2002年11月22日
W3CにおけるWeb標準化活動について
研究プロジェクト名:World Wide Web Consortium (W3C) 担当研究者: 斎藤
信男 (常任理事・環境情報学部教授兼政策・メディア研究科委員) 萩野
達也 (環境情報学部教授兼政策・メディア研究科委員)
概要:W3Cは、Web技術の標準化と推進を目的とした会員制の国際的な産学官協同コンソーシアムです。参加会員の合意に基づいた技術仕様やガイドラインの勧告
(Recommendation) としての策定を通じ、ベンダ中立でオープンな仕様に基づくマークアップ言語や通信プロトコルの開発と推進によって、Webの相互運用性の向上とユニバーサルアクセスの実現に努めています。
W3Cとは
W3Cは、Web技術の標準化と推進を目的とした、会員制の国際的な産学官協同コンソーシアムです。アメリカ合衆国マサチューセッツ工科大学計算機科学研究所
(MIT/LCS)、フランス国立情報処理自動化研究所 (INRIA)、および日本の慶應義塾大学がホスト機関として共同運営しています。
W3Cは、技術仕様やガイドラインの勧告 (Recommendation) としての策定を主な活動としており、ベンダ中立でオープンな仕様に基づいたマークアップ言語や通信プロトコルの開発と推進によって、相互運用性の向上に努めています。またW3Cは、「Webは、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、言語、文化、場所などの違いや、身体的、精神的能力にかかわらず、すべての人に提供されるべきものである」という命題を掲げ、ユニバーサルアクセスの実現にも努めています。
組織構成
W3Cは、その運営を担う、MIT/LCS、INRIA、慶應義塾大学のいずれかのホストに所属するW3Cスタッフと、W3Cに参加するW3C会員から構成されます。
W3Cスタッフは、W3Cで行われている技術的な作業を主導、監督する多くの専門家と、運営に携わる事務やシステム管理を担当するスタッフから構成されます。現在、世界中で約70名がW3Cスタッフとして勤務しており、多くの技術スタッフが所属しているという点で、W3Cは標準化団体の中でも稀な存在です。一方、W3C会員は、W3Cに参加している組織を指し、Webに関する技術開発や普及活動などを行っています。W3C会員には次のような利点があります。
・ 技術仕様の提案や、策定プロセスへの直接的な参加
・ 会員専用のWebページやメーリングリストを通じた、仕様案などの最新情報の入手
・ 研究員の派遣を含む人的、技術的な交流
・ W3Cの活動に対する戦略的な方向付け
現在、コンピュータ産業や情報産業、インターネット産業を先導する主要な企業、あるいはWebを利用する産業界、研究機関、政府機関、市民団体をはじめとする様々な組織がW3C会員として世界各国から参加しており、その数は450を超えます。日本からはこのうち36組織が参加しています。
仕様策定プロセス
W3Cでは、すべてのWebユーザに対する責任の所在を明確にするために、どのように作業が開始、実施され、レビューされて完了されるかを、W3Cプロセスドキュメントにおいて明確に規定しています。
具体的な技術仕様やガイドラインの策定は、主にW3C会員からの参加者と、W3C の技術スタッフによって構成されるWorking
Group (WG) 単位で行われ、レビューに基づいて改善されます。WGは、会員組織だけでなく、一般の開発者コミュニティ全体に対してもレビューを呼びかけ、会員以外からのコメントに対しても会員からのコメントと同様に対応します。
W3Cでは、次の5つの段階に分けて技術仕様やガイドラインを公開し、策定していきます。各段階ではそれぞれレビューが行われ、仕様が確定されます。
草案 (Working Draft)
仕様の原案です。この時点では特に合意や技術的な質は要求されません。
最終草案 (Last Call Working Draft)
最終段階の草案です。通常3週間のレビュー期間が設定されます。必要な要件を満たせば、勧告候補もしくは勧告案に進みます。逆に草案に差し戻される場合もあります。
勧告候補 (Candidate Recommendation)
草案で策定した仕様が要求を満たしているか、広く一般に実装を呼び掛け、実装テストを行います。必要な要件を満たせば、勧告案に進みますが、そうでなければ、草案に差し戻される場合もあります。
勧告案 (Proposed Recommendation)
策定された仕様のW3C会員全体によるレビューが実施されます。レビュー期間は最低でも4週間設定されます。会員からの合意が得られない場合は、勧告候補または草案に差し戻されます。
勧告 (Recommendation)
W3C会員によるレビューを経た後、最終的にWebの発明者であり、W3CのDirector (技術統括責任者)
を務めるTim Berners-Leeの承諾を得て、晴れて正式な勧告となります。
活動体制
仕様策定を行う各WGは次の5つのドメインのいずれかに所属し、WG憲章がその活動方針を明確に規定します。通常、WGを運営する議長はW3C会員から選ばれ、W3Cの技術スタッフはスタッフコンタクトとして議長を補佐します。各ドメインは取り扱うトピックごとにアクティビティと呼ばれるグループに細分化されます。各アクティビティは、1つ以上のWGから構成されます。WG同様、各アクティビティの活動方針はアクティビティステートメントで明確に規定されます。なお、各ドメインにはドメインリーダーが、各アクティビティにはアクティビティリードが、それぞれW3Cスタッフから配置され、作業を主導、監督します。
Architecture :
Webを支える基盤技術の改善と自動処理の推進
XML : XML
1.0/1.1, XML Schema, Namespaces in XML 1.0/1.1, XLink,
XML Base, XPointer, XQuery
Web Services
: SOAP 1.2, WSDL 1.2
DOM : DOM
Level 1, DOM Level 2, DOM Level 3
URI : URI,
URL, URN, IRI に関する活動
Jigsaw
: Jigsaw (Java-based Object Oriented Web Server) の実装
Document Formats :
Webにおける効果的な情報表現のための技術開発
HTML
: XHTML 1.0/1.1/2.0, XHTML Basic, HTML 4.01/4.0/3.2, XForms
1.0, XFrames
Style:
CSS level 1, CSS level 2, CSS level 3, XSL 1.0, XSLT 1.0/2.0, XPath 1.0/2.0
Graphics
: PNG, SVG 1.0/1.1/2.0, Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic, WebCGM 1.0
Math
: MathML 2.0/1.01/1.0
Internationalization
: Ruby Annotation, Character Model for the World Wide Web
Amaya
: Amaya (Browser and Editor) の実装
Interaction : Webに対する新しいアクセス、対話手法の探求
Device Independence
: Device Independence Principles, Composite Capability / Preference Profiles
(CC/PP)
Multimodal Interaction
: Multimodal Interaction Framework, Extensible Multimodal Annotation Markup
Language (EMMA)
Synchronized Multimedia
: Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL) 2.0/1.0
Voice Browser
: VoiceXML 2.0, Speech Recognition Grammar 1.0, Voice
Browser Call Control: CCXML 1.0
Technology and Society
: Web上の政策的課題に取り組む支援技術の提供
Semantic Web
: RDF, RDF Schema, RDF Semantics, Web Ontology Language (OWL) 1.0
Privacy
: Platform for Privacy Preferences Project (P3P) 1.0, PICS
XML Signature
: Signature Syntax and Processing, Canonical XML, Exclusive Canonical XML, XPath Filter 2.0
XML Encryption
: XML Encryption Syntax and Processing, Decryption Transform for XML Signature
XML Key Management
: XML Key Management (XKMS) 2.0
Web Accessibility Initiative (WAI)
: 障害を持つ人を含むすべての人が使いやすいWebの実現
WAI International Program
Office : 普及・教育活動
WAI Technical Activity
: W3C技術の検証、評価・修正ツールの評価と開発、ガイドライン策定:
Web Content
Accessibility Guidelines (WCAG), User Agent Accessibility Guidelines (UAAG),
Authoring Tool
Accessibility Guidelines (ATAG), XML Accessibility Guidelines
またドメイン横断的なWGとして、W3C技術の品質保証を確保するQuality
Assurance (QAWG) と、技術仕様の策定に絡む特許問題を取り扱うPatent Policy (PPWG) があります。
慶應義塾大学SFC研究所W3C
W3C慶應は、東アジア地区担当のホストとして、W3C会員及び一般向けに、日本語による情報提供やWeb関連技術の普及・広報活動を行っており、現在9名がW3Cスタッフとして活動しています。技術面では、XHTMLやHTML,
Internationalization, Device IndependenceやQuality Assurance などに関する活動に取り組んでいます。
W3C慶應では、入会のご希望や報道発表送付のご依頼などを含め、一般的あるいは技術的なお問い合わせや、取材やインタビューのお申し込みなども常時受け付けております。ご用の際には、どうぞお気軽にお問い合わせください。
<本件に関するお問い合わせ先>
World Wide Web Consortium http://www.w3.org/
慶應義塾大学SFC研究所W3C http://www.w3.org/Consortium/Hosts/Keio
〒252-8520 神奈川県藤沢市遠藤5322 Tel: 0466-49-1170 Fax: 0466-49-1171
担当: 竹内 佐衣子 mailto: keio-contact@w3.org