電子教材作成支援報告書:インタラクションデザイン

代表者

環境情報学部教授 奥出直人

授業ページ

インタラクションデザイン

研究背景

故マーク・ワイザーが提唱したユビキタスコンピューティングは、これまでのメインフレームコンピューターやパーソナルコンピューターの次に来る、一人の人間が多くのコンピューターを使う、という第三のコンピューターと人間との関係である。ユビキタスコンピューティングにおいて、コンピューターはモノや環境に埋め込まれ目に見えなくなるだろうとマークワイザーは述べている。様々なセンサー、アクチュエイターが環境に敷き詰められ、それらとインタラクションするコンピューター同士がネットワークでつながり様々なコミュニケーションが行われる。ユビキタスコンテンツとは、そのような環境において人間の経験を豊かにするモノである。そしてユビキタスコンテンツの設計には、インタラクションを生み出す様々なエレメント(電子部品、素材etc)の体系化された知識が必要である。20世紀的な電子機器にとっての電子部品や、モノにとっての素材に関してはそれぞれ体系化されているが、ユビキタスコンテンツとしてのエレメントのカタログはまだ無い。

研究目的

本研究では、ユビキタスコンテンツの製作を支援するユビキタスエレメントカタログを製作する。本授業のインタラクションデザインでは、受講者にユビキタス社会における人間を豊かにするモノのコンセプトを作りデザインし、そしてユビキタスコンテンツのプロトタイプとして表現して貰う。この時、受講者は設計にあたって、素材とその活用の知識を必要とする。それらはセンサーやアクチュエイターと言われる電子素材もあれば、人間が触れあう表面素材もある。またその裏側にはマイクロコントローラーやネットワークが存在する。ユビキタスコンテンツの設計にはそれらの知識を、自分が作りたいコンテンツに合わせて包括的に手に入れることが出来るメディアが求められる。本研究では、ユビキタスコンテンツのクリエーターが、自分の作りたいコンテンツに合わせた設計素材の知識を手に入れることができるカタログを製作する。

研究成果

今回作成したユビキタスコンテンツカタログは、インタラクションデザインの履修者の数や授業の進行具合を考慮して、手にとって見てもらえる冊子形式でのアウトプットをした。下記リンクからダウンロードが可能となっている。

PDF版ユビキタスエレメントカタログ(約68MB)

カタログ作成にあたっての設計

ユビキタスエレメントカタログの設計は、フォーカスを、コンテンツのデモンストレーションの材料や道具に対して、如何に多様なアイデアを与えアクセスをし易くするか、に当てた。以下、エレメントカタログ:はじめに より抜粋。
ユビキタス社会における未知なる経験作り出すデザイナーは、発見した経験を他者に伝えるためのデモンストレーションを作りあげることで作品を世の中に送り出します。そして来場者がデモを体験し、身を持って面白い経験を感じ取れたとき、真のプルーフ・オブ・コンセプトとなるのです。ユビキタスエレメントカタログは、そのようなデモの制作のヒントになることを詰め込んだ本です。過去の授業や奥出研究室で作られたデモンストレーションを分解し、どのようにコンセプトを経験として伝えたか、そのためにどのような技術を使ったか、どのようなインタラクションを実現したのかを知ることができるようにしています。皆さんのデモ制作の助けになれば幸いです。
カタログの構成は
  1. デモに使う技術的な要素を集めたエレメント集 P.2-28
  2. 実際に過去にコンセプトを伝えるデモを集めたデモ実例集 P.29-44
  3. デモの中で実現されたヒトからモノへの操作やインタラクションを集めたオペレーション集 P.45-48
  4. デモの中で実現されたモノからヒトの動作やインタラクションを集めたアクチュエーション集 P.49-52
の4つに分かれている。
それぞれの内容は、相互に参照しあっており、ユーザーは様々な切り口からデモ作成のヒントを調べることができるようになっている。
以下、エレメントカタログ:カタログの使い方 より抜粋。
デモの作り方の答えは一つではありません。コンセプトと同じようにデモでもオリジナリティを発揮することが必要です。まずは、自分達で理想的なデモをイメージしてみて下さい。
  1. 理想のデモがイメージできた時にデモってなんだ? という人は
  2. → まずデモ実例集を見て、イメージを沸かせてみてください。

  3. そのデモで使う技術的な要素はわかるのだが、どうやって使っていいかわからない。
  4. → 本誌の表紙側のエレメント引きを利用して、該当する技術があればその詳細や、実際にその技術を使って作られたデモへの参照を見てください。

  5. そのデモで実現したいインタラクションがあるのだが、どうやって実現すれば良いかわからない。
  6. → 本誌の裏表紙側のオペレーション・アクチュエーション引きを利用して、該当するインタラクションがあれば、参照しているデモを見てどのように実現しているのかを見てください。
    ただし皆さんの理想とは違う形で実現されている可能性も十分にあり得ます。ここでのやり方を鵜呑みにせずじっくりと考えて、理想的なインタラクションをどのようにしたら実現に向けて試行錯誤してみて下さい。その成果は、ゆくゆくこのカタログに載るかもしれません。

履修者からのフィードバック

授業終了後に履修者から、エレメントカタログについてアンケートをとった。履修者が少なかった事から、サンプル数としては不十分であるが、分かりやすさや知識レベルは適当だったようだ。配布した瞬間に、「これなら俺らにもできそう!」という反応があったのが印象的である。
特徴である検索に関しては、好評であった。
  1. エレメントカタログは、自分達のデモ制作に役立ちましたか?

  2. エレメントカタログをどのように使いましたか?

  3. 内容はわかりやすかったですか?

  4. 内容はデモを作成するのに適切でしたか?

  5. 現在どこに保管していますか?あるいは捨ててしまいましたか?

  6. 今後使用する機会はありそうですか?

  7. その他、改善点や感想などありましたらご記入ください。

今後の展望

今のところ、カタログは紙媒体であるが、データはデジタルで保管されているので、今後はWebなどでもアクセスすることを可能にしたい。
また、今後も授業や研究会でのコンテンツのデータを、このカタログに入れていくことでデータの拡大を目論見たい。しかし、そのためには、データ入力側の設計が新たな課題として浮かぶので、それは今後の課題である。上手くソフトウェアエンジニアリングにおけるオープンソース運動のような、ムーブメントがユビキタスコンテンツの分野でも起こるような仕掛けをすることが必要だろう。ユビキタスエレメントカタログがその先駆けとなれるように、頑張りたい。