました。私も実行委員として関わっている日本水泳・水中運動学会が2004年に神戸で開催されました。この学会はコーチング現場の方との交流をはかるために、プールでの実習を毎年行っています。当時テーマが「視覚障害者水泳の指導」というもので、パラリンピック金メダリストの河合純一さん(過去4回のパラ五輪にて金5個を獲得した世界的な選手)による講習が行われ、指導方法を教えていただいたのですが、その講習会が終わったときに、彼の右手から血が流れているのに気がついたため尋ねたところ、「目が見えないのでいつもコースロープにぶつかるんですよ、いつものことです。突き指をする人もいますよ、ハハ」と笑いながら答えてくれたのですが、その言葉に衝撃をおぼえました。なんとかしたい、なんとかしなきゃ、と純粋に思ったんですね。その後、数ヶ月の間、解決方法を自分なりに練りました。そして以前から懇意にしていたダイビング器材を開発している株式会社アポロスポーツの服部清次取締役に相談し、素材形状を考え試作品を作っていただきました。その後、視覚障害者水泳選手の合同合宿に赴いたり、筑波大学付属盲学校の水泳部に協力していただいたりし、1年間の評価実験を行いさらに素材・形状について改良しました。これには当研究室学部生の浜本まり紗さんが協力してくれました。視覚障害にもいくつかの段階があり全盲の方以外では弱視の方もいらっしゃることから色や長さを考慮し、壁が近づいたことも感じ取ることができるような配慮をしました。こうしたアイデアと試作品の改良を終え、慶應義塾大学知的資産センターを通して特許を出願し価値を認めていただいた株式会社ヤマハ発動機プール事業部にプール備品としてカタログに掲載していただき、現在ようやく販売に至っています。

コースガイド
2006年夏:マレーシアでのJICA事業

Q. すでにどこかで使われているのでしょうか?

(仰木) はい、この夏にJICAの事業でマレーシアにおいて視覚障害者のスポーツ指導が行われましたが、先に紹介した河合さんや、筑波大学付属盲学校の寺西真人先生らの指導陣がコースガイドを持ちこみ、現地の視覚障害者への水泳指導、特に初心者の指導に用いたそうです。今後は公共プールや盲学校などのプール、障害者スポーツセンターなどにおいて利用していただければ、視覚障害者の方々にも安全に水泳を楽しんでいただけると思っています。元来、視覚障害者の方々は運動不足であることが指摘されていますが、走ったり、ボールゲームなどの陸上運動ではボールや人とぶつかったりする事故が起こることから、水泳はその意味では安全ですし、全身運動ですので運動不足の解消にもよいと考えています。水泳を楽しむ人が安心してトレーニングでき、水泳人口が少しでも増えてくれることを期待しています。

Q. 今後このような障害者スポーツ用の製品開発を進めていくのでしょうか?

(仰木) はい。障害者の方がより楽しく、より安全にスポーツを楽しめるような用具の開発にも、出来るだけ力を注ぎたいと思っています。

(掲載日:2006/9/21)

バックナンバー

産官学連携ケーススタディ過去の記事はこちらからご覧いただけます。