学術交流支援基金 電子教材作成費 平成15年度報告書
「フィールドワークにおけるマルチメディア技法の可能性と有用性」

研究代表 環境情報学部 ティースマイヤ・リン助教授
講座名「社会と表象理論」

研究背景と研究概要

 近年、社会科学分野の研究では、フィールドワークという手法の重要性が高まっている。現場に赴き多 様な情報に触れることで、現場に即した問題意識と分析・実践の手法を構築することが可能になるためであり、とくに発展途上地域の生活の変化や環境問題に関 する研究においては、欠かせない手法であるといえる。SFCにおいても、大学院においてフィールドワークの単位を認定するなど、学生が現場に赴いて問題意 識を鍛え、分析を行うことを奨励してきた。

 しかし、学生たちがフィールドワークを行う際には、従来から二つの障害がある。

  1. 技法の習得:現場で必要となる情報収集と選別、編集、さらなる問題の構築の能力といったフィールドワーク技法に関しては、体系的なトレーニングは困難である。
  2. 時間・費用のコスト:また、海外での調査には、通常1〜数ヶ月の期間と交通費、宿泊費、その他の調査費用といったコストが必要になるほか、この期間中は研究の進捗や方針に就いて教員からの詳細な指導を受けることが難しい。

 そこで、本研究では、フィールドワークのためのトレーニング教材を、実際のフィールドワークに基づく素材から電子教材として作成することを目的とする。 「社会と表象理論」の講義の概念的・理論的枠組みをフィールドワークの実践を通して、一連の研究の流れを「デジタル・フィールドノーツ・パッケージ」とし て作成し、このパッケージ自体がフィールドワーク・トレーニングの教材として機能することが期待される。  当研究室では、過去数年に渡って、タイ、ベトナム、韓国など東南アジア諸地域でのフィールドワークを展開しており、パッケージを作成するに必要な素材量 が確保されている。素材のメディアは、映像、画像、音声、統計、文書資料の5つに分類され、これら素材の編集作業を通してパッケージを作成する。


本年度の成果

 本年度は、研究の第一段階として、タイ、ベトナムにおける実際のフィールドワークに即したデジタル・フィールドノーツ・パッケージを作成するため、以下のような環境整備を行った。

  1. 教材作成クライアント:映像、画像、音声などマルチメディアデータの編集およびウェブへの配信のため、「アドビデジタルコレクション」「マクロメディアスタジオMX」の二種のソフトウェアパッケージをインストールしたPCを二台用意した。
  2. サーバ:作成されたパッケージを配信するためのデータベースサーバを構築し、現在公開準備中である。
  3. 仮コンテンツの作成:博士課程3名、修士課程2名、学部6名の参加の元、フィールドワークの手法、目標、成果を紹介する40分ほどのプレゼンテーションを作成した。

今後の課題

 今後は、作成中のコンテンツをネットワークに乗せることが課題となる。データベースサーバと教材作成クライアントは イントラネットによるネットワーク化を行っているが、さらにインターネットに接続し、公開することによって、学習者がインターネットを通じてパッケージに アクセスできるようにしたい。これにより、学習者自身が現場から逐次教材へのリファレンスが可能になる。このアクセシビリティによって、デジタル・フィー ルドノーツ・パッケージの効果が最大限に発揮されるためである。