成果報告書

 

テーマ:国際産業連関モデルの開発と応用

    総合政策学部 小坂弘行

 

  近年、国際的相互依存が進展している。相互依存の進展は当然のことながら個別経済の分析の限界を露呈する。一国の経済の状況が他国に影響し、他国の状況が自国に影響を及ぼす。

  筆者はこれまで国際産業連関モデルの作成をおこなってきた。これはジェトロ・アジア経済研究所が中心となって国際産業連関表の作表をおこなってきたことが支えになっている。特に日米アジア10ヶ国を対象にした表は85年以来利用が可能で、現在2000年表の公表が待たれてる。複数の表の利用が可能になることで国際産業連関モデルの計量経済学的モデルが可能となる。

  ところで国際産業連関モデルと対照をなすのが、所謂CGEモデルである。GTAP、G−Cubeと云ったモデルが盛行している。このモデルの欠点は1時点の産業連関データをベースにモデリングをすることである。したがって1時点の経済は問題がないが、将来時点などの予測には危険がともなう。しかし一端モデルが作成されるとデータの更新をする必要がなく利用が可能なので盛んな利用がおこなわれる。特にGTAPでは国際コンソーシアムまで組織されるに至っている。

  先にも述べたようにアジア経済研究所の作表は85年表以来行われているので、複数のデータが利用可能になっている。しかし作表がドル名目表示なので国際産業連関モデルの作成上で都合が悪い。モデルは実質額を対象に行われるからである。そこで名目表から価格決定のモデルを先取して価格を算定し、実質表をつくりだす。この実質表を主にベースにして国際産業連関モデルを構築する。このモデリングの妥当性については、すでに隔年開催のInternational Input-Output Associationの国際学会(2002年のカナダ、モントリオール)で国際産業連関モデリングのセッションを設けて国際的に啓蒙に努めた。

  今回の作業は先の日米アジア10ヶ国の24部門に加えて78部門のデータも実質表を作成しモデリングをおこなえるようにした。

  近年日本を取り巻く国際環境は、WTOを避けて2国間のFTAを締結する動きが活発化している。中国や韓国とのFTAの締結がどのような帰結を招くかを作成された日米アジア10ヶ国産業連関モデルを用いておこなう。成果は今夏7月におこなわれるPolicy Modelingの国際コンファレンス(パリ)での発表を予定している。またInternational Input-Output Associationの国際学会も今年度北京で開催される予定であったが、SARSの影響で開催が延期され、来年度2005年の開催が予定されている。ここでもセッションの設定を予定している。