2003年度 学術交流支援資金申請書 電子教材作成支援

37 インテンシブ中国語報告書

 

 

研究課題:語法項目導入用DVD教材作成

研究経費:80万円

研究組織:研究代表 重松 淳(総合政策学部教授)

     研究協力者 飯田敦子(中国語非常勤講師)

           蘇  明(中国語非常勤講師)

           林 祐樹(環境情報学部3年)

 

研究目的:

 現在SFC中国語では、インテンシブ中国語開設以来何度かの教材作成・改訂を経て、独自教材を充実させ、テキストの他にCD-ROM教材、WEB教材を平行して使いながら授業を行っている。しかし教室で用いる視聴用の教材は、数年前に改訂したVHSであり、頭だしの不便さや品質劣化の欠点を抱えたままである。最善の策は、これらの教材をDVD化して、アナログ教材から脱出することである。さらにCD-ROMやWEB教材は学生の自習用に開発したものであるが、近い将来おそらく学生が最も楽に使える教材はDVD教材ということになるであろう。教室においても学生の自学自習においても、DVD化は急務である。

以上のことを考えると、現在あるVHS教材を点検して、必要部分をデジタル化してDVDに編集しなおし、新たな教材としての要素を付け加えて、教室での使用および学生の個人使用に耐える教材を、DVD時代到来に先んじて作らなければならない。

そこで、現在使用中のVHS教材の総点検、デジタル化、DVD教材(動画)編集を目的とする研究プロジェクトを立ち上げ、来年度からの実際の使用に耐える教材の研究と開発を行いたい。使用中の教材コンテンツには、話題が古くなったものや、すでに映像が劣化して使用に耐えられなくなったものもあり、映像の再録や新たな撮影を余儀なくされるものも数多くある。特にインテンシブ1,2期分の映像はすべてデジタルではないため、かなりの量の撮影と編集が必要になる。また音声の吹き替えや新しい教材案も必要になってくると思われる。

 

 

1.       概要

 インテンシブ中国語では、文法導入時に映像(VHS)教材を使用している。すべてのクラスで、統一的かつ確実に導入を行なうために、文法項目理解のためのスキットを撮影したこのオリジナル映像教材は有効である。

 しかしVHSの頭だし等の操作が面倒であることから、必ずしも教員には歓迎されるものではなく、結果的に当該文法項目の初期理解において、クラスによるばらつきが生じるという不都合がある。

 これを改善するためには、想定される学習環境に対して汎用性のあるシステムを利用した教材の開発が必要である。そこで、現在あるVHS教材を利用してDVD教材として再生させることを考えた。DVDは近未来に、PC上で手軽に利用されるであろう学習ツールである。教室での利用ばかりでなく、学生がキャンパスでも家でも手軽に自習できるようにすることが、今回のDVD教材開発の狙いである。

 インテンシブの3学期間(1.5年)で学ぶ基礎文法項目100を選び、それぞれにスキット映像と練習問題を作成し、文化小事典(豆知識)を配して、自習・教室両用教材とする。すべてがSFCのオリジナルで、マルチメディアによる導入用スキットDVDの作成は、現在のところ他に例がない。

 2003年度の1年間で、すでに

1.100の文法項目の選定(リスト資料1)

2.それぞれのスキット原稿の作成

3.それぞれの練習問題の作成

4.プログラムのプロトタイプ(実装添付)

5.豆知識項目の選定(リスト資料2)

が終了し、現在、出版社との間で、撮影および搭載辞書についての交渉を行なっている。映像や音声の質の高さを保持するために、スキット出演の俳優との契約や録画・録音の方法と費用について、更なる検討が必要であり、すぐに撮影に入る状況にはない。しかし教材としての新規性を失わないためにも、2004年度中の出版実現を目標に、目下鋭意交渉中である。

 以下では、教材の構成、開発したプログラム、見直しと今後の課題について述べる。

 

2.中国語文法項目導入のためのDVD教材開発

2−1 教材の構成

2−1−1 スキット(スキット項目100:リスト資料1参照)

 この教材は、基本文法項目を導入するために、その項目が使われる状況をスキットで表現し、理解を助けようとするものである。紙ベースのものと違って映像が主体になる。従ってスキットの映像の質は落とすわけにはいかない。そこで映像はデジタルビデオカメラで撮影し、解像度もかなり高い値で維持する。そこには字幕を出すほか、頭だし等の操作性をよくし、音声の質も高く保つ。

 スキットは全100項目にわたる。100項目はそれぞれ独立したスキットで、どこから始めても問題はないが、登場人物、場面などに関連性をもたせ、興味を惹き付けるようにある程度の結束性を持たせた順序になっている。

 学習者のレベルは、広く初級から中級の入り口程度までに対応することを基本にしている。文法事項は、実際の会話場面では、教育文法レベルにかかわらず混在しているのが通例である。そのために、1から100に至る順序において始めから大体3分の1程度のところまでは、易から難へという順序を踏み、新出単語に関しては累加式になっている。しかし、それを過ぎてからは、文法事項提出はレベルの差を考慮しない(易しいものが先に出てくるとは限らない)順序とした。従って残り3分の2のスキットについては、学習者にとっての新出単語が出た場合、単語辞書で検索するようにしてある。

 スキットは極力自然なダイアローグを心掛けているが、初級項目になるほど自然な場面設定が難しくなるのが常であるので、逆にユーモアといった要素を含めることで場面設定の不自然さを緩和しながら、文法項目の確実な導入を図るといった場合も少なくない。スキットの撮影は、(今学期中には完成しないが)費用の関係で、スタジオ撮影を基本にしロケを行なわないので、基本的にリアリティを欠く結果になることは避けられない。そこでそれを逆手にとって、不自然さをユーモアに換えるわけである。

 これらのスキットは、まず「見る」ということに意味があり、場面理解と会話内容の理解が学習者の課題となる。それが理解できれば、まず初期の目的は達せられる。1スキット1文法事項が基本であり、それについては文字で確認することができる。字幕は必要に応じて使えるようにしてあり、理想的には文字を見ずに理解することである。「スキットが面白く、操作性がよい」ことがこの教材においては最も重要で、ここで失敗すると学習者の動機付けを減退させてしまう。上述した「ユーモア」の要素は、その意味でも重要である。自習教材では学習継続へのインセンティブを上げることが必須となるのである。

2−1−2 練習問題(練習問題の種類と概要:実装添付参照)

(1)発音問題

 中国語は、日本人学習者にとって、発音の聞き取りがかなり大きな負担になる。そこでまず発音の聞き取り問題を作成した。発音問題は、たとえば同じ音節で声調の違うピンイン(無意味語の場合もある)を並べて、耳で聞いた発音とピンインを同定するといった種類の問題である。

(2)文法練習問題その1

 発音問題と同様、聞き取り中心の形式にした。音声を聞いて答える並べ替え

問題、選択肢問題である。ここでは絵カットまたは写真を補助的に用い、それを見ながら場面を理解し解答することになる。補助的な絵や写真が的確でないと理解に至らないため、これは重要な素材である。並べ替えの操作性も学習者の意欲をそがないように工夫した。

(3)文法練習問題その2

 この部分も聞き取りを意図しているが、読み取り問題として用いることも可能である。解答は選択式で、会話文、または文章を聞き(読み)、質問に答える。他の問題に比べて問題が長いので、音声を聞いて解答する場合は、かなりの聞き取り力が必要になる。

 問題の内容は中国文化色を出すことに努め、文化知識としても役立つ内容としている。音声の吹き込みは中国人の学生がノーマルスピードで行なった。

 文字を基本に練習するか、音声を中心にするかは選択できるようになっており、何度も聞き直したり、問題と質問を通して聞くこともできるようにした。自習教材としても、初級者用としても十分使えることを考慮したためである。

2−2 開発したプログラム

実装添付参照

 

3.見直しと今後の展望

3−1 見直し

 今年度は、プログラムの開発と練習問題の作成が主な目標であった。プログラムはプロトタイプが出来上がり、コンテンツを流し込む段階に至った。その後、練習問題の形式についていくつかの見直しを行なったので、今後プログラムの修正が必要になる。

 主な修正点は、

@    スキットそのものに内容理解問題を設けること――――

スキットについての課文理解問題とし、スキットそのものからカットした静止画像をQにする。修正の理由は、スキットを見て理解できたかどうかを試すことが必要だと考えたからである。

A    上記練習問題その2の修正――――

ここは応用問題とし、漫画や中国で撮った写真をQとして用い、文法項目把握問題とする。なるべく中国色を出すために写真を多様したい。中国をより身近に感じることができるように考慮した修正である。

の2点である。

3−2 今後の展望

最も大きな課題は、スキット映像の撮影である。すでにインテンシブ中国語で用いているVHSのスキットを利用することを考えたが、それでは劣化した映像をそのまま用いることになり、映像の質の悪さが改善できない。そこでスキットのアイディアはそのまま用い、内容に手を加えて新たに撮影したものをソースにすることはすでに決定している。

撮影は出版社との交渉によるところが大きいため、今後2004年夏休みに撮影するのが現実的である。現在はその撮影に向けて、人材探索を始め細かい詰めを行なっている。この映像が完成すると、早ければ2004年秋には、教材としてリリースすることができるのではないかと期待している。

以上