研究課題

シナリオをオブジェクト指向で分析し、インタラクティブムービーコンテンツとして表現すること を支援する電子教材、"STORY BOLCK"の開発。
ならびに2004年度春学期授業・デジタルコミュニケーション入門での実証実験。

科目名

デジタルコミュニケーション入門(2004年度春学期・環境情報系汎用科目)

研究組織

氏名 所属
奥出直人環境情報学部教授(研究代表者)
鈴木俊輔政策メディア研究科修士課程1年
和田裕介政策メディア研究科修士課程1年
浜田徹哉政策メディア研究科修士課程1年
菅野吉郎環境情報学部 4年
大垣裕美環境情報学部 3年
吉村茉莉環境情報学部 3年
天谷啓介環境情報学部 3年

研究の背景

メディアデザイン分野におけるデジタルコンテンツの制作段階を、ソフトウェア工学の観点から要求・分析・設計・実装と分けた時、要求段階において必要となるのが、ユーザーがコンテンツを使っている様子を物語で記述する手法であるシナリオ法である。また、分析・設計・実装段階で必要となってくるスキルに、オブジェクト指向による分析・設計、そしてプログラミングが挙げられる。
シナリオ法やオブジェクト指向自体は、とてもヒューマンなアプローチでなじみ易いため、概念を理解することはさほど難しいことではない。しかし、このアプローチから最終的にコンテンツを実装する段階では、やはりコンピューター言語の壁が立ちはだかり、初心者には難しい。
本研究では、シナリオ・オブジェクト指向・プログラミングのプロセスを踏まえて、より簡単にアイディアをデジタルコンテンツとして表現することを支援する教材を制作したい。

研究目的

本研究では、デジタルメディアデザインの初心者である2004年度デジタルコミュニケーション入門の受講者を対象としたインタラクティブムービー制作支援教材"STORY BLOCK"の開発を主目的としている。
また、STORY BLOCKの開発を通じて21世紀における表現言語教育ともいえる
  • シナリオに基づくインタラクティブメディア制作方法
  • オブジェクト指向分析・設計方法
の教育法を模索することを目指したい。

研究成果について

下記、報告書の中でリンクされているデジタルコミュニケーション入門の授業サイトのコンテンツはSFC-CNS外からのアクセスにはパスワードが必要になります。
パスワードは、ユーザー名:dcg パスワード:2004 になっています。

成果の要約

ユビキタスメディアは、日常世界の中のモノにコンピューターが埋め込まれ、人間とセンサーとアクチュエイターを通じてインタラクションし、さらにネットワークを通じてコミュニケーションするメディアである。デジタルコミュニケーション入門は、そのようなメディアを制作する21世紀のモノづくり術を教えることを目的としており、その教育手法の一環として、シナリオをオブジェクト指向で分析し、インタラクティブムービーコンテンツとして表現することを支援する教材STORY BLOCKを制作した。
本教材の開発を通して、メディアデザインの入門者が、オブジェクト指向の初歩をユビキタスメディアのデザインと並行して理解するためのTIPSやチュートリアル、お手本となるモデルコンテンツを制作した。
また、実際の授業においてSTORY BLOCKを配布したところ、最終発表会では全33チームがコンテンツを発表し、魅力的にそのアイディアが表現された。
そして、最終発表の中では映像での表現だけでなく、モックアップを用いた寸劇を行うチームも現れたことから、新たなのSTORY BLOCKの方向性を考えさせられた。
以下にその詳細を述べる。

StoryBlockの設計実装

設計コンセプト

STORY BLOCKは、シナリオをオブジェクト指向で分析し、インタラクティブムービーコンテンツとして表現することを支援する教材である。
現在、version0.8を最新版として受講者に向けて配布した。
→ DOWNLOAD STOLY BLOCK version0.8

STORY BLOCKでコンテンツを作るためにはシナリオが必要である。フィールドワークなどのコンテキスト調査を踏まえた上で、アイデアを作りそれをアラン・クーパーの『コンピューターは、難しすぎて使えない!』の中で紹介されているペルソナ法を使ってシナリオにする。シナリオの作り方は授業の中で教える。
このシナリオをオブジェクト指向で分析することが、STORY BLOCKのコンテンツを作る第一歩であるが、従来のソフトウェア設計の際のオブジェクト指向分析では、シナリオの中からコンピューターの中の話である問題領域のみを抽出し分析する、しかし、STORY BLOCKのためのオブジェクト指向分析は、シナリオの中で表現されている世界全体を分析することがポイントである。つまり、シナリオに登場するオブジェクトや人物が起こすアクションがメソッドになり、その属性がプロパティとなる。
上記のように登場人物のアクションなどをメソッドとしてシナリオをオブジェクト指向分析をしていくと、シナリオの中でシーンが分けられるので、それぞれを映像クリップとして用意する。これをインタラクティブムービーコンテンツとして結びつけることができるのが、STORY BLOCKである。この際のプログラミングは、先のシナリオのオブジェクト指向分析をもとに、STORY BLOCKのインターフェースを使って行う。具体的な方法を以下に紹介する。

StoryBlock はMacromedia 社のFlash を元に開発している。Flash は、様々な表現が可能なソフトであるが、初心者のオブジェクト指向設計とプログラミングの導入としては多少ハードルが高い。StoryBlock はオブジェクト指向プログラミングという部分に焦点をあて、Flash によるコンテンツ作成を支援するように設計しる。
StoryBlock0.8 では、
  • 映像を読み込むためのムービークリップオブジェクト
  • 読み込んだ映像を操作するためのAPI
  • ストーリーの単位となるムービークリップオブジェクトを操作するAPI
を用意している。

Story Blockの基本的概念として、次の3つがある。
  • ClassMC
  • AttachMC
  • Button
ClassMCとは、シナリオをオブジェクト指向分析することによって抽出されたクラスをFlashのムービークリップシンボルにしたもので、各ClassMCは外部のASファイルと結びつけさせることが必要である。
AttachMCとは、シナリオのシーンを表現する映像や画面をFlashのムービークリップシンボルにしたものである。AttachMCは、moviesフォルダの中の映像SWFファイルと結びつけることが可能である。
ButtonはAttachMCの中で、クラスMCのもつメソッドを呼び出すために使う。
図にすると次のようになる。



上記の3つ概念を理解した上で、StoryBlockでコンテンツを制作するとフォルダの中は次のような構成になるのが一般的である。



モデルコンテンツのKUUCAMを例にそれぞれのファイルやファイルがどのような役割を持つのかを説明する。
フォルダ
  • lib

  • StoryBlockのプログラムが入っているフォルダです。基本的に触らない。
  • movies

  • 映像ファイルを入れておくフォルダ。
ファイル
  • kazoku.as とkuucam.as

  • 各ClassMCと結び付けられているASファイル。クラスのプロパティやメソッドが書いてある。
  • kuucam.fla

  • コンテンツのFlashファイル。ユーザーが主に編集するのはこれ。
  • kuucam.html とkuucam.swf

  • コンテンツのHTMLとSWFファイル。Flashファイルを元にこれらのファイルが書き出される。
  • change.txt
  • StoryBlockのヴァージョンアップ情報が書かれている。
ユーザーが主に編集するのは、Flashファイルで、その中でmoviesフォルダの映像SWFファイルをASファイルに書いてある情報で結びつけながらコンテンツを作り、最終的にSWFファイルとHTMLファイルに書き出す、というのがStoryBlockの基本概念である。

スクリーンショット

STORY BLOCKの開発画面のスクリーンショットは以下のようになる。



STORY BLOCKのインターフェースとして、もとから映像の再生、巻き戻しなどのコントロールや、映像クリップの履歴の表示欄を設けている。
中央のステージは、ユーザーが自由に表現を行える場所になっている。その下にある、アイディア、シナリオ、設計図、メンバーのボタンは、コンテンツの詳細記述の表示ボタンになっている。
Flashのライブラリ機能を使ってSTORY BLOCKのAPIを使える教材コンポーネントをユーザーが自由に使えるようにしている。
例えば、下図の場合、映像クリップをロードするための教材コンポーネントをユーザーがライブラリからステージに載せることができる。



最終的にSWFファイル書き出されたコンテンツの状態のスクリーンショットは以下のようになる。

API一覧

STORY BLOCKには実際にプログラミングで映像を操作するAPIがある。
StoryBlockのAPIには大きく分けてAttachMCManagerのメソッドとLoadSWFイベントハンドラの2つがある。この2つのクラスのメソッドを中心に、StoryBlockを使ったコンテンツ制作者が使用可能なAPIを解説したページが授業ページに載っている。
→ STORY BLOCK API

モデルコンテンツ

開発チームは、受講生への配布を前にSTORY BLOCKを使ってどのようなコンテンツを作ることができるのかを伝えるためにモデルコンテンツを作成した。
モデルコンテンツKUUCAMは、食卓の電灯に埋め込まれたカメラが、「いただきます」の声に反応して食卓の料理のポストカードを作ってくれるユビキタスアプリケーションである。モデルコンテンツは、このアプリケーションを使うユーザーのシナリオをインタラクティブムービーとして表現している。
→ モデルコンテンツ:KUUCAM

モデルコンテンツ製作プロセス

また、開発チームは、モデルコンテンツの制作プロセスも記録・公開し、STORY BLOCKの制作に役立てるようにしている。
→ モデルコンテンツKUUCAMの制作プロセス

デジタルコミュニケーション入門での実証実験

デザインプロセスを教える授業の演習としての導入

デジタルコミュニケーション入門は、ユビキタス社会におけるコミュニケーションメディアのデザインプロセスを教える授業である。
授業は講義と演習の2部構成になっており、前半の講義ではメディア論やデザイン論などのユビキタスメディアデザインの哲学的な面を講義し、後半の演習では実際にメディアを制作するための、調査、分析、設計、実装を行った。
演習科目の前半の調査の段階では、デザイナーとしての経験拡大のためユーザーエクスペリエンス調査に行き、調査結果をドキュメンタリービデオとして発表して貰った。デジタルコミュニケーション入門は、メディアデザインの入門者を対象としており、まず彼等にフィールドに出て経験拡大をさせることを重要視し、授業の前半分をそれに費やした。また、ドキュメンタリービデオを作ることで、最終成果物であるSTORY BLOCKのインタラクティブムービーを撮るためのDTV(Desk Top Video)の技術獲得にもなった。
そこでの経験をもとに、アイディアを作り、そのシナリオを作成する。ここでSTORY BLOCKを受講者に配布し、オブジェクト指向分析・設計・実装を行うことにより、インタラクティブシナリオムービーを作り最終成果物として発表してもらった。
STORY BLOCKによる実装を行うことで、受講者はメディアデザインのプロセスの中で重要な考え方の一つである、オブジェクト指向の初歩をプログラミング初心者でも理解することができた。また、実際にダイナミックなアプリケーションを作ることで、これまでの画や図やインテリアなど静的なモノのデザインではなく、動的なモノを作りきった、という体験を受講生にしてもらえたことは大きな成果であった。

Web上での公開(授業Web)

デジタルコミュニケーション入門では、授業ページの充実を徹底した。
STORY BLOCKに関するコンテンツはもとより、教授陣の授業メモや動画もすべてアーカイブしている。
なお、授業ページはSFC-CNS外からはアクセス制限がかかっている。

デジタルコミュニケーション入門授業WEB

STORY BLOCKに関するコンテンツは、全て下記のサポートページにまとまっている。
→ Flash Kit(Story Block)のページ

主立ったコンテンツを紹介する。
これら以外にも、様々なTipsを載せている。受講生には大きく役に立ったようだ。

最終発表の様子

2004年7月16日にθ館で行われた最終発表会では、様々なユビキタスメディアのアイディアがSTORY BLOCKのインタラクティブムービーコンテンツとして表現された。
下写真はその様子である。













また、いくつかのチームは下記写真のようにSTORY BLOCKだけの表現では飽きたらず、モックアップなどを作成して寸劇を行って表現するチームも見受けられたのが注目すべき点であろう。これに関しては、考察と今後、の章で述べたい。



受講者が作ったコンテンツ

デジタルコミュニケーション入門の授業では、履修した33チーム全てがコンテンツをアウトプットすることができた。下記ページに全ての発表コンテンツをまとめている。

→ 受講生が作ったSTORY BLOCKコンテンツ

アンケート結果

授業終了後、受講生に対してSTORY BLOCKに関するアンケート調査を行った。
「STORY BLOCKは簡単であったか?」という質問に対しては、ほとんどの回答が「難しかった。」とのことであった。
また逆に、「このまま商品化しても良いと思う。」、「他の用途にも使えるのでとても便利だ」との回答もあった。

考察と今後へ

今回の授業では、開発チームもTASAとして受講生にSTORY BLOCKの使い方を教えていたが、丁寧に使い方を書いたチュートリアルや、サポートページ、モデルコンテンツの製作プロセスなどから基本的な使い方は伝わったようである。
そしてなによりも、33チーム全てが最終発表でコンテンツを発表できたことが、一番の成果と言えるであろう。オブジェクト指向分析・設計に関しても最低限のオブジェクト指向の基本要素であるシナリオからのクラス抽出、メソッド・プロパティの抽出の概念が理解できていたということである。
アンケートではほとんどの人が難しい、と回答している。その意見を真摯に受け止め今後より簡単なインターフェースに改良する余地はあると考えるものの、全員がコンテンツをアウトプットすることができたことから、適度な難度であったとも考えられる。

STORY BLOCKを用いてシナリオから、オブジェクト指向分析をして、インタラクティブムービーコンテンツとして実装することが、オブジェクト指向を学ぶ上で適していることが今回の開発を通して分かった。

一方で、最終発表中にSTORY BLOCKの表現に飽きたらず、実際に自分たちが考えたユビキタスメディアのモックアップを持ち出して舞台上で寸劇をはじめたことから、ユビキタスメディアのアイディアを表現するためには、ムービーではなくやはり実際のモノで表現したいと思われる。今回、新1年生が対象ということで、まずはシナリオムービーによる表現と考えたが、実物のモノで表現できるツールキット・教材を作って新1年生でもモノで表現できるような環境を整えてあげたい、というモチベーションが開発チーム一同に沸き起こった。このモチベーションを次なる教材開発につなげたい。

2005年2月28日 STORY BLOCK開発チーム

成果物一覧

成果物の多くは、デジタルコミュニケーション入門の授業WEBから見れるようになっている。
デジタルコミュニケーション入門授業WEB
(SFC-CNS以外からのアクセスにはパスワード制限をかけている。)

以下に、成果物へのリンクを列挙する。