学術交流支援基金 2006年度報告書 |
研究課題名: |
国際人間工学データベース"EKIDES"の日本語版作成
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研究者氏名: |
福田亮子(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)
Dr. Iwona Jastrzebska-Fraczek(ミュンヘン工科大学人間工学研究室研究員) |
目的
本研究の課題は、人間工学の分野でヨーロッパのみならず国際的にも先導的な役割を果たしているミュンヘン工科大学において作成された、人間工学に関するデータベース”EKIDES”の日本語版の制作である。制作にあたっては単なる翻訳にとどまらず、日本の人間工学に関する規格・ガイドラインの内容を大幅に加味することによってわが国の人間工学の充実と発展に寄与することを意図する。
EKIDESの概要
EKIDESはMicrosoft
Accessで作成されたデータベースシステムであり、基本モジュール、生産システムモジュール、製品モジュール、評価モジュール、データ検索機能、ライブラリの6つのモジュールから構成される。基本モジュールでは人間工学全般に共通する基本的要件をタスク分析、環境要素、技術的要素、取扱説明書と操作における指示の与え方という4つの領域に分けて整理すると共に、人体計測データ
も提供する。生産システムへの応用モジュールおよび製品への応用モジュールは材料加工、プロセス操作、プロセス監視、VDT作業、組立作業、建設作業等の各生産システム
や自動車、ソフトウェアといった製品特有の設計要件を提供している。評価モジュールでは利用者自身が作業場や製品の人間工学的な検査をできるよう、上記データに基づいたチェックリストや各種作業における生理的負荷の分析ツールが用意されている。
収録データは7000件近くに及ぶが、全データはキーワードやテーマ別、規格の種類などにもとづいて検索することができ、当該データベースに収録されている用語は用語集として解説とともにまとめられている。このデータベースはすでにドイツ語圏を中心とする多くの研究機関やメーカーに利用されている。
2006年度の成果
第1版の作成
3ヶ国語に対応するためデータベースのプログラミング作業は2005年度にほぼ終了していたが、全部の翻訳を終えるにはまだ相当の時間がかかるため、翻訳の終わった内容から順次公開することを目的とし、第1版の作成を行った。この作業のため2006年8月下旬に福田が渡独し、Dr. Fraczekと共に編集作業を行った。
第1版のスタート画面を図1に示す。
図1:EKIDES第1版のスタート画面(日本語選択後)
第1版に収録されているモジュールの内容は以下のとおりである。
- 基本モジュール
さまざまな人間工学的設計に共通して関係するタスク分析、環境要素、技術的要素、取扱説明書と操作における指示の与え方という4つの領域に分けて必要な要件を整理している。
タスク分析では各種作業を構成する作業要素を扱う。環境要因は作業の安全性や効率に大きく影響を与えるものであり、照明、雑音、気候(温度、風など)、振動、有害物質と放射線について留意する事項がまとめられている。技術的要素では作業場へのアクセスから作業時に用いる作業台、椅子、ディスプレイ、制御装置などにいたるまで、作業を行うにあたって必要なものに関連するデータをまとめている。取扱説明書と操作における指示の与え方は作業を安全かつ効率よく進める上で重要であり、これをわかりやすくするための方策がまとめられている。これらの要件に加え
、人体計測データとして人体の各部のサイズ、各種筋力、動作に関するデータが提供されている。人体計測データに関してはもともと収録されていたドイツ・アメリカ・韓国のデータに加えて日本のデータを収録した。
これにより、4カ国のデータを比較することが可能となった。(図2参照)
図2:ドイツ人の人体計測データ(上)と日本人の人体計測データ(下)
- 製品モジュール
具体的な製品の例としてソフトウェアおよび自動車を取り上げ、これらの設計に必要な要件を項目ごとにまとめている。ソフトウェアについてはISO9241-10にもとづく人間工学的ソフトウェア設計のポイントについての解説も用意されている。
- 評価モジュール
評価モジュールは人間工学的評価のためのツール、各種作業における生理的負荷の分析ツール、各種生産システムおよび製品に関するチェックリスト、製品の主観評価用ツールを提供している。人間工学的評価のためのツールは、基本モジュール(タスク分析、環境要素、技術的要素、取扱説明書と操作における指示の与え方)および製品モジュール(ソフトウェア、自動車)で提供されている人間工学的設計の要件に関するデータから分析対象と関連するものを選択してオリジナルのチェックリストを作成し、これを用いて任意の環境または製品の評価を行うものである。各種作業における生理的負荷の分析は3種類の方法で行うことが可能であり、それぞれ作業条件(例:持ち上げる荷物の重さや持ち上げる距離など)や作業者の条件を入力するとその際にかかる生理的な負荷が算出されるようになっている。チェックリストは現在、自家用車、バス、トラック、建設機械、ソフトウェア、E-ラーニング用ソフトウェア、ウェブに
関するものが用意されている。製品の主観評価用ツールは自動車、自動車のためのインフォテインメント、視聴覚装置、計測装置および試験装置、作業手段、操作卓、オフィス設備、ソフトウェア、コミュニケーション手段、操作説明書/取扱説明書を対象としており、それぞれ6つの評価項目からなるレーダーチャートを用いて直感的に評価することが可能である。
- データ検索機能
データシート一覧からの検索、キーワード一覧からの検索、さらに詳細検索としてデータの出典別の検索、データの意味づけによる検索(健康に関する項目、安全に関する項目、効率に関する項目、快適性に関する項目など)が可能である。
- ライブラリ
EKIDESに収録されているデータの出典一覧と人間工学関連の用語集が用意されている。出典に関してはキーワード検索ができる。また、文献の種類(規格、法律、学術論文、研究報告書など)、著者名、題名、出版社、出版年をもとにソートして表示することも可能である。用語集はドイツ語のみ、英語のみ、日本語のみ、および3カ国語の4種類の表示を選択することができる。3ヶ国語表示は英独和辞書としての機能も果たす。
なお、言語の切替はスタート画面で行うものとし、その後は原則的には選択した言語での表示のみ可能とした。元のドイツ語と英語の2ヶ国語バージョンにおいてはこの2つの言語の切替はどのページにおいてもできるようになっていたが、3ヶ国語になると各ページにそのボタンを配するのに作業時間を要する上、最初に選択した言語以外でデータを見ることはまれであることがこれまでの使用状況の観察において確認されたためである。ただし、用語集に関しては3カ国語表示
を辞書として活用することができるため、用語集内で表示の切替ができるようにした。
デモバージョン、リーフレットなど広報用資料の作成
ミュンヘン工科大学での経験から、EKIDES広報用のデモ版を作成した。当該データベースの内容の一部をデモとして紹介することで、どのようなデータベースであるかわかりやすく
伝えるのが狙いである。作成したデモ版は今後の広報活動においてCDもしくはウェブ上のダウンロードファイルの形で配布する予定である。
->デモ版へのリンク
また、リーフレットも新たに作成した。これまでに行った学会発表などによりすでに数件の問い合わせを受けているが、今後
は第1版の内容を紹介するリーフレットを利用し広報活動を行う予定である。
成果の発表
本研究プロジェクトの内容については2007年6月2日・3日に中京大学で行われる第48回日本人間工学会全国大会にて発表し、その時点から第1版の公開も開始する予定である。
今後の展望
今後も引き続き
、未収録のデータ(生産システムモジュール:材料加工、プロセス操作、プロセス監視、VDT作業、組立作業、建設作業に関する要件)の翻訳作業ならびに日本の人間工学データの収集を行い、順次
データベースに収録していく。同時に第1版の広報活動を行い、日本国内への普及を目指す。