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産官学連携ケーススタディ
『水族館の学習環境デザイン』

SFC研究所で行われている産官学連携による様々な研究活動とその成果をケーススタディとしてご紹介いたします。(肩書きは掲載当時のものです)

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水族館が、学びの場になる

クラゲラボ ロゴマーク

クラゲラボ は、水族館での新しいエデュテイメント(エデュケーション+エンタテイメント)について研究するグループです。このプロジェクトは有澤研究室所属の後期博士課程大学院生である大橋裕太郎が中心となり、有澤研究室の学部生や大学院生、活動の趣旨に賛同したSFCや他の大学に所属するメンバーが、新江ノ島水族館 と共同で活動を行っています。様々な情報ツールやワークショップ、コンテンツを提案することで、水族館を見て楽しむだけでなく「知る」、「感じる」ことができる新しい水族館のあり方を模索しています。

この活動のもととなっているのが、大橋らが2006年から進めているZOO PROJECT です。ZOO PROJECTは、動物園の新しい情報デザインを提案することを目的としています。東京都の井の頭自然文化園との共同事業として、こどもや親子連れの来園者が参加しながら楽しむことができる展示デザインを追及してきました。2007年に行った「Being いきてること展」と銘打ったイベントには多くの方に来場いただき、2007年のグッドデザイン賞を受賞することができました。今回のクラゲラボではフィールドを水族館に移し、新たなメンバーとともに新しい課題に取り組んでいます。

どうして水族館なのか

水族館をフィールドとして活動を行っていることには理由があります。それは、少し大げさなのですが、海や魚は私たちの生活を映し出す鏡の役割を果たしているからです。例えば現在、海辺には大量のゴミが打ち上げられ、海水は汚れ、漁獲量は減り、水温は二酸化炭素を取り込むことで気温よりも速いスピードで上昇しています。海は私達が抱える環境や資源など数々の問題を地上よりも直接的に反映しているのです。近頃はエコという言葉を頻繁に耳にするようになりましたが、実際に私達が環境に目をむける機会は多くありません。環境や生き物について考える身近なきっかけとして水族館は非常に有効な場所であると考えました。

活動の進め方

クラゲラボの活動は、新江ノ島水族館に電話をかけるところから始まりました。アポイントメントを取って担当者の方にZOO PROJECTのコンセプトとこれまでの活動について説明をさせていただいたところ、是非新しい企画を共同で進めようとお話を頂きました。水族館側はこれまでに、湘南エリアにおける産学連携による情報発信を行っていました。さらに、映像資料などの膨大な量のリソースを蓄積していたことから、新しい方法で利用者に提供できる仕組みを模索しているところだったのです。私たちがそこに新しいアイデアと技術を組み合わせることで、水族館の新しい楽しみ方が作り出せるのではないかということになりました。

その後約1年間かけて何度も打合せを重ねましたが、企画案はすぐには固まりませんでした。利用者の多くはこどもであるため、こどもでも簡単に使えて理解しやすいものが必要でした。また、安全性や説明の方法、個人情報の管理など、多くの課題を解決する必要がありました。利用者の方々にはお金を払って来てもらうため、作品の質を高めることも重要な課題でした。

数十の企画案を経て、最終的にiPod(R) touchを使って生き物の貴重な映像をネットワーク経由で視聴する「えのすいナビ」という企画に決まりました。実際の生き物はじっとしていることも多いため、本物を見ながら、その生き物の貴重な映像を見る(例えば、タカアシガニを見ながら、タカアシガニの脱皮の瞬間を映像で見る)といったユースケースを考えました。映像コンテンツは水族館側が提供し、システムはクラゲラボ側で開発するという分業体制を取り、ネットワークのシステムやコンテンツ開発は学生達が分担して行いました。その後も水族館側との打合せを重ね、社内の試写会などを経て、2008年5月3日から6日に、4日間限定の企画として実施しました。

利用者の反応と今後の展望

イベント当日は好天にも恵まれ多くの方に来場いただくことができました。受付や貸出業務、システムのメンテナンスなどは学生たちが持ち回りで行いました。利用者の方々に質問紙による調査を実施したところ、このような活動を続けて欲しい、勉強になったなど、たくさんの好意的なフィードバックを得ることができました。一方で、システムの複雑さを軽減したため、こういう機能を追加して欲しい、もっと発展的な使い方をしたい、といった声も聞かれ、全ての利用者が満足するシステムを設計する難しさにも直面しました。しかし、多くの方々に利用してもらい、フィードバックを得ることができたのは大きな財産になったと考えています。私たちにとっても、このような機会を得ることができたのは大変貴重な経験になりました。ご協力いただいた水族館の方々に大変感謝しています。今後も新しい企画を考えており、今回得られたことを生かして次につなげたいと考えています。

「えのすいナビ」の利用風景 「えのすいナビ」の利用風景(写真提供:新江ノ島水族館)

「えのすいナビ」を利用するこども 「えのすいナビ」を利用するこども

[湘南藤沢事務室 注:]
大橋裕太郎さんは2007年度より科学研究費補助金(特別研究員奨励費)に採択され、研究を推進しています。

(掲載日:2008/7/3)

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