2005年度 学術交流支援資金 報告書 プロジェクトNo.1-2

研究題目『2004年スマトラ沖地震災害における復興住宅の建設フィールドワーク』

研究代表者 環境情報学部教授、政策・メディア研究科委員 坂 茂

<はじめに>

 2004年12月26日に発生したスマトラ沖大地震およびインド洋津波の復興支援活動に関わってから早一年。劣悪な環境の仮設住宅で暮らす被災住民のための恒久住宅の建設が進み、ようやく復興の兆しが見え始めたところである。慶應義塾大学(SFC)坂茂研究室が継続的に取り組んでいるスリランカ南岸のイスラム系漁村であるキリンダ村の復興住宅建設フィールドワークの報告を行う。

写真1:津波直後の様子

<キリンダ村における復興支援活動>

 モンスーン・シーズンの合間を縫って2005年10月から11月、坂研究室の学生と現地モラトゥワ大学のランドスケープ系学生とがキリンダ村において復興支援ワークショップを行った。復興住宅のブロック積みや植樹などの作業を、学生たちが現場職人たちの指導の下で協力して行い、それらの作業を通して設計の改善点を洗い出し、次期フェーズの復興住宅の設計へとフィードバックさせることが大きな目的であった。今回のように建設期間が何フェーズにも分かれた復興支援活動においては、こうした検証・更新作業が重要である。こうしたワークショップを経て進められている約80棟ある復興住宅の設計意図や植樹活動の特徴は以下の通りである。

1)    津波被害にあった漁民に対して、その生活基盤である海からは遠ざけずに従来住んでいた地域に、元々の「敷地割り」を尊重した全体計画としている。政府や国内外のNGOが進める復興住宅の多くが、「転地」—すなわち新たに内陸部を開拓した地域—に建設されており、画一的で無味乾燥な街並みが増えつつあるが、それを少しでも是正したいと考えている。

2)    強い日射を遮る屋根だけの架かった半外部空間を建物の中心部に取り込んだ平面計画としている。赤道から程近い現地では、日陰での生活が欠かせない。そこで現地では通常、母屋から離れて設置されるトイレや台所などの水回り空間を一つ屋根の下に取り込み、母屋と水回り空間の間の部分を半外部空間としている。また母屋と半外部空間とは折れ戸によって空間的に緩やかに連続している。

3)    建設技術には卓越していない漁民でも、復興住宅の建設プロセスの一部を担えるような工法を住宅に採用している。すなわち簡単に垂直に積み上げることのできるCEB(Compressed Earth Block)と呼ばれる凹凸のついた(玩具のレゴのような)ブロックを壁面に採用することで、津波によって失業した漁民も積極的に雇用できる仕組みとしている。また大規模災害後の建材コストの高騰を考慮して、一般住宅のブロックとしてはまだ普及していない現地生産の可能なCEBを採用している。このように現地で調達できる建材と労働力を組み入れたプレファブ化は特に重要である。

4)    建設精度と工期の短縮を考慮した建材と工法を復興住宅に採用している。すなわち現地のタイヤ産業に着目して、通常は建材として使用されないゴムの木を「家具ユニット」の建材としている。それらは家具工場で製作後、現地に持ち込まれるので、精度を良質に保てるほか、現場で積むCEB造の壁の間にその「家具ユニット」を壁の一部として挟み込むことで、工期の短縮も図っている。

5)    建物周辺には数種類の熱帯植物の植樹をし、街路樹を植えて、ランドスケープの再生を試みている。その際、敷地内にある小学校の子供たちに植物への水遣りなど継続的な協力を依頼して生育を見守っている。

写真2:復興住宅のモデルハウス2棟

写真3:建設支援フィールドワークの様子

<大規模災害におけるコミュニティのあり方>

 仏教国スリランカにおけるイスラム教徒の割合は8.5%程であるので、今回の活動はスリランカではマイノリティの人々のための復興支援活動でもある。ただしマイノリティであるがために、キリンダ村にはイスラム教徒たちの強いコミュニティが津波被災以前よりあり、そのことが今回の支援活動ではプラスとなっている。通常は調整の困難な大規模災害後の「敷地割り」も、そのモスクを束ねる酋長の協力によってスムースに行うことができ、また部分的に修復されたモスクが、被災住民たちと支援活動を行う我々との情報交換を行うコミュニティセンターとしても機能している。復興住宅のモデルハウス2棟が完成した折、新モスクの設計依頼があり、今回のワークショップの合間を縫ってプレゼンテーションを行ったが、模型や図面を取り合いながら喜びの表情を浮かべる村民たちを見て、キリンダ村の再建支援活動に協力できていることを嬉しく思った。今後も坂研究室では現地住民たちとの対話を尊重しながら、本当の意味での復興支援活動を続けていきたい。

写真4:モスクでのプレゼンテーションの様子

写真5:最新のキリンダの様子(2006年2月撮影)

<研究組織>

環境情報学部 教授 坂 茂(*)

政策・メディア研究科 助手 松本 淳(*)

政策・メディア研究科 博士課程1年 原野 泰典(*)

政策・メディア研究科 修士課程1年 落合 由佳(*)

環境情報学部 4年 神園 紘範(*)

環境情報学部 4年 佐野 文香

環境情報学部 4年 前島 隆行(*)

環境情報学部 3年 久間 哲二郎(*)

環境情報学部 3年 下山 沙織

環境情報学部 3年 末舛 優介(*)

環境情報学部 3年 武藤 真奈(*)

環境情報学部 2年 内田 久恵

環境情報学部 2年 鈴木 絵美里(*)

環境情報学部 1年 菊池 創太

なお(*)現地派遣メンバー 以下はアドバイザー

政策・メディア研究科 博士課程2年 和田 菜穂子

政策・メディア研究科 修士課程2年 相田 麻実子

 

このプロジェクトへのお問い合わせは下記へお願い致します。

政策・メディア研究科 博士課程1年 原野 泰典

yas@sfc.keio.ac.jp