2006年度学術交流支援資金

電子教材作成支援

3－4　　報告書

研究課題：ITと学習環境

研究経費：80万円

研究組織：研究代表　　國枝孝弘（政策・メディア研究科助教授）

　　　　　研究協力者　安村通晃（政策・メディア研究科教授）

　　　　　　　　　　　重松　淳（政策・メディア研究科教授）

　　　　　　　　　　　藁谷郁美（政策・メディア研究科助教授）

　前年度からのLMSの構築、およびLMS用のコンテンツ作成という計画のものと、下記のような具体的な成果が見られた。具体的には、以下に記すように、インターフェース構想と、諸外国語（中国語、ドイツ語、フランス語）におけるシステムの開発、コンテンツ制作の両面があげられる。

1. 企画支援インターフェース部門 ：安村通晃

　今年度は、以前開発したオンラインWebノートであるNOTAの拡張の他に、社会科学習と英語学習の２つの教材を試作した。

　NOTAに関しては、従来の手書き感覚での文字書き込みやイメージ貼り付けに加えて、カメラ機能を追加することにより電子会議もNOTA上で行うことが可能となった。他にも、音の貼り付けも可能となり、より多彩な教材作りが可能となった。NOTAは、地域コミュニティでの学習に実践的に用いられることが多く、開発そのものがユーザと開発者が一体となった共生ソフトウェアの性格が強い点が高く評価されている。

　社会学習に関しては、地図を活用した歴史学習を支援するために、Google mapを用いたシステムを試作し、簡単な応用例を示すことができた。

　英語学習に関しては、留学経験のない英語学習者を目的とし、帰国子女や留学生から集めてきた、留学先で初めて学んだ英語の知識を主として学習教材をWeb上に試作した。

　以上３つの教材は、今後も発展させていく予定である。

2. 中国語部門：重松淳

　中国語部門では、昨年度の初級作文自動添削システムの制作から得たプログラム上の問題点や使用上必要な改善点などを考え、基本的には同じコンセプトで、今年度は新しいプログラムを組むことにした。その際、その後の継続開発の可能性を考慮して、大岩元研究会の行っている現代ＧＰのコラボレイティブ・マネジメント型情報教育のプロジェクトチームにプログラム開発を依頼した。

　今年度は春学期にデータベース作成用プログラム開発、秋学期に添削システム開発を行った。データベース作成用のプログラムは、「中作道場」と同じコンセプトで、学生の回答文から誤答を書き出し、誤答の種類ごとにラベルを貼って分類し、誤りの種類が一覧できるように振り分けられたデータベースを作るというものである。データベース作成の手順は、電子データで書き込まれた回答の誤りの部分に誤りの種類を書いたラベルを貼り、コメントをつけて処理し、エクセルデータとして出力できるようにするというものである。一つの誤りを以上の手順で処理すると、それと全く同じラベルで処理される誤りは、次からは自動的にエクセルデータボックスに送り込まれて、二度以上添削処理する必要がなくなる。このプロトタイプは、誤りデータを集めれば集めるほど精度が増していく。誤りの種類は限りなくあるように思えるが、実際は初級においては大局的に見て有限であり、ある程度の種類への集約が可能である（もちろんこれは作文に回答する学習者が同じ母語の話者であり、知的レベルがおおよそ似通っている場合という条件つきではある）。春学期末にプロトタイプを試験的に運用してみて、初期的には紙と手で行う場合に比較して、データベース作りが格段に省力化できることがわかった。しかし改善が必要な点もかなりあった。例えば、誤りの種類は一覧できるが、同じ誤りの数が記録されなかったこと、実際には回答文の一文には複数の誤りが含まれるのが一般的で、一つの回答文には誤りの無数の組み合わせが出現するために、長い文になるとすべてが全く同じ回答文が出現することの方が珍しいという状況で、省力化があまり望めないことなどである。逆に正解文の場合は、すべてが一致する正解文がかなり多く、その点での省力化には非常に簡便であることもわかった。このことは、このシステムが初級の非常にやさしい作文向きであることを示している。

　以上のことから、秋学期には上記の点を改善することと、実際に添削システムとして運用できる申請登録システムを組み込み、運用を開始して更に添削精度を上げていくことを目指した。まず申請登録システムでは、回答者の登録によって回答の送付と添削の返送がＷＥＢ上でできるようになった。回答者は添削者が添削してつけたコメントを確認することができ、添削者は回答者の見る画面を確認することができる。春学期のデータベース作成プログラムにも少し改善が施された。たとえばデータベースの一覧には、誤りの種類ごとにその誤りが出現した回答文のすべてがストックされて、正解文も含めて一覧できるようになったこと、誤り箇所の表示が細かくできるようになり、添削の種類やコメントがプルダウンで一覧できるようになったことなどである。

　秋学期の最後に、この添削システムを実際に運用し、試用実験を行った。被験者はインテンシブ中国語第１期、ベーシック中国語第１期を履修している３０名程度の学生で、出題数は３０題、単純計算で９００の回答文が送られてくるというものである。実際には、登録数が２０強で回答数は６５０弱であった。本システムで行った時間数を記録したが、これを手動で添削した場合と比較すると、本システムで添削した場合は手動の３分の２程度の時間数であった。以上のことから、確実に手動より添削が省力化されており、またデータベースの数が増えれば増えるほど、添削の精度が高まることがわかった。

この実験を踏まえて、来年度からはインテンシブコースとベーシックコースにこの添削システムを開放し、実際の運用を始めることにしている。登録を促すためには広報が必要なので、まずは中国語研究室のＨＰに登録窓口を設ける予定である。

　次に本年度は、本プロジェクトのサーバーを新たに設置すると同時に、ムードルを使った学習マネジメント（ＬＭＳ）を開発した。もともとムードルがＬＭＳに適しているということは仄聞するところであったので、上述の添削システム（最終目標はレベル判定システム）や教材群の使用を簡便にすることを目標に、ムードルを使うことを検討した。現在ＬＭＳはまだ完成に至っていないが、おそらく２００７年３月中には中国語ＬＭＳとして立ち上げることができるだろう。

　このＬＭＳは、システムとしては使い勝手がよいが、現在問題となっているのは、学生がこのシステムをどの程度利用するか、という点である。自発的にこのシステムを利用するように方向付けすることが必要であり、そのためにはミクシのように、自分でカスタマイズすることができるようなシステムの方が効果的であるとの見方が強い。この点が今後の課題として残っている。ムードルを用いたＬＭＳをしばらく使って様子を見ながら、頻繁に内容を更新して興味を引きつけ、インテンシブコースやベーシックコースでこのシステムを利用することを習慣づけ、いずれは学生から見て更に使い勝手の良いものに改善していきたい。

　新しい教材開発にもいくつかの進展が見られた。たとえばゲーム「ぷよぷよ」のアイディアを使った中国語の声調記憶パズルゲーム、英語速読のための支援システム、簡体字の「つくり」に注目した発音記憶支援システムなどである。これらは、これまでの教材とあわせて、ＬＭＳに組み込み、実用に供していきたい。

3　ドイツ語部門：藁谷郁美

　ドイツ語部門では、ドイツ語教材開発研究プロジェクト活動の一環としておこなってきた自立学習支援システムを、学習効果の面から再度評価したうえで（加藤周作君による修士論文）、今年度は全体の教材に共通のプラットフォームを作成することを目標に作業を進めてきた。具体的な作業項目は以下の通りである：

a) ドイツ語教材の大幅な改訂に伴う教材コンテンツ全体の更新

b) ドイツ語学習への新たなアプローチ方向の検討

c) 学習者の評価データの処理手法検討

d) 自律学習システム運用のための共通プラットフォーム構築検討

a)については、特に２００７年４月からの新学期に間に合うように、Web作文添削システム、画像名詞データベース、キーセンテンス練習問題データ、動画発音導入コース、携帯電話教材コンテンツ、動画配信用教材コンテンツの内容を、すべて新たな改訂版に従ってチェックし、必要な箇所をすべて更新する作業をおこなった。ｂ）はiPodを用いたドイツ語学習を指す。これまでになかったアプローチとして、動画・音声配信用の教材コンテンツを作成し、２００６年秋学期の後半から実際のインテンシブドイツ語初級２および３の３つのクラスで実施した。この評価に関しては、現在集計作業中である。c）は、通常「学習ダイアリー」として紙媒体で行っている自己評価シートを指す。今回は、その蓄積方法を検討、デジタル化された評価シートの開発を試みた。この評価シートのデータを、d)の共通プラットフォームを構築することで、より有効に自律学習支援システムを運用することが、今年度の目標であった。この一部は、本教材開発研究プロジェクトのメンバーであった山本大朗君の卒業論文『ドイツ語学習プラットフォームの構築と効果運用』（２００６年秋学期提出）にまとめられている。

　今年度の研究活動を通して、a)およびb)に関する内容は、常時更新作業をする必要性はあるが、その方向性はほぼ確定したと考える。しかし、c)およびd)に関しては、まだ開発途中にあり、今後も検討が必要である。特にd)については、既存のグループウエアを利用するべきか、あるいはこのまま独自のデータベースシステムを開発する方向で進むべきか、まだ試行過程が必要であると考える。全体の自律学習支援システムを発展させる上で、今後も進めていく計画である。　

4 フランス語部門：國枝孝弘

　　フランス語部門では、LMSに盛り込めるコンテンツ作り、特にLMSの重要な概念となる、「学習者主体の教材選択の可能性」という観点から、コンテンツ作りを行った。

　具体的には、この１年半で飛躍的に広まったpodcastの技術を用いて、「フランス語千夜一夜」というpodcastラジオ局を立ち上げ、実際に放送を開始した。podcastは教員にとっても、学生にとっても、教室という学習空間にとらわれない、新たな可能性を、比較的容易に提供してくれるメディアである。

　今までの教材とは、一定のパッケージにおさまった完成されたもので、学生にとって学習とは、その「一冊をマスターする」ということであった。それに対してpodcastの魅力は、データの定期的な更新ということである。また、一局のラジオ局で、様々な番組が番組が提供されているように、podcastも全く同様に様々なコンテンツを盛り込むことができる。まさに教材はパッケージではなく、取捨選択の効くものとして、学習者に届けられる。学習者は、常にすべての番組を聞くことができると同時に、気に入ったものはアーカイブ化し、携帯プレーヤーに落とし込んで、いつでもどこでも学習することが可能になる。まさに学習者がみずから教材を選択し、時も場所も選ばすに学習するわけである。

　またこれは教員にとっても新しいコンセプトでの教材作りを意味することになる。まず、

従来ほぼ教室という空間に閉じられていた自分の教材を、日本中、いや世界中の学習者にむけてオープンにすることが可能となる。教員は、完結した閉じた教材ではなく、常に最新の話題を学習者に提供することになる。

　今後このような、学習者主体の教材コンセプトに立ったときの、そのコンセプトにふさわしい内容を考察する必要がある。また学習者の学習スタイルについても観察をしなくてはならないであろう。

　ちなみに、今回podcastでは、６つの番組を用意した。

1. Une expression, un jour ：初級者を対象にしたキーワードと、そのキーワードを使った基礎的表現の学習。

2. Japon, France, les chiffres : 数字の聞き取りを意識した、日仏の比較番組。内容は初級から上級まで。数字の聞き取りを意識すれば、初級でも、内容の理解ならば上級者用となる。フランス語ネイティブと日本人。

3. Imaginaire : フランス語の比較表現。語彙を増やすとともに、フランス人の表現の特徴について学習する。

4. Ras-le-bol : フランス語の俗語表現を紹介。その俗語にまつわる歴史や、使われるシチュエーションについて解説。

5. Radio humanités : フランスの哲学者、小説家の紹介番組。毎回短いフランス語のフレーズを取り上げて、解説。

6. Pêle-mêle : フランスの情報番組。はやりの音楽や本などを紹介。

　今回のpodcastは既存音声教材の焼き直しではなく、ラジオ番組の配信という性格を十分に意識した。どの番組もフランス語ネイティブと日本人の組み合わせで（Radio humanitésは除く）、おしゃべり形式で番組は進行する。いわゆる遠隔通信教育のような授業の再現ではなく、ディスクジョッキーが「おしゃべり」を展開するような、楽しい雰囲気の中で、番組が進行する。つまり、あくまでもラジオ番組作りが主体であるが、それを聞きながら、フランス語に触れる、あるいは、キーになるフレーズを学べる体裁になっている。

　以上、学習者主体の学習という観点に立ち、具体的にはpodcastの技術を使ったラジオ番組を今年度は実現させた。今後はこうした新しい学習スタイルがどのような効果、影響を生むのか考察を続けていきたい。