2005年度学術交流支援資金による研究助成

海外の大学等との共同学術活動支援

「制度変革・政策移転の理論と実証に関する国際共同研究(Project No.1-12)」

慶應義塾大学総合政策学部教授

香 川  敏 幸

【活動内容】

2005年7月25日~7月30日:                        

7回中・東欧研究国際学会

World Congress of International Council for Central and East European Studies

大会テーマ「Europe – Our Common Home?

大会事務局 CTW – Congress Organisation Thomas Wiese GmbH
Hohenzollerndamm 125
 14199 Berlin Germany

 2005725日から2005730日にかけて、ドイツの首都ベルリンにあるフンボルト大学(Humboldt University)を会場として開催された。5年に一度開催される本学会では、2003年のEU東方拡大を踏まえ、拡大EUと新たなEUの周縁となったロシア、ベラルーシ、ウクライナに焦点が当てられた。このことは、副題が”Europe – Our Common Home”と題されていることでも明らかである。

当学会において、本研究構成員5名(グルカ・ロシェク・グラボフスカ・香川・市川)は、2003年の森基金(国際)での環境政策統合に関する研究の最終的な発表を行った。

Panel No.・.8

”The Influence of Environmental Protection Policies on Industry, Transport and Agriculture Development Programmes in the New EU Member Countries”

当パネルの目的は、体制移行期ポーランドにおいて、環境政策そのもののみならず、産業政策・運輸政策・農業政策といった他分野の政策において、どのようにして環境配慮が組み込まれていったのかを概観し、ポーランドの持続可能な発展に向けた取り組みを評価し、今後の指針を提供することにある。

チェア:香川敏幸(慶應義塾大学総合政策学部教授)

クシメナ・ロシェク(Ksymena Rosiek クラクフ経済大学講師)

“Changes in Poland’s Industrial Policy Resulting from System Transformation”

モニカ・グラボフスカ(Monika Grabowska ヴロツワフ経済大学)

“Changes in Environmental Policy in Poland Resulting from System Transformation”

市川顕(慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程)

“Changes in Poland’s Transport Policy Resulting from System Transformation”

コメンテータ:カジミエシュ・グルカ(Kazimierz Gorka クラクフ経済大学産業・環境政策学科学科長・教授)

なお、当発表と前後して、2005年度より体制移行諸国における制度変革・政策移転に関する研究を共同で立ち上げることに合意し、9月に市川顕(慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程)がポーランドを訪問し意見交換・勉強会を実施、10月にORF http://orf.sfc.keio.ac.jp/ にてポーランド側の制度変革・政策移転に関する論考の発表をおこない、更には今後の協力関係の更なる強化に向けた方針の確認を行うことで合意した。

2005年9月21日~30日:                          

国外フィールドワーク(ポーランド・ウクライナ)

出張者:市川顕(政策・メディア研究科後期博士課程 博士候補)

主旨:

連携先大学との制度変革・政策移転に関する共同研究・現状報告および2005112223日に六本木ヒルズで開催されるORF http://orf.sfc.keio.ac.jp/ 国際シンポジウムの打ち合わせ(クラクフ経済大・ヴロツワフ経済大)。

クラクフ経済大学 http://www.ipo.ae.krakow.pl/

ヴロツワフ経済大学 http://www.ae.wroc.pl/

   EU拡大のポーランド環境政策への影響に関する調査

ポーランド環境省 http://www.mos.gov.pl/index_main.shtml

ポーランド国家環境基金 http://www.nfosigw.gov.pl/site/index_en.php

マゥオポルスカ県環境基金

   ポーランドの体制移行期の環境政策における経験が、ウクライナの環境政策へ伝播している現状に関する調査

ウクライナ日本大使館 http://www.ua.emb-japan.go.jp/

ウクライナ環境省 http://www.menr.gov.ua/index.php?lng=eng

2005年11月23日:                             

SFC Open Research Forum  2005 at Roppongi Academy Hills 40F C-2

http://orf.sfc.keio.ac.jp/

「超地域・超領域のガバナンス」研究プロジェクト

「知の底力は時空を超えるか-地域研究の諸相を抉る-」

このワークショップ開催のため、研究パートナーである2大学のポーランド側研究者(学長1名、教授1名、講師2名)を招聘した。

議長 香川敏幸 慶應義塾大学総合政策学部 教授

稲垣文昭 慶應義塾大学 SFC研究所上席所員(訪問)

「超地域・超領域のガバナンス」研究プロジェクトについて

 本年香川研究室のかかえるプロジェクトについての整理と、当ワークショップの意義について。

Bogusław Fiedor ヴロツワフ経済大学 学長

「市場経済移行への理論的分析基盤としての新制度学派経済学」

 ポーランドの1989年以降の移行経済について、新制度学派経済学が理論的分析基盤として有用であることを提示した。

Ksymena Rosiek クラクフ経済大学 講師

EU法へのポーランドの環境政策の適用の影響」

 ポーランドのEU環境アキ・コミュノテールの受容の過程を詳細に検証した論考。ポーランドの国内制度とEUの環境法との接合の困難と今後の可能性について論じる。さらに、この種のポーランドの経験が今後南東欧およびウクライナ・中央アジア諸国へと伝播する可能性についても触れた。

Monika Grabowska ヴロツワフ経済大学 講師

「ポーランドのEU加盟後の企業に対する環境要件」

 ポーランドにおける環境要件が、企業の負担であるとされた1990年代から、EU加盟後には環境要件が企業の競争力となると考えられるようになった現在までの流れを概観した。

Kazimierz Górka クラクフ経済大学 教授

「ポーランドとウクライナの経済関係」

 体制移行期ポーランド経済について概観するとともに、増加するウクライナとの経済交流について、経済制度の東方への伝播という側面から概観した。今後特にポーランド経済におけるウクライナの役割が増加するとの見解がしめされた。

2005年11月24日:                             

ポーランド側研究者、慶應義塾大学国際戦略センター表敬訪問。

慶應義塾大学OGI(国際連携推進機構) http://www.ogi.keio.ac.jp/ にて、本塾坂本理事とカジミエシュ・グルカ(Kazimierz Górka)クラクフ経済大教授、ボルスワフ・フィエドロ(Bogusław Fiedor)ヴロツワフ経済大学学長、クシメナ・ロシェク(Ksymena Rosiek)クラクフ経済大学講師、モニカ・グラボフスカ(Monika Grabowska)ヴロツワフ経済大学講師が表敬訪問。今後の義塾=クラクフ経済大学およびヴロツワフ経済大学間の正式な協力関係の可能性を今後模索することで合意し、詳細については各大学に持ち帰った。

これについては、OGIWebsiteの以下の記事参照のこと。

http://www.ogi.keio.ac.jp/visitors-poland.html

2006年2月17日:                              

ワークショップ開催「地域変容の諸相-EUから旧ソ連へ-」

於 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス ゲストハウス セミナールーム

Oleksandr Rogach教授

Prof. Kyiv National Taras Chevchenko University Institute of International Relations

http://www.fld.univ.kiev.ua

http://www.iir.kiev.ua/

“EU Integration Strategy of Ukraine: Impact on Regional Policy and Co-operation”

1991年以降のウクライナの外交政策を概観し、ロシアとEUのはざまでリージョナル・リーダーとしての役割をウクライナが果たしうるかどうかについて検証した論考。特に、中央アジアからEUに至る運輸回廊やエネルギー回廊が建設されることにより、ウクライナと中央アジア諸国との関係の密度が高まることから、政策普及が今後大幅に進むのではないかとの見解を提示した。

Oleg A. Vusatyuk 博士

Ph.D., State Expert of National Institute of International Security Problems

“The Researcn Methodorogy of the Geopolitical Region”

Shadow Flowの概念を提示し、欧州地域および欧州諸国の変容の底流には表層に出てこないが確かに流れているShadow Flowという要因を分析することが重要であるとの論旨。地政学的に欧州からウクライナ、中央アジアへの地域変容の波を分析することを提案し、今後の制度変革・政策普及研究への可能性を提示した。

【この研究助成による成果】

【論文】

市川顕(2006)、「体制移行期ポーランドの環境改善における環境基金の役割に関する考察」、『ロシア東欧研究』、第34号、2006.3.掲載予定。

市川顕(2005)、「体制移行・環境政策・政策情報学」、『政策情報学会Newsletter』、Vol.4.

Akira ICHIKAWA(2005), “Japanese Environmental Policy: Towards Public-Private Partnership”, in Famielec, Józefy(2005)ed., Finansowanie ochrony środwiska w Polsce w warunkach osłabienia finansów publicznych, (Krakow, Akademia Ekonomiczna w Krakowie), pp.129-135.

【学会報告】

2005.10.16 市川顕、「体制移行期ポーランドの環境改善における環境基金の役割に関する考察」、ロシア・東欧学会、於西南学院大学。

2005.9.17. 市川顕、「体制移行期ポーランドにおける環境政策」、ヨーロッパ研究会、於慶應義塾大学三田キャンパス、グローバル・セキュリティ・センター(G-Sec)

2005.9.10. 市川顕、「環境地域モデルとしてのバルト海」、日本計画行政学曾第28回全国大会、於名古屋産業大学尾張旭キャンパス。

2005.7.28, Akira Ichikawa, “Changes in Poland’s Transport Policy Resulting from System Transformation”, Panel.No..8, ”The Influence of Environmental Protection Policies on Industry, Transport and Agriculture Development Programmes in the New EU Member Countries”, ICCEES2005(International Council for Central and East European Studies), Humboldt University, Berlin, Germany.

【今後の研究の発展可能性】

本研究は、EUの制度的枠組および政策が、中東欧諸国・バルト三国を経てウクライナへと普及するプロセスをモデル化するとともに、そのプロセスがより東方(旧ソ連諸国)へと波及する可能性を考察することを目的としていた。このことは、特に既存の移行期ウクライナの国際関係に関する研究が、主にウクライナ=ロシア関係を中心に行われてきたことを考えるに、ポーランドからの西側からの視点を導入するという新規性を有していた。この視点の有効性については、ポーランド側、ウクライナ側の両研究者からも確認されており、今後いっそう深めていく重要な課題である。その意味で、我々の共同研究は、ポーランドおよびウクライナの研究機関や学者・専門機関研究員とのネットワーク構築を果たした現在、その端緒についたといえる。

また、西側からの制度変革・政策普及という移行研究の最先端の研究テーマについては、今後共同研究活動の継続を踏まえ、国際学会での報告が行われる。本研究メンバーによるクラクフ経済大学、タラス・シェフチェンコ大学の紀要への投稿も準備段階に入っている。

学術交流の観点からは、グルカ教授(クラクフ経済大学)およびフィエドロ学長(ヴロツワフ経済大学)のOGIへの訪問により、義塾とポーランドの両大学との協力関係が始まる契機を提供することができた。この意味において、学術交流基金の趣旨を果たしえたと言えよう。