学術交流拠点の構築とともに行なうイスラーム圏の多面的理解と交流の試み
研究代表者 奥田 敦
研究メンバー 山本達也 松原康介 杤尾圭亮 佐野光子 加藤大佑 植田那美
野中葉 牧田直哉 下田寛典
概要
イスラーム圏についての多面的理解を文献の購読による研究と学術交流拠点の構築を意識したフィールドワークとともに行なった。
研究メンバーは、イスラーム圏に対する緩やかな関心で集まったSFCの大学院の在籍者たちで、ITC支援、都市計画、国境地域協力、映画・メディア・芸術、心理、労働、女性、商取引、開発についてそれぞれに先端的な研究を行なっている。メンバーの中には必ずしもイスラーム圏の研究を専門としない者も含まれているが、イスラームにも関係するテーマは広汎に及び、地理的な広がりとは別の次元で問題と議論が共有できた。
活動
活動は、3つの柱から構成された。@SFCのキャンパスで定期的に行なわれた研究会。Aシリア・アレッポで行なわれたフィールドリサーチに関する研究会。B個々のメンバーによるフィールドワーク。Cその他。
@ SFCにおける研究会
大学院グローバル・ガバナンス・プログラムの共同プロジェクト「グローバルガバナンスとリージョナルガバナンス」のサブプロジェクト「アラブ・イスラーム圏研究」の活動の一環として重要文献についての発表と議論を通じてイスラーム圏研究の包括的な方法論の構築を模索した。また、個々のメンバーのフィールドワークの成果報告も聞き、議論を重ねた。
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5/21 |
Geertz,
Clifford(1987)、吉田禎吾訳、『文化の解釈学』(1) 担当:杤尾圭亮 |
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6/4 |
Geertz,
Clifford(1987)、吉田禎吾訳、『文化の解釈学』(1) 担当:佐野光子 |
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6/25 |
Geertz,
Clifford(1987)、吉田禎吾訳、『文化の解釈学』(1) 担当:野中葉 |
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7/9 |
Geertz,
Clifford(1987)、吉田禎吾訳、『文化の解釈学』(1) 担当:牧田直哉 |
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10/29 |
西谷哲司(1996)、「宗教と非宗教の間」、『「行」ということ』、担当:杤尾圭亮 |
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11/12 |
西谷哲司(1996)、「宗教と非宗教の間」、『宗教と非宗教の間』、担当:佐野光子 |
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11/30 |
ブライアン・ターナー(1994)、「ウェーバーとイスラーム」、担当:野中 葉 |
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12/17 |
研究報告:山本達也 井筒俊彦(1991)、「イスラーム文化」、今永清二(1992)、「東方のイスラーム」、 担当:野中 葉 |
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2/4 |
研究報告:下田寛典 現地調査報告 担当:牧田直哉 人間の安全保障委員会報告書(2003)、「安全保障の今日的課題」 担当:野中 葉 |
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A 2003年9月10日には、奥田、杤尾、佐野、植田の各メンバーがシリアのアレッポを訪れ、アレッポ在住で、アレッポ大学日本センターで主幹を務める山本と現地調査のため長期滞在中の牧田および下記の調査で滞在中の野中と合流し、研究会を行なった。
佐野 中東における映画作りに関するフィールドワークの調査報告
山本 中東諸国のITC政策研究の進捗状況の報告
植田 新科学についての研究状況展望
野中 シリア社会における女性についてのフィールドワークの調査報告
牧田 商交渉についてのフィールドワークの展望
杤尾 国境地域研究に関するフィールドワークの調査報告
研究会は、午前9時から午後9時半までに行なわれた。会場は、山本氏宅とグラナダホテル。野中さんのセッションには、アレッポ大学日本センター副所長のマンスール博士の出席も得た。夜10時過ぎよりアレッポ、ジュダイダ地区のレストラン、カンタラにて懇親会も行なった。
B 個々のメンバーのフィールドワーク
本研究の関連では、各メンバーが活発にフィールドワークを行なった。
特に、シリアのアレッポ大学学術交流日本センターを拠点に以下のようなフィールドワークが展開された。
奥田 |
イスラーム圏における人間と人権 |
山本 |
アラブ諸国におけるITC政策 |
杤尾 |
イアザーズ地区におけるシリア・トルコ国境地域研究 |
佐野 |
シリアにおけるアラブ映画の受容の実際 |
野中 |
イスラーム的観点から見たシリアにおける女性とその社会 |
牧田 |
スークの商業活動における合意形成〜価格の決定を中心に〜 |
以上のフィールドワークには、2週間程度の短期滞在から、2年に及ぶ長期滞在に至るまで様々なタイプが含まれているが、アレッポ大学の日本センターの存在によって、非常にスムーズに研究が行なわれたことは特記に値する。
SFCからの研究者は、研究代表者の推薦を得て客員研究員となることができ、滞在許可の取得などに便宜を図ってもらえる。また、研究の内容に関するサポートも積極的に行なわれていて、センター内でも定期的に研究の進捗状況についての報告会が催されている。
アレッポ大学の日本センターの研究拠点としての役割は、こうした形で活発に活用されることによって一層の発展が期待される。
C その他
この他の活動として、10月30日に三田キャンパスGSECで行なわれた日本中東学生会議主催のアラブ・日本学生ディスカッション大会に参加した(奥田、杤尾、野中、下田。GSECのサブプロジェクト「アラブ・イスラーム圏における人間の安全保障」の一環でもある)。
今後の展望
アラブ・イスラーム圏研究が大学院のレベルでこのようなかなり充実した形で始まったのは、今年がはじめてである。初年度からこのような研究助成をいただくことができ、まずは順調に滑り出したと考えている。
今後は、本研究の持つ4つの柱、すなわち、@多角的多面的な理解を促すための一層の研究の充実 A個々のフィールドリサーチの充実 Bアレッポ大学とSFCを核とした研究ネットワークの拡充 C研究成果の発表と交流 について一層の発展に向けて努力していきたい。