2003年度学術交流支援資金による研究助成

海外の大学等との共同学術活動支援

 

研究課題       外国語教育政策の基盤構築研究−ドイツ語の場合−

 

研究代表者    平高史也(政策・メディア研究科・総合政策学部・教授)

研究組織       平高史也(政策・メディア研究科・総合政策学部・教授)

藁谷郁美(政策・メディア研究科・総合政策学部・助教授)

桑原武夫(政策・メディア研究科・総合政策学部・助教授)

木村護郎クリストフ(総合政策学部・専任講師)

アンドレアス・リースラント(総合政策学部・訪問講師)

的場主真(ドイツ・ヴィッテンヘルデッケ大学専任講師)

安井綾(政策・メディア研究科2年)

石司えり(政策・メディア研究科1年)

 

1)2003年度の研究活動

 

本研究は、ドイツ語圏在住の日本語母語話者の言語使用・能力の実態の解明を目的としている。2003年度はパイロット調査の実施に向けて準備を進めた。

まずはじめに2003年夏に国立国語研究所を訪れ、日本語教育部門長の杉戸清樹氏にお会いし、同研究所で行われた調査のうち、本研究の先行研究と考えられるものについてお話をうかがった。海外での調査の方法や場面意識の問題についてご教示をいただいた。

2003年10月、11月に相次いで来日したドイツの社会言語学者ノルベルト・ディットマー、ウルリッヒ・アンモンの両氏に平高が会い、本研究への協力を要請した。ディットマー氏は第2言語習得や話しことばについての研究で、アンモン氏は世界におけるドイツ語の地位に関する研究で知られている。特に、アンモン氏が日本人学生2名と90年代にデュッセルドルフで行った研究は、本研究の数少ない先行研究である。

次に、共同研究者の的場の来日時にミーティングを行い、ドイツでの調査について検討した。的場によれば、ドイツ西部にあるデュッセルドルフは人口57万人の都市で、外国人がおよそ15%を占める。現在およそ6500人の日本人が住み、約400の日系企業が支社や出張所を構えている。日本人コミュニティーの集住都市として特異な性格を持っている。1964年に日本倶楽部、1971年に日本人学校(現在の児童数550名)が設立され、その後は塾、日本料理店、食料品店、書店など作られ、ドイツ語や英語の知識がなくても日本人が生活できるといっても過言ではない。したがって、ドイツにおける日本語母語話者の自然なコミュニケーション行動を調査する際には、その特殊性を考慮しておくべきでろうという結論に達した。その後、検討を重ねた結果、パイロット調査は本研究の参加者になじみがあって、調査が進めやすいベルリンを調査地として選択した。

続いて、調査票の作成を行った。これには以前、平高が総合政策学部の古石篤子教授と共同で行った藤沢市在住のブラジル出身移住者の言語使用や言語習得についての調査のときに使った調査票を下敷きにして、安井と石司が担当した。

2004年2月から3月にかけて安井、石司、平高がベルリンに飛び、パイロット調査を行った。安井、石司が日本人留学生3名に、平高が在住日本人4名に会って、インタビューを行った。インタビューは、まず作成した調査票に記入してもらい、その後で記入済みの調査票を見ながら、聞き取り調査を行うという形式で進めた。その間の会話はインフォーマントの承諾を得てすべて録音した。このパイロット調査の目的は本来分析するべきデータの収集ではなく、調査の方法や調査票の改善にあったので、その意味では下準備的な正確を持つものである。調査の結果、以下のような点が明らかになった。

 

(1)   調査票、特にドイツ語能力の自己評価に関する部分を精緻化する。これは最終的には3年目に予定している談話分析に委ねるのがよいのではあるが、その前段階の調査としても、もう少し具体的に質問したほうがよさそうである。

(2)     調査前の予想に反して、渡航前にドイツ語をまったく学習せずにドイツにわたっ

ている日本語母語話者もいることがわかった。この種のインフォーマントは今後

の調査でも追跡調査ができる可能性を秘めているので、長期調査を視野に入れる必要が出てきた。また、飲食店関係に従事している日本語母語話者に、特にそういったインフォーマントが多いらしいことがわかった。

(3)              ドイツに行くと、日本語が難しく思えてきたという答えが意外に多かった。これは海外で日本語を多少できる日本語非母語話者と接し、日本語の文法や語彙などについて聞かれることが多くなり、答えられないという場面にかなり遭遇しているからではないかと思われる。自分や母語を相対化し、意識化している証拠として興味深い。

 

2)今後の課題

  本研究は3年計画の1年目を終えたばかりである。今年度の実行が可能になった時点で、以下の課題に取り組みたい。

 

(1)     調査票の確定

(2)     類似の調査についての研究

本研究と同じように、日本語母語話者の海外におけるコミュニケーションを対象としたもので、アメリカ・ロサンゼルスおよびオーストラリアをフィールドにした研究があるらしいことがわかったので、それを調べる。さらに、在日・在米韓国人の言語生活に関する研究も参照する。

(3)     ボンでの調査

今年度は藁谷が滞独中のためインタビュー調査を継続する。その際、インフォーマントを留学生ばかりでなく、ビジネスマンやその家族にも広げたい。また、日本語母語話者がドイツではどのような場面に多く出会うのかといった点も詳しく調べ、場面だけでなく、対話者、職業、使用言語の相関関係、ドイツ語をはじめとする外国語能力ドイツでのドイツ語学習継続の機会などのほかに、日本企業の社員に対する渡独事前教育なども考慮する必要がある。