2006年度 学術交流支援資金報告書

電子教材作成支援

3−8 ネットワーク社会論

3−9 ネットワーク情報産業論 

 

                           総合政策学部

                             國領 二郎

1.            概要

 

昨年度より継続して、電子教材のデータベース構築を進めている。専門職養成教育を行う上で有効性が証明されている事例(一事象あたり30ページ程度のもの)討論を行うための教材を開発した。2006年度の授業でもこれらの教材を使用、また2007年度授業でも使用する予定であり、授業内討論の材料としている。

 

同時にこのような事例を集めたデータベースを開発し、教材を有効に利用できるシステムを構築した。現在クリエイティブコモンズライセンスによる電子教材の配布を開始している。サイトアドレスは以下である。

   http://case.sfc.keio.ac.jp/

 

 

2. ネットワーク社会論、ネットワーク情報産業論においての取り組み

 

開発した事例は以下の4事例である。この事例を授業教材として、春学期の「ネットワーク情報産業論」秋学期の「ネットワーク社会論」において実際に使用し、討論の材料とした。また、来年度の授業でも使用予定である。同時に、電子版として保存し、國領研究室ケースとしてデータベース化し、公開している。

 

(1)    「WIDE -2006-

    今や数多くのビジネスモデルや社会モデルがその上にのり社会情報インフラの地位を確立したインターネット。そのインターネットはWIDEプロジェクトを初めとする技術者の標準化への取り組みから始まった。インターネット上では著作権問題など様々な問題も同時に発生している。今後この世界規模の情報インフラをどのようにガバナンスすべきなのか?その意思決定を考えるケースである。

 

    経費は、3−8「ネットワーク社会論」より支出した。

 

(2)    「東日本旅客鉄道株式会社―Suica(スイカ)2006

    登場から4年余り。JR東日本のSuicaは、ICカード型乗車券から始まり電子マネー機能の搭載、クレジットカードや携帯電話との提携など情報インフラとしての展開を歩みつつある。Suicaはこのまま駅ソトに拡大すべきか?それとも駅ナカに戻るべきなのか?情報インフラになりつつあるSuicaが取るべき次の選択を考えるケースである。

 

    経費は、3−9「ネットワーク情報産業論」より支出した。

 

(3)    雪印乳業株式会社

    2000年に起こった雪印低脂肪乳食中毒事件の被害状況や、雪印乳業株式会社の社内の様子、マスメディア対応を時系列に追うことで、食品企業における食中毒対応およびクライシスコミュニケーションのあり方を検討するケースである。

 

    経費は、3−8「ネットワーク社会論」より支出した。

 

(4)    株式会社ACCESS−日本発、オープンソースでnon-PC

世界標準を狙う−

株式会社ACCESSは、携帯電話や情報家電(いわゆるnon-PC)向けブラウザの開発等を手がけている。特にOSでは「オープンソースコミュニティへの貢献」をうたって独自の戦略をとっている。PCの分野でMicrosoftは爆発的な成功を収めたが、果たして今後のnon-PCの分野ではどうか。Linuxが標準になった場合に、果たしてACCESSはその投資を回収できるのか。

 

経費は、3−8「ネットワーク社会論」、3−9「ネットワーク情報産業論」双方より、支出した。

       

         

 

3. 電子教材のデータベース化およびクリエイティブコモンズライセンス よる電子教材の配布

 

ケース教材を電子版として保存し事例データベースを作成した。 教材用事例の電子版データベース作成のメリットは以下である。

 

(1)    経済性

小規模出版となるため通常の紙媒体による配布では印刷コストが大きくなるものを電子化することによって、安価に配布できる。

(2)    機動性

最新の事象を速やかに教室での討論用に供すことができる。技術の持つ、社会的、経済的意味などについて討論を行う上では、実社会の動きに密接に関係する教材を継続的かつ機動的に提供する必要があり、データベースによる配布がふさわしい。

(3)    遠隔教育などでの活用可能性

遠隔教育システムによって他大学や外部関係者まで討論型授業に参加していただくことには大きなメリットがあるが、そのような授業を実施するにあたっての教材配布手段として極めて有効である。実際に、昨年度の「ネットワーク情報産業論」「ネットワーク社会論」は、GCにて配信されe科目にもなっているので、教材がデータベースとして公開されていることは、授業を進めるにあたって極めて有効であった。

 

このプロジェクトでは、著作権を執筆者から買い上げているが、非営利育目的の使用に対しては無償で電子的に公開することとした。営利的な教育機関に対しては有償での教材販売を行いうるような体裁で公開している。公開にあたっては、可能な限り自由な利用、流通を目的とし、教材に添付されたクリエイティブコモンズライセンスの下に公開されている。システム的にはCNSネットワーク上に國領研究室責任のサイトを構築公開している。

 このライセンス下で公開されたケース教材は、営利企業内での教育研修や、非営利組織での有料研修など、お金が発生するアクション以外においては、非営利利用でのルールを守る限り、自由に本作品を複製、頒布、展示、実演することができる。また営利的利用の場合も、利用にあたっては、教材のダウンロードから印刷、利用方法等全て利用団体に任される。利用方法、及び利用部数を自発的に申告してもらうことで、物理的交換に束縛されることなく、自由な流通、利用を促進することが可能となる。

 この取り組みは電子教材の、配布のあり方の社会実験でもある。学外からも使用需要が現れているので、どのような利用がなされるかデータを取り、報告を行っていく準備中である。