2003年度学術交流支援資金報告書

                                           平成162月 

                                          総合政策学部 山本条太

研究課題名 グローバルガバナンスの視点

研究代表者 山本条太      所属職名  総合政策学部教授(有期)

 

研究課題 グローバルガバナンスの諸側面を分析するに当たっての多角的な視点の設定を目指し、復旦大学(中国)・延世大学(韓国)SFC三者間の遠隔授業の枠組みを通じて学生共同研究を推進すること。

 

1 作業日程 

〜@及びAの詳細は、別途提出の遠隔授業関連報告書(「2003年度春学期遠隔授業報告(グローバルガバナンスの視点)」平成157月付け)を御参照願います。

@ 2003年度春学期に、オリエンテーション講義(遠隔形式)7回実施

   −講義と質疑応答の組み合わせによる。いずれも英語を使用

   −テーマは、韓国の金融改革、東アジアにおける武器拡散、前近代の南東アジアにおける国の形成、北東アジアの安全保障、東アジアにおける人口問題、グローバル・ガバナンスに係る欧州の視点、世界と中国

A 2003年春学期に、学生共同研究の枠組み設定と共同作業を開始

   −5月に慶應部内でのチーム編成とテーマ設定

   −以後、復旦・延世側との共同研究作業を開始(SARSに伴う渡航制限により春学期中は直接会同を実施できず。メール等の通信手段を介しての作業となった。)

   −6月に遠隔形式での共同発表会、7月に慶應部内での合評・発表会

−研究テーマは、金融改革・FTA・地球温暖化・北朝鮮の核開発問題

B 200311月に、学生の直接会同(ピルグリム・ツアー)を同時並行で2回実施

   −慶應から復旦への派遣:23日。安全保障・経済・メディア・環境のグループ別に発表・打合せを実施

   −慶應から延世への派遣:一旦復旦からの一行を受け入れ合流の上、延世に派遣。23日。大学別の発表と安全保障・経済・メディア・環境のグループ別打合せを実施

C 200312月に、上海にてワークショップを実施

   −23日。慶應からは教員3名、院生13名が参加

   −セッション1(環境・教育・文化)では、慶應環境班、復旦教育班、慶應復旦メディア班、延世アジア的価値観班の発表の後、自由討議

   −セッション2(経済)では、三大学FTA班の発表の後、自由討議

   −セッション3(安全保障)では、慶應WMD班、延世WMD班、復旦北朝鮮班、慶應北朝鮮班、復旦中国外交班の発表の後、自由討議

 

2 成果報告

@ 一連の作業成果である12月上海ワークショップの成果については、別途湘南藤沢学会より出版予定

A SARSによる立ち上がりの遅れはあったが、11月以降のピルグリム・ツアーの精力的実施を経て、12月ワークショップでは三セッションでの発表・討議が可能となった。このプロジェクトの今年度の目標である多角的な視点の設定という観点からは、積極的な成果が得られたものと考える。即ち:

−ごく基本的な概念付けにおいて各国社会の見方がまったく異なること(例えばメディアは文化か産業か)、視点を単純化させ過ぎても拡散させ過ぎても問題解決は得られないこと(例えば安全保障は軍事問題か社会問題か)につき、実際の共同作業を通じて、困難の所在と大きさとを認識することができた。

−これらの点は、グローバルガバナンスのマネージメントを考えていく上で不可欠の前提となる事柄である。これを単なる知識としてではなく実際の体験として共有できたこと、その結果、たとえばペーパーの作成と提示を通じた問題発見という手法の意味合いが再認識され、それが実践に移されるに至ったことも等しく重要である。

B 勿論、共同研究の内容面を見るならば、未だ様々の限界がある。折角「多角的な」視点同士の抵触や競合を認識するに至りながら、それらの「調整・融合」には至らず、むしろ議論の土俵を安直に絞り込むか、逆にばらばらに解体するかに終わった点も散見される。

   −結局すべてのテーマにつき自国政策をぶつけ合うに終わっていないか、「メディア」につきメディアの持つ複合的インプリケーションを等閑にしていないか、「経済(FTA)」につき東南アジアの位置付けという本来出口論であるはずの話を入口論で済ませていないか、「安全保障」につき兵器不拡散というグローバル・イッシューと朝鮮半島固有の情勢との連関になぜ焦点を当てないのか、などが「限界」の一例である。   

Cしかし、Bの点をもって今年度の作業に消極的評価を加えるには当たらない。むしろ、このプロジェクトが向かうべき方向性を展望させる貴重な材料として、これを認識することが可能であるし適切なのではなかろうか。多角的な視点を如何に調整し融合させるか、その手法こそグローバル・ガバナンス・マネージメントの中核であるということ、このプロジェクトこそ、そのスキルを会得する格好の機会を提供できる大きな潜在力を有しているということである。プロジェクトの潜在力を活用しきって行くためには継続的な取組みを要するが、今年度の状況を踏まえつつ今後に向けた課題を整理すると、次のとおりである。

   −直接会同の早期かつ頻繁な実施

   −直接会同の頻繁な実施を可能とする財源の確保(国外旅費分のみならず受入れ分についても拡充を要する。)

   −substanceのみならずlogisticsの重要性に係る参加者の意識啓発

   −調整・融合の場の意識的・効果的な提供

   −調整・融合の効果的なシミュレーションを可能とするコンテンツの共同開発

   −プロジェクトの位置付けに係る継続的なレビュー

   −継続的なレビューを可能とするために、共同研究の成果物を継続的に出版

   −コンテンツ開発・成果物出版を可能とする財源の確保

 

以上