学術交流支援資金:電子教材作成支援(2005年度) 報告書
3-2「企業と市場のシミュレーション/モデリング・シミュレーション入門」(井庭 崇)
近年、多くの大学・大学院において、複雑系や進化などの複雑現象に関する授業が行われ始めている。これまでにテキストもいくつか出版されており、私自身も『複雑系入門』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998)を執筆して、授業の教科書として活用してきた。しかし、複雑現象では直感に反するような振る舞い・結果になることが多いため、単に現象や理論を説明するだけでは、深い理解につながらないという問題がある。
そこで本プロジェクトでは、「説明を聞いて理解する」という受動的な教育方法から、自らがシミュレーションを「動かして理解する」という能動的な方法へと変えるための教材を開発することに取り組んだ。開発した教材は、大きく分けて、「シミュレーション実行による学習の教材」と「シミュレーションモデル作成の教材」に分けられる。
【本プロジェクトで開発した教材一覧】
シミュレーション実行による学習の教材開発
シミュレーションモデル作成の教材開発
PlatBox SimulatorおよびComponent Builderは、6年ほどの年月をかけて慶應義塾大学総合政策学部 井庭崇研究室/PlatBox Project (Boxed Economy Project)が大岩元研究室の協力のもと開発したものであり、現在、無料で公開している(http://www.platbox.org/)。このシステムの画期的な機能としては、いわゆるプログラミング言語によるプログラミングをせずに、モデル図を作成するだけで、コンピュータ・シミュレーションを作成できるという点である。社会をモデル化してシミュレーション実行することで、社会のしくみを理解したり、思考の枠を広げることができるようになるため、私たちは新しい思考の道具として位置づけ、自ら分析・研究で利用するとともに、その手法・ツールの普及の活動も行なっている。
【プロジェクト実施報告】
ガイドブック作成 (2005年春)
2005年3月上旬〜2005年3月末の約1ヶ月間、「PlatBoxパーフェクトガイド」シリーズの各種ガイドブックを作成した。これは、PlatBox SimulatorおよびComponent Builderの考え方や使い方に関するガイドブックである 。具体的には、操作方法がまとめられた「マニュアル」、具体的なモデルを用いて学ぶための「チュートリアル」、詳細な情報や一覧がまとめられた「リファレンス」がある。このガイド一式によって、PlatBoxのツールに関する操作や情報をほぼ網羅することができている。
■成果物
●Designers' Guide to Social Simulations, No.1『PlatBox Simulator マニュアル』(全70ページ)
●Designers' Guide to Social Simulations, No.2『Component Builder マニュアル』(全80ページ)
●Designers' Guide to Social Simulations, No.3『モデル作成リファレンスガイド』(全100ページ)
チュートリアルガイド【第1版】作成 (2005年夏)
マニュアルやリファレンスなどの資料だけでは、シミュレーションモデルを作成できるようにはならない。そのためには、綿密に考えられた教育方法・手順に従った、別の教材が必要となる。この点を踏まえて、2005年7月中旬〜8月中旬に、チュートリアルガイドを作成した。作成するにあたり、学会や授業等でのチュートリアルセッションにおける初心者にもわかりやすいチュートリアルガイドの作成を目指した。
ここで一番重要となったのは、どのようなモデルをサンプルとして挙げるかである。複雑なモデルだと時間がかかり、分かりにくい。しかし一方で、簡単なモデルだと面白みに欠けるという問題もある。これらのバランスを考え、よりシンプルでかつ特徴的な動きを再現すること、ストーリーごとに区切って、段階ごとに学べるモデル作成を目指した。特徴的な再現というのは、情報のやりとりをシミュレーションに入れるということである。そこで生まれたのが、この『モデル作成チュートリアルガイド』に登場する「旅人モデル」である。また、旅人モデル作成を初心者でも独学できるようにすることを目指し、多く絵や図を入れたり、表現を柔らかくしたりなどの工夫を行った。こうして工夫に工夫を重ねた『モデル作成チュートリアルガイド』は完成した。
■成果物
●Designers' Guide to Social Simulations, No.4『モデル作成チュートリアルガイド』(全140ページ)
チュートリアルガイド【第2版】作成 (2005年秋)
2005年10月初旬〜2005年11月中旬に、『モデル作成チュートリアルガイド』の第2版を作成した。これは、2005年夏に作成した『モデル作成チュートリアルガイド』における誤植、分かりづらい点、及び見にくい点などを改良し、さらに学習効果を高めるための工夫を行なった。具体的には、章タイトルの改変、学習目標の設定、シミュレーションモデルのストーリーの作成、見やすくするための図や絵を追加した等である。
■成果物
●Designers' Guide to Social Simulations, No.4『モデル作成チュートリアルガイド 2nd Edition』 (全130ページ)
SFC授業「モデリング・シミュレーション入門」「探索的モデリング」での演習実施
URL:http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2005_19872
「モデリング・シミュレーション入門」受講人数:約100名
「探索的モデリング」受講人数:約30名
「モデリングシミュレーション入門」では、授業履修者約100名に対して、開発教材を用いたシミュレーション実行やモデル作成の解説を行い、実際に体験する演習を行なった。履修者の中にはパソコンの扱いを苦手とする学生も多くいたが、そのような学生でも、チュートリアルがわかりやすく説明も丁寧だったので、モデルを理解し作成することができた、という意見が履修後のアンケートで見られた。「探索的モデリング」においても、関連する内容のシミュレーション演習を行なった。