2007年度森泰吉郎記念研究振興基金
学術交流支援資金「国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援」報告書

 

研究課題名:森林火災のフィールドワーク

福井弘道研究室 学部生プロジェクト

研究代表:福井弘道(総合政策学部/教授)

 

*       研究チームメンバー(福井研 学部生)

千代倉 永英        (総合政策学部 学部4年)

大橋 翔史            (総合政策学部 学部4年)

岸田 守弘            (環境情報学部 学部4年)

中本 裕之            (環境情報学部 学部4年)

有光 加理            (環境情報学部 学部3年)

市原 彩               (環境情報学部 学部3年)

 

*       研究指導者

福井 弘道            (総合政策学部 教授)

 

*       研究協力者

竹島喜芳              SFC研究所訪問研究員)    研究全体の助言・GPS演習の実施

ラル・サマルクーン (アジア工科大学地理情報センター長)             現地フィールド調査の支援

土光智子              (政策・メディア研究科 後期博士課程1年)       研究への助言

大島英幹              (政策・メディア研究科 後期博士課程2年)      研究への助言

 

(敬称略)

 

1.研究の背景

熱帯雨林等での大規模な森林火災は、大量のCO2排出による大気への影響と吸収源の消失、植生焼失による生態系への影響、木材等森林資源の滅失による地域経済への影響、煤煙や市街地への延焼による市民生活への影響等、各方面に深刻な影響を及ぼす。

また、災害対応を担う政策担当者の意思決定には、森林火災の発生状況だけでなく、延焼可能性や被害可能性などのリスク判定情報も必要とされるが、これらの情報は十分に収集整理・公開されていないのが現状である。

これに対し、福井研究会では、デジタルアジアプラットフォーム構築プロジェクトの一環として、森林火災警報システムの構築を行っており、そのプロトタイプを完成させた。

図 森林火災警報システムのプロトタイプ

 

2.学習・研究目的

 本学習・研究では、森林火災警報システムの精度を向上させるため、現地調査を行いシステムの改善すべき点を明確にすることを目的とする。

 

3.研究の意義

 これまで、衛星リモートセンシングによる森林火災の検知結果は公開されている。本研究では、森林火災の発生状況だけでなく、延焼可能性や被害可能性などの情報も、現地調査によって精度を検証した上で、整理・公開する。

 

4.研究対象

 森林火災が多発している地域のひとつである、タイ・チェンマイ周辺の熱帯雨林を対象とする。

 

5.研究方法

 現地調査を行い、森林火災の検知結果および被害状況の検証データを収集し、さらに政策担当者へのインタビューを行う。これをもとに、システムの改善すべき点を明確にする。

 

(1) データ収集

 研究対象地域のうち、衛星リモートセンシングによって、最近大規模火災が発生したと検知された地域を複数抽出し、AIT(アジア工科大学)などの協力を得て、現地で火災発生の有無および被害状況を検証する。

 検証に際しては、樹木の燃焼状態および森林管理者、行政担当者、土地所有者、住民への聞き取り等から火災発生範囲を推定し、GPSにより位置座標を記録する。また、地点別の被害状況の位置座標も記録する。

 

(2)インタビュー

 中央政府および地方政府の政策担当者に森林火災警報システムのプロトタイプを試用してもらい、操作性や見やすさ、意思決定に必要な情報について、インタビューを行う。

 

(3)システム改善点の検討

 現地調査により収集した森林火災発生範囲データを、衛星リモートセンシングによる森林火災検知結果と比較し、検知の精度を検証する。実際には火災が発生しておらず、衛星リモートセンシングの誤検知だった地域および隣接地域について、現地の植生、土地被覆等を分析し、誤検知の要因を抽出する。

 また、インタビュー結果より、操作性や見やすさ、提供する情報について改善点を抽出する。

 

6.スケジュール

 下表の作業項目・スケジュールで研究を進める。

 

7.期待される研究成果

 森林火災警報システムのプロトタイプを改善することで、森林火災の検知精度が高く、操作性や見やすさに優れ、政策担当者の意思決定に必要な情報が網羅される森林火災警報システムを構築することが期待される。

 

8.結果

8−1.延焼・被害可能性警報システムの構築

シベリアからモンゴル、中国、タイ、インドネシアにおいて、度々大規模な森林火災が発生している。既存の森林火災アラートシステムでは、ホットスポットを表示するのみであった。それに加えて我々は、資産・価値レイヤ(人口、寺院、文化遺産、空港など)および脆弱性レイヤ(植生・傾斜、河川など)を用意することで、ハザード情報とリスク情報を同時に提供できるシステムを構築した。以下の主題図を用 いてシステムの活用方法を紹介する。

本研究では、脆弱性と資産・価値のマトリックスを提案した。下の主題図におけるホットスポットα、β、γの位置情報をまとめると、以下のようになる。

以上より、対処する優先順位が最も高いのは、脆弱性が高く、資産・価値も高いα であることがわかる。βとγの優先順位については、政策決定者の判断に委ねる。

上記の構想をもとに、ESRI社のArcIMS®を用いて森林火災警報システムを構築した。

プロジェクトウェブサイト

http://dra-4.sfc.keio.ac.jp/website/esri/viewer.htm

 

福井研究室のウェブサイト

http://g-web.sfc.keio.ac.jp/

 

8−2.フィールドワーク

山林測量場所 長野県安曇村 乗鞍高原〜乗鞍山頂

期間     平成19年8月5日()〜8月9日()

 

フィールド演習の目的

空間情報科学から環境や災害など人間安全保障に取り組む福井研究会は、研究を遂行するために地理情報システムやGPSを活用することが多い。森林内や起伏の激しい山岳地帯でのGPSをつかった現地調査は、都市や空の開けたところで行う現地調査と比べて様々な工夫をしなければ精度の良い位置情報はGPSから引き出せない。本研究においては、衛星画像をつかった山火事被災地解析の現地調査の準備のため、岐阜県立森林文化アカデミーとの共同夏季セミナーを実施し、GPSをつかった山林測量のノウハウ取得を目的に研修を実施した。

 

以下に研修のスケジュールを示す。

日程

ねらい

行動

AM

 

藤沢発

PM

森林・林業観察

岐阜森林文化アカデミー(美濃市)着

○森林文化アカデミー周辺案内

AM

フィールド調査に固有の知識を習得する(GPSPDA、その他)

     アカデミー学校案内

     フィールド調査に必要な予備知識講義

PM

 

     アカデミー出発

     飛騨鍾乳洞

     乗鞍高原着

AM

測量システムの基本機能の理解と基本操作の習得

○ FieldMapperの取り扱い基本

Ø         GPS測量

Ø         コンパス測量

Ø         作図

PM

実際の測量を模擬的に行うことにより、現地調査で予期せぬ問題の洗い出しと解決法の発見

○ 乗鞍高原フィールド散策with GPS

AM

タイやネパールでの山岳地・森林地帯でのGPS測量を想定したGPS予行演習

○ 乗鞍山頂まで車で移動

○ 乗鞍登山道をたどりながら、ルートの測量と現場で出てくる問題の解決

PM

成果物の作成

データのマッピング

AM

●予備日

●予備日

PM

 

近隣の森林公園(森をみることと山地での大きな木のあるところでデータ収集:チェンマイ視野)

 

 

9.学会報告

本研究の成果として,本年度は以下の研究発表を行った。

 

(1) 国内学会発表

1. 岸田守弘、千代倉永英、市原彩 (2007) 森林火災アラートシステム〜意思決定支援のためのWeb GISを利用したシステム活用法〜.16回研究発表大会、北海道大学・学術交流会館、日本、地理情報システム学会、20071020日〜21

ポスターへのリンク http://g-web.sfc.keio.ac.jp/~student/fire_poster0111.pdf

大会へのリンク http://wwwsoc.nii.ac.jp/gisa/jp/eventconf.html

 

2. 岸田守弘、千代倉永英、市原彩 (2008) 森林火災アラートシステム〜意思決定支援のためのWeb GISを利用したシステム活用法〜.4GISコミュニティフォーラム2008、東京国際フォーラム、東京、日本、ESRI117日〜18

ポスターへのリンク http://g-web.sfc.keio.ac.jp/~student/fire_poster0111.pdf

 

(2) 国際学会発表

Aya Ichihara, Katori Arimitsu, Nagahide Chiyokura (2007). Construction of Detection and Alert System for Wildfire. Proceedings of the 27th Annual ESRI International User Conference (Paper No. UC1467), Twenty-seventh Annual ESRI International User Conference, San Diego Convention Center, San Diego, California, ESRI, 18June. (CD-Rom)

ü         抄録 http://gis.esri.com/library/userconf/proc07/papers/abstracts/a1467.html

ü         全文 http://gis.esri.com/library/userconf/proc07/papers/papers/pap_1467.pdf

 

10.参考文献

Ø         東京大学生産技術研究所MODISデータサービスセンター(WebMODIS):

http://webmodis.iis.u-tokyo.ac.jp/index_j.php

Ø         Giglio, L. et al. (2003): An Enhanced Contextual Fire Detection Algorithm for MODIS, Remote Sensing of Environment 87, pp.273282

Ø         Global Fire Monitoring Center (GFMC): http://www.fire.uni-freiburg.de/

Ø         Global Observation of Forestry Cover (GOFC-GOLD-fire): http://gofc-fire.umd.edu/

Ø         Sentinel Asia: http://dmss.tksc.jaxa.jp/sentinel/

 

11.おわりに

本研究は、2007年度森泰吉郎記念研究振興基金 学術交流支援資金「国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援」補助を受けた。ここにその感謝の意を改めて表明したい。