学術交流支援基金 2005年度報告書
研究課題名:

国際人間工学データベース"EKIDES"の日本語版作成

研究者氏名: 福田亮子(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)
Dr. Iwona Jastrzebska-Fraczek(ミュンヘン工科大学人間工学研究室研究員)

目的

本研究の課題は、人間工学の分野でヨーロッパのみならず国際的にも先導的な役割を果たしているミュンヘン工科大学において作成された、人間工学に関するデータベース”EKIDES”の日本語版の制作である。制作にあたっては単なる翻訳にとどまらず、日本の人間工学に関する規格・ガイドラインの内容を大幅に加味することによってわが国の人間工学の充実と発展に寄与することを意図する。

EKIDESの概要

EKIDESはMicrosoft Accessで作成されたデータベースシステムであり、基本モジュール、生産システムへの応用モジュール、製品への応用モジュール、評価モジュール、データ検索機能、ライブラリの6つのモジュールから構成される。基本モジュールでは人間工学全般に共通する基本的要件をタスク分析、環境要素、技術的要素、取扱説明書と操作における指示の与え方という4つの領域に分けて整理すると共に、人体計測データ も提供する。生産システムへの応用モジュールおよび製品への応用モジュールは材料加工、プロセス操作、プロセス監視、VDT作業、組立作業、建設作業等の各生産システム や自動車、ソフトウェアといった製品特有の 設計要件を提供している。評価モジュールでは利用者自身が作業場や製品の人間工学的な検査をできるよう、上記データに基づいたチェックリストや各種作業における生理的負荷の分析ツールが用意されている。 収録データは7000件近くに及ぶが、全データはキーワードやテーマ別、規格の種類などにもとづいて検索することができ、当該データベースに収録されている用語は用語集として解説とともにまとめられている。このデータベースはすでにドイツ語圏を中心とする多くの研究機関やメーカーに利用されている。

2005年度の成果

データベースのプログラミング

本年度も昨年度に引き続き3ヶ国語に対応するためデータベースのプログラミング作業を行った。2005年8月下旬に福田が渡独し、Dr. Fraczekと共に 以下のような日本語用ページの作成・編集作業を行った。

その他、通常のメールでの共同作業では確認できなかった部分に関しても、滞在中の議論によりすべて解決した。滞在期間中に終了しなかった作業 は帰国後に続行し、プログラミング作業はほぼ終了した。

内容に関しては、製品への応用モジュールに新たに自動車内のインフォテインメント(ナビゲーションシステムと一体化したもの)に関するデータを追加した。 また、製品への応用モジュールに含まれているソフトウェアデザインで留意すべき事項をまとめたページに関しては、議論の結果その内容を見直しさらにわかりやすいものにする必要があるとの結論に至ったため、現在改訂作業を行っているところである。

図1:データシートの例(3ヶ国語表示)
このデータシートは翻訳作業用オープンバージョンのものであるため、製品バージョンではデータ編集用のボタンや画像挿入用のボタンは削除されることとなる。また、ドイツの国旗をクリックするとドイツ語のみが、イギリスの国旗をクリックすると英語のみが、日本の旗をクリックすると日本語のみがそれぞれ表示される。言語の切り替えはどのページでもできるようになっている。

図2:生理的負荷の計算を行うモジュール
作業者の特性や作業条件を設定することにより、作業時にかけることのできる負荷の上限値が算出される。算出したデータはすべて保存することができる。

日本語への翻訳作業ならびに日本語データの整備

翻訳作業も続行している。データベースの操作に関わる日本語ラベルについてはプログラミング作業の中で翻訳を行い、現在は完了している。またデータベースに収録されているデータ については数名の学生その他の協力を得て翻訳を進めており、現在、基本モジュールは30%、製品への応用モジュールは65%、評価モジュールは25%の翻訳が終了している。

ユーザーインターフェイスの評価

EKIDESのユーザーインターフェイスの評価に関し、外部の人間工学の専門家数名に現在の製品バージョン(ドイツ語と英語のみ利用可能)を1年間試用していただい た。試用後、問題点や改善すべき点について詳細な報告をいただく ため調査票を送付したが、現段階で回答があったのは1名のみである。 その1名からのフィードバックは概ね肯定的なものであったが、部分的に改善を要するとのコメントが寄せられた。以下にそれをまとめる。

以上のコメントは今後反映させていく予定である。

成果の発表

本研究プロジェクトの内容については、2005年7月22日から27日にアメリカ・ラスベガスで開催されたHCI (Human Computer Interaction) International 2005のセッション"Cultural differences and Ergonomics Design"で"Skills from development of trilingual Ergonomics Knowledge and Intelligent Design System 'EKIDES'"というタイトルで招待講演 を行った。当該セッションはタイトルどおり人間工学における各国間・異文化間の比較を行った研究発表が多く、参加者の関心も大変高かった。3ヶ国語にとどまらずさらに4ヶ国語、5ヶ国語と拡張してほしいという希望や、各国の規格・ガイドラインを一覧できるようにし比較検討することの重要性を指摘する声が寄せられた。

また2005年10月4日には、「日本におけるドイツ年」の行事の一環として東京大学本郷キャンパスにて開催されたミュンヘン工科大学のシンポジウム"Frontier Science"のセッション"Human-Machine Systems"において、"Development of a Trilingual Ergonomics Database System 'EKIDES'"と題した講演を行った。 このセッションの参加者は人間工学以外の分野を専門とする研究者が大半であったが、人間と機械のインタラクションを扱う上で人間工学的見地からの検討の重要性が改めて認識されるとともに、このシステムを使ってみたいという声もあり、高い関心が示された。

今後の展望

今後も引き続き翻訳作業と日本の人間工学データの収集を行い、データは順次オープンバージョンに収録する。ユーザーインターフェイスについては外部評価者からのフィードバックが揃った段階で、必要に応じて改良する予定である。内容に関してはまず現在収録されているデータの翻訳作業を優先し、さらに多くの協力者を得て来年度末を目処に完成させることを目指したい。日本独自のデータ(規格・ガイドラインその他)については調査を進め、できるものから入力を行う。製品バージョンとしての形をできるだけ早く整え、日本国内への普及を目指す。