慶應義塾大学政策・メディア研究科2007年度学術交流支援資金による研究助成

『日中協働による環境共生型村落発展計画の策定と評価』(課題番号2-2)報告書

 

村落ベースの土地資源調査と土地利用方針の提案

 

慶應義塾大学環境情報学部教授 厳網林

慶應義塾大学環境情報学部4年 大場章弘

 

1     はじめに

 

砂漠化は土地を粗放的に耕作・放牧することが原因である.それを食い止めるためには土地の使い方を適正化する必要がある.土地の使い方とは,ホルチンにおいて農地,放牧地,居住地,植林地によって構成される.土地に代々暮らしてきた村人にとってどこで耕作し,どこで放牧するかは,言うまでもない常識である.人口の少ない時代には,土地資源に余裕があり,経験だけで十分だった.しかし,人口が増え,消費も拡大した今日,生活に追われた住民は土地を頼りにしかできなくて,砂丘を畑にしたり,草地を過度に放牧したりする.有効な技術を持たない農家にとって,量の拡大は収入を増やす唯一の手段である.土地の原始的な生物生産に依存することは遅れた農村地域の共通問題である.

土地の自然生産力には限界があることは知っていても,土地の経済産出は生産方式にも依存することはあまり知られていない.土地の使い方の是正は単純な生産拡大志向を変え,長期戦略に立って,土地の自然特性に適した持続可能な土地利用システムを確立することである.そのためには土地の自然条件を調査し,土地の生産力と収容力を客観的に評価しなければならない.この上で土地の利用区分,利用強度,空間配置,管理と経営方式を科学的に行い,健全な方式で持続可能な利用を目指さなければならない.これは個人や家族単位のことではなく,まとまった空間スケールで,実行力のある集団をベースにしなければならない.幸いに中国では村が末端自治組織となっており,土地も村共同所有となっている.政府の政策は村単位まで下りて実施されることが多い.しかし,政策がよくても村人の同意がなければ,土地利用の変更はできない.このようなことを考えると,村レベルから土地利用を適正化するのは実効性あるアプローチと思われる.

本研究は中国内蒙古自治区ホルチン左翼後旗アゴラ鎮都西村を対象に高精度衛星画像の判読と地上調査によって土地収容力と放牧圧力を評価し,土地利用計画のための基礎資料を準備する.そのための方法として,衛星画像を用いて村の土地資源を区分し,それぞれの景観区分に対して,現地調査を行い,土地の自然生産力の実態を評価する.現地調査のデータを植生類型別に集計し,景観区分に適用して土地生産力と土地収容力を計算する.その評価結果に基づいて,村の土地資源の問題点と可能性を明らかにし,土地利用適正化の方針を提示する.

 

2     対象地域の特性

2.1     地理的位置

 都西村はN43°17′N43°21′E122°42″E122°47′に位置し,行政面積38.9ku,人口255人,世帯数54戸.村の南部に都西湖という東西2800m,南北1000mの湖がある.集落は湖の北岸に立ち,背後に高さ30mの砂丘が東西に横たわる.湖水がアルカリ性のため,水源として利用されていない.生活用水と農業用水は井戸水を利用している.外部へのアクセスは土砂道1本.最寄りの町,アゴラまでは10km,四輪駆動で40分かかる.通遼市内あるいはガンチカ鎮はアゴラから40km先にあり,路線バスで1時間ほどかかる.

アゴラは鎮や郷という旗・県以下の行政組織で都西村もその管下の1つである.町は鎮政府庁舎,公安,郵便局,信用金庫,日用雑貨屋や食堂数軒程度が集まった街道一本のみ.しかし,街道に面してお寺の廃墟があり,奥には標高50m程の小高い山が聳え立ち,山には白い仏塔が立っている.この仏塔は北京北海公園のものと同じ様式で,元王朝のときに建てられたという.かつては山の麓のお寺は建物数百軒以上もあってあたり一大仏教の信仰地だったといわれるが,すべて文化大革命のときに破壊され,断壁しか残っていない.町の南西側にちょっとした湖があり,湖の周りに草原風景が広がる.湖と草原と突如に現れた小山が1つの景観セットを形成している.これを観光資源として,湖畔に数十軒のゲルが立っており,時々訪れるツアー客に執拗に馬乗りを売り込む.政府はアゴラ鎮を移民の町にする計画を進めており,すでに町の南東部に数十軒の移民村が完成している.都西村およびそのさらに奥までの土砂道はいま改修中で,とりあえず砂利舗装として1〜2年後の完成を目指している.

1 都西村の位置と最寄りの町−アゴラ鎮

2.2     土地利用

 都西村は土地4.5万ムーあり,内訳として放牧地2.9万ムー,畑2900ムー,樹林地1万ムー,採草地800ムー,ほか湖となっている.畑は一人当たり8ムーで各家庭に分配され,飼料用あるいは食糧用のトウモロコシの栽培に使われる.放牧地は村の背後にある砂丘あるいは湖畔の低地を利用するが,砂丘の9割が砂漠化している.湖の南岸の低地に800ムーの採草地があり,家畜の越冬飼料地として利用される.村の北部にホルチンの代表景観の1つとみられる灌木林が広がり,ニレ,山杏,山柳の灌木や亜高木が点在する.しかし,林間は豆畑に開拓されていることが多い.

2.3     経済活動

都西村は農業が4割,牧業が6割占める.年間平均総収入と純収入はそれぞれ5000元,純収入1,000元程度(2006年現在),後旗の中でもとくに貧しい.村人はトウモロコシを一戸当たり約10000斤収穫して換金する.家屋前後の零細な土地には野菜が作られる.年に一度に豚を殺し,食油やたんぱく質源を確保する.砂丘放牧地でウシやヒツジを放し,子牛,肉牛あるいはヒツジを出荷して現金収入を得る.村全体では牛800頭,ヤギ3000頭保有している.各家庭の家畜保有数にばらつきが大きい.ヤギを200頭以上持つ家庭もある.放牧は家族独自で行い,仲間同士でまとめて輪番することもある.

都西村に対して,政府も支援に乗り出している.20035年まで内蒙古自治区の貧困対策として,計20万元,ヤギ880頭,ウシ15頭,井戸28m×7本の助成をもらった.村人では1999年ごろから砂漠化が著しく進んだというが,ヤギの増加はいっそう拍車をかけたとみられる.

緑化ネットワークは株式会社ティンバーランドから緑化寄付金を得て,この村において緑化事業を進めている.初年度の2006年に160ha植林し,以降3〜5年にかけて毎年同規模の緑化を行い,合計1000ha以上を計画し,住民参加型自然再生と村発展を目指している.

2.4     土地権利

中国の土地制度は都市では国家所有,農村では村民共同所有となっている.村民とは村に戸籍を持つ人に限る.隣の村と土地を共有することはない.1960年代〜1980年代までの30年間,村民が共同で経営する人民公社制度を取っていた.1978年の改革開放後,家庭請負制が一般となっている.

都西村は畑が少ないが,食糧を確保するための畑は人口に応じて各家庭に分配している.その畑で何を作るかは農家の自由である.ただし,農家が草原を零細に開拓した畑は計算に入れていない.だから,村に実際どれだけの農地があるかは正確に把握できていないのが実情である.

放牧地は最近まで家庭に分けることはなかった.牧草地に各家庭が自由に家畜を放牧している.また,特に管理することもなかった.採草地は各家庭の家畜数に応じて配分されている.毎年9月に入ると,村人が草を刈り取り,馬車に積んでうちへ運ぶ風景がみられる.アゴラ鎮周辺ではトラクターにカッターを取り付けた草刈機が使われ,トラクターで草を運ぶ農家がみられる.牧業の機械化は都西村では少し遅れている.ただし,アゴラまでの道路が改善されれば,都西村にも開発の波が訪れるに違いない.都西湖周辺の放牧風景や村北部の原生疎林は観光客を引き付ける可能性がある.

林地については1960年代に人口増加に合わせて食料を確保するために村共有の天然林がほとんど切り倒された.とくに村に近い所の放牧地はかつて北部の樹林地と同様な景観だったと想像できる.1980年代以降に植林を奨励するようになった.植林した人が責任を持って管理し,自分の利益になるのが原則である.これによって,個人でも荒地を請け負って植林する事例が増えている.請け負う期間は15年,30年などである.都西村の北部の樹林は経済利用はできないが,草原を代表する景観として村も政府も残す方針である.

 

3     景観生態区分

3.1     地理データの準備

都西村に関して利用できる衛星画像を表1にまとめた.これらの衛星画像は80m解像度のLandsat/MSSから30mLandsat/TM15mASTER/VNIR2.5mALOS/PRISMまである.TMASTER7月から9月までのものを選んた.ALOS2006516日に観測が始まり,同10月にデータサービスを開始したばかりのため,まだデータ蓄積が少ない.

衛星データは都西村の環境変化をみるうえで重要な資料となる.今回は土地生産力を評価することが目的のため,できるだけ新しくて,精度の高いもの,ALOS/PRISMを利用した.しかし,ALOS/PRISMは白黒のため,植生区分には不向きである.そのような場合,ASTER/VNIR画像とALOS/VNIR-2画像も適度に参考した.

 

1 利用可能な衛星データ

衛星/センサ

日付

解像度

特徴

Landsat/MSS

1978.08.24

80m

早期の様子がわかる

Landsat/TM

1984.07.10

30m

植生量最大の時期でない

Landsat/TM

1988.09.23

30m

9月末は草が殆ど枯れている.

Landsat/TM

1990.09.10

30m

9月上旬・中旬前半が多い.

Landsat/TM

1991.08.24

30m

シーズンがいい.

Landsat/TM

1995.09.11

30m

シーズンがいい.

Landsat/ETM

(パンクロ)

2001.09.03

30m

10m

シーズンがいい.

ASTER/VNIR

ASTER/SWIR

2004.09.11

15m

30m

 

植生の区分に利用できる.

ASTER/VNIR

ASTER/SWIR

2006.09.26

15m

30m

ALOS/PRISM

(3方向視)

2006.08.14

2.5m

地上調査の直後の画像.白黒.植生評価ができない.

ALOS/VNIR-2

2007.03.15

10m

解像度がやや高いが,季節は春.

 

3.2     村落の景観生態区分

1)景観生態区分の設定

 都西村もホルチンのほかの村と同様に水源−村落−低地(田・畑)−放牧地(固定砂丘・移動砂丘)によって構成されている.この景観生態システムは土地の自然条件と人間の土地利用が相互に作用して形成されている.生態環境の保全と土地利用の計画ではこの特性を無視することができない.そのために私たちは村全体の土地自然条件と土地利用を大局的に捉えて,景観生態を区分する.この景観生態区分は村の土地利用の現状であり,将来の利用方針を考える単位でもある.

 乾燥・半乾燥地の自然生産力は土壌の水分条件によって左右される.土壌水分がさらに地形と密接に関係する.一方,人間の土地利用は土地の自然生産力とそれに対するアクセスの容易さによって影響される.したがって,景観生態区分は自然生産力,地形区分,アクセスという3つの条件が反映されたものになる.

 土地の自然生産力はALOS/PRISMから読み取れる.地形区分はALOS/PRISMの前方視・直下視・後方視画像から高精度DEMを作って対応する.アクセスは集落と土地の相対位置をみて判断する.

1)地形区分

ALOS/PRISM画像からDEMデータを生成した.その際,2006731日から812日に行ったフィールド調査の標高データをGCPとした.基本手順はALOS/PRISM3方向視画像について,それぞれ同じポイントにGCPを適用し,3枚から同時に地形データを抽出する.今回は対象地を含む3シーンを用いてDEMを作成した.作業はERDAS IMAGINEを用いた.作業の基本手順は以下の通りである.

 ALOS/PRISM3D DEMデータを可能にしているのは直方視,前方視,後方視の3方向視画像である.ALOS/PRSIMの元データをインポートし,3方向視それぞれのシーンに対して右上,右下,左上,左下の座標値を与えた.

 次にPRISMのセンサーパラメーターを入力する.焦点距離はESRIジャパン社のサポートページを参考に1939mmとし,ピクセルサイズは正確な値を得ることができなかったため,焦点距離1939mmと地上分解能2.5m,軌道高度691.65kmから比の計算をして0.00701mmとした.

 ALOS/PRISMで3方向観測モードの場合,1シーンの大きさが35km四方である.その中から10km四方の都西村を切り出し,サブセットを作った.現地で取得したGPSデータをGCPとして用いた.地形的・土地利用的に特徴のある点を基準点とし,タイポイントを取得した.幾何補正が終わってから,3シーンの透過表示をステレオで行い,ここまで作成したデータに大きな間違いがないかを目視で確認した.

 標定済みのブロックからより高精度な地形データを作成することができる.今回は現地調査のデータを参考にし,ALOS/PRISMデータを目視しながら,特徴的な地形を大きめに抽出した.この村の地形を概観すると,砂丘,住宅地などの低平坦地,湖,砂丘間低地の4つある.

 抽出したデータを用いてTINデータを作成した.ここで,湖よりも低くされてしまった地点など,明らかに間違っていると考えられる地形を目視して微修正した.作成できたDEMを用いて,村の地形を4つの区分にすることができた(図2).

 湖畔低位面.ホルチン砂地の湖は溜め池のようなもので,降雨によって水位が変動する.湖は一般に浅く,湖畔に広い低地草原が広がる.砂丘から離れて,湖水に近づくにつれ,地下水の流れが遅くなり,塩分濃度が高くなる.湖は北西部から南東部へ傾いているため,北西部は塩害が進行し,南東部は殆んどない.これは北西部にハママツナ(Suaeda maritima dumort)などの耐塩性植物群落が集まっていることからわかる.

 湖畔中位面.湖畔低位面よりやや高い地形面.砂丘から地下水の補給があり,土壌水分が高い.背後の高い砂丘は風を遮ってくれるため,風蝕の心配も少ない.地形は平らで,まとまった土地利用ができる.集落や農地はこの地形面におかれている.

 砂丘面.湖の周りに比高30m以上の大砂丘帯が西から東へ横たわる.風あたりが強く,過放牧が進むと,風蝕されやすい.大砂丘帯には小さい砂丘が連なり,その北斜面や谷間に砂地植生が分布する.

 丘間低地.砂丘面の北側に丘間低地帯が広がる.村から遠く,土壌水分も良好なため,比較的に良好な牧草地,灌木疎林となっている.丘間低地の北部分は別の村の土地となっている.

2 都西村の地形区分

 

2)植生区分

 2006814日付のALOS/PRISM直下視データに対して,ISODATA法を用いてクラスタリングを行った.分類クラスは2006731日から812日まで地上で調査したデータを参考し,砂地,塩性地,灌木林,草密地,雑草地にした.砂地は植生被覆の殆んどない砂地である.塩性地はアルカリ性の土壌に覆われ,耐塩性の植物だけが生える.潅木林は灌木・半潅木類の植物が分布する土地である.草密地は夏季に人や家畜に触れられることなく,草高の大きい採草地である.雑草地は家畜に被食あるいは踏襲によって草高の低い植生被覆地である.

3)立地条件

 村人の暮らしは湖を中心に展開されている.同じ土地利用でも村からの距離によって利用強度が異なり,それによって違った植生景観をみせる.

 村人の生活行動は大きく居住,耕作,採草,放牧,採薪に区分でき,水源・住居を中心に展開されている.生産性が高く,活動頻度が高く,労働強度の大きいものは集落の近くにある.

 湖が塩湖のため,直接利用することはないが,その周りは低地のため,村人の生活の場となっている.居住は湖の北岸に集まって湖を一望できる.集落と水面までの湖畔低地はアルカリ性のため牧草は育たない.家畜の散策場,塩分補給の場となっている.湖西地区は牧草が優れ,牛や羊の放牧に使っている.湖南地区も牧草は良好だが,村から遠くため,冬に備えるための天然採草地としている.

 トウモロコシの耕作は種まき,除草,収穫など重労働が多い.旱魃の時に灌水も必要.そのため,地下水源の確保できる低地にしかできない.集落の周りや平坦地を利用している.湖南・湖東の固定砂丘上は村に近いため,畑地に開拓されている.しかし水分条件がよくないため,トウモロコシでなく,豆類が植えられている.

 村の背後にある砂丘の麓は水分条件が優れているため,家屋の前後にトウモロコシや野菜畑に利用している.砂丘の上は水分条件が悪く,放牧に使われる.村に近いところは放牧される頻度が高いため,牧草の劣化が激しく,サハオやモンゴルヨモギなどしか生えていない.北部へ行くほど,遠くなって利用頻度が低くなり,植生被覆が濃くなる.

 村から最北端の樹林地までは5km以上もあり,日帰りの放牧はできない.そこに疎林草原が残っている.森林保護のため,いま放牧禁止になっている.林間に畑が開拓されているが,放牧のついでに耕すつもりで作られたと考えられる.1つの畑の規模が小さく,豆類の雑穀が作られている.

 以上のように土地条件と人間活動によって土地景観が形成されている.

4)景観生態区分図の作成

 景観生態区分図に関しては,Zonneveld (1995)は二つの手法をあげた.ひとつは土地条件の諸地図をオーバーレイする方法,もう一つは空中写真を判読する方法である.ここでは,前者に関して,地形区分と土地被覆区分をオーバーレイして作れる.しかし,非常に大量の微小ポリゴンが発生し,統合することに手間がかかってしまう.村の土地条件と土地利用を大局的に区分することが景観区分の目的のため,作業効率を重視して,地形区分と土地被覆区分と地上グランドトールスを参照しながら,ALOS/PRISM画像をベースに目視判読する手法を取った.地形区分と土地被覆区分は目視判読のための知識を提供してくれた一方,景観生態区分の内部構成を検証するための高精度データとしても利用される.

 ALOS/PRISMの白黒画像,ASTER/VNIR画像,ALOS/DEMなどの証拠を総合して,都西村を以下の23の区分にした(図4).それぞれは次の特徴を持っている.

a)    東部砂地−村の東に位置する最も大きな砂丘.大砂丘の低地にまばらに植生がある.

b)    東北部雑草地−東部砂地の北に位置し,住宅地から遠いことから住民や家畜は足を伸ばすことが少ない為,草本植生が繁茂している.

c)     東北部潅木林−東部砂地の北に位置する潅木林.主に自生のニレが優占種となっている.

d)    西部砂丘−村の最西端に位置する砂丘.村の境界線と接している.東部砂地ほどではないが,殆ど植生がない状態である.家畜がよく出入りする.

e)    北西部雑草地−村の北西部に位置する雑草地.若干の潅木と多くの草本が広がっている.

f)     北西部潅木林−村の最北西端に位置する潅木林.人や家畜がくることは殆どない.

g)    西部砂地雑草地−村の西部に位置する砂地の混ざる雑草地.低草本の中にまばらに砂地がある.

h)    西部砂地−村の西部に位置する雑草地.低めからやや高めの草本が広がっている.

i)     南西部砂地−村の南西部に位置する砂地だが,低草本も広がっている.一部はトウモロコシ畑も作られている.

j)     南東部砂地−村の南東部に位置する砂地.高い固定砂丘が南に連なっている.その低地や尾根に低草本が散在している.

k)    農地−湖の北部で村の中心部に位置し,トウモロコシを中心とした農地が広がっている.飼料作物用と食糧用のトウモロコシ畑が混じっている.

l)     居住地−村の中心部に位置し,住民が住居を構えている.敷地内ではヒマワリやハクサイを育てている.

m)   塩性地−湖の北部に位置し,塩害地が広がっている.ハママツナなどの耐塩性の植物がまばらに分布する.

n)    南東部雑草地−村の南東部に広がる雑草地.乾性の低草本が広がっている.

o)    砂丘南部潅木林−東部砂地の南部に位置するポプラの潅木林で,砂丘の防砂林として人為的に植えられているように群生している.

p)    湖南部草密地−湖南部に広がる比較的高い草本の群落であり,冬の採草地として利用されている.

q)    道路東柵−村の北部へ繋がる道路の東側の柵で,高低差の大きい丘がいくつかある.低草本が広がっているが,ニレ等の潅木もまれに散在している.

r)     道路西柵−道路東柵の正反対に位置する道路の西側の封柵地.低地に高い草本が広がっている.

s)    道路南西柵−道路西の南部に位置する封柵地.丘陵の低い位置に当たる.高い草本が群生している.

t)     植林地北−東部砂地の東部にかけられた,植林地を目的とする封柵地.大部分が砂地で,比較的高い草本が散在している.

u)    植林地南−植林地北の南部にかけられた,植林地を目的とする封柵地.大部分が砂地で,比較的低い草本が散在している.

v)    植林地南西−植林北の南西にかけられた,植林地を目的とする柵.北と南の柵とは異なり,高低両方の草本が繁茂している.

 景観生態区分は村の自然条件と人間の土地利用を大局的に捉えており,村全体の土地利用の実態評価と政策検討には使える.1つの景観区分には砂地や植生被覆地が混ざっているため,それぞれの景観区分の土地生産力を評価するためには,区分内部の土地被覆構成をみなければならない.土地被覆図は植生類型を高精度で捉えている.それぞれの植生区分の生産力を評価するためには地上調査データを使う必要がある.

3 都西村の景観生態区分図

 

4     フィールド調査

4.1     調査の概要

現地で代表的土地被覆の植生組成を調査し,牧草生産力を定量的に評価する.2006728日〜812日まで慶應義塾大学厳研究室と北京林業大学王賢研究室と共同で実施した.事前にASTER/VNIRですべての土地被覆をカバーするように調査地点を計画し,作業量を見積もった.現場では同様な景観区分の中ならアクセスと移動時間を考慮して,臨機応変に調査地点を設置した.

2007831日〜93日の間に慶應義塾大学厳研究室が再度現地に入り,植生だけを継続的に調査し,不足分を補足した.2回にわたって調査した地点を図3にプロットした.

 

4.2     調査方法

1)植生調査

 草本植物に覆われる植生被覆では1m2のコドラートを作り,どの植物がどの頻度で分布しているかという被度・群度を判別した.同時に4分の1の区画に対して植生種ごとに地上部を切り取り,生体重を計った.北部灌木林では草本層を1四方,灌木層を10m四方とした(写真1).

 植生調査記録には調査地点の地形条件,土壌条件,階層構成なども記入し,植生欄に植物種ごとに種名,草高,被度,群度,生体重を記録する.

 

  

写真1 植生調査と土壌調査

 

2)土壌調査

土壌調査は写真1のようにして日射に向かって1mほどの穴を掘り,表層,30cm50cm1mの深度別に土壌サンプルを取った.その土壌サンプルは北京林業大学が持ち帰って分析してもらった.

3)地形調査

マジェラン社製WAAS対応のProMark2で植生調査区域周辺最大200m四方範囲にわたって地形を測定した.地形の変化がある地点でGPSを用いて経度・緯度・標高を記録した. ProMark2は表章では平面方向3mの精度があり,標高精度ではその倍ぐらいと推測される.ALOSPRISMによる地形測定の精度も5m前後と考えれば(田殿ら, 2007),このGPSの測定値をALOS/PRIMSGCPとして使える.

 

4.3     調査結果

 今回は土地生産力の現状評価は目的とするため,ここでは植生調査データのみを利用する.また,2006年度データと2007年度データは気象条件の違いを考慮しないと,統合的に利用することができない.ここでは2007年に行った植生調査の結果を用いて評価を進めた.

22007年度に調査した全37地点の結果を一覧している.景観生態区分は当該地点が所在する景観生態区分名,植生類型は調査地点が該当する土地被覆分類を表す.ただし,被覆分類になかった“農作物”を新たに加えた.優占植物は調査地点で優占度の最も大きい植物名,全生体重は1m2の全植生の生体重(g),牧草生体重は調査地点の全植生のうちに家畜が好んで食べる種のみの生体重(g),全乾物重は調査地点における全植生の乾物重(g),牧草乾物重は調査地点の全植生のうち,家畜が好んで食べる種のみの乾物重を表す.フィールド調査では乾物重を実測しなかったため,中国草地と草業データセンタのWebサイトに掲載された同種植物の生体重/乾物重の比を利用した(grassland.agridata.cn).

 

5     土地生産力の評価

5.1     土地生産力

 表2に示した地点ごとの調査結果を植生類型被覆ごとに集計し,植生類型別の1m2当たりの土地生産力を計算して表3に掲載した.表3の各項目は植生類型,全植生生体重の平均(g),牧草生体重の平均,全植生乾物重の平均,牧草乾物重の平均,土地面積を表している.面積以外は1m2当たりの平均重量(g) を表している.面積は植生類型別の土地総面積を表しているが,農地面積は当該農地という景観生態区分において土地被覆分類の草密地で代用した.雑草地と草密地は生物生産力では殆んど変らないが,牧草生産力では違いがみられた.草密地の植生はほとんど家畜に食べられるものである.農地はトウモロコシ畑が多かったが,飼料用と食糧用の2種類あり,食用でも茎は家畜の越冬飼料として使われる.このため,トウモロコシの生物生産を全部可食にした.トウモロコシの生物生産については青森県畜産試験場草地飼料部(1992),豆畑については高頭・池田(2002),農家前後の白菜畑については道南農試園芸科(1988)の飼料を参照した.その結果,農地は草密地の10倍以上もの生産力がある.面積では雑草地が最も広く,農地が最も狭いが,生物生産力では農地の方が圧倒的に高いことがわかる.

 

5.2     土地収容力

ある面積の土地にどれだけの家畜を養えるかを表す指標として,土地収容力を定義する.家畜による植物の単位面積当たり被食量(g/u)は,板野(2004)によると,次式(1)ようになっている.

                                     (1)

採食量は家畜1頭が1日あたりに採食する植物の乾物重,放牧頭数はある面積における放牧している頭数,草地面積が牧草の被覆する面積,放牧日数がその土地に放牧開始から評価日までの放牧日数である.

國友ら(2000)によると,羊1頭あたりの1日に食べる食量は1500gとおくことができる.つまり,採食量=1500.また,式(1)において被食量=現存植生量とし,同時に放牧頭数を単位面積当たり可能な放牧頭数と置き換えることが出来る.これによって,式(8-1)は次の式(2)になる.

                      (2)

これは現存植生量で放牧終了日まで養う可能な羊の頭数を表している.現存植生量は現地の植物調査データを用いることができるが,調査地は放牧禁止の草地で,観測は8月末に行われたなら,現存植生量は年間最大土地生産力であり,この観測値から計算した頭数は単位面積当たりの土地収容力とみなすことができる.


2 地点別土地生産力の調査結果

地点番

景観生態区分

植生類型

優占植物

標高(m)

全生体重(g)

牧草生体重(g)

全乾物(g)

牧草乾物重(g)

1

塩性地

雑草地

ハママツナ

184

116.4

26.3

32.8

7.4

2

塩性地

雑草地

ハママツナ

184

96.8

0.3

27.3

0.1

3

塩性地

雑草地

ハママツナ

184

79.0

33.0

22.3

9.3

4

塩性地

雑草地

ハママツナ

183

65.6

2.3

18.5

0.6

5

塩性地

雑草地

ハママツナ

183

65.5

2.2

18.5

0.6

6

塩性地

雑草地

シチメンソウ

183

96.8

346.4

27.3

97.7

7

農地

農地

トウモロコシ

188

1975.1

1975.1

1975.1

1975.1

8

居住地

農地

ハクサイ

188

8159.5

8159.5

2719.8

2719.8

9

農地

農地

トウモロコシ

188

2565.0

2565.0

2565.0

2565.0

10

農地

農地

トウモロコシ

187

6354.0

6354.0

6354.0

6354.0

11

南東部雑草地

草密地

オオスズメノテッポウ

188

551.5

544.0

155.6

153.5

12

南西部砂地

雑草地

馬唐

184

144.4

144.4

40.7

40.7

13

西部雑草地

雑草地

イネ科sp.

184

415.3

415.3

117.2

117.2

14

南西部砂地

農地

トウモロコシ

188

3912.5

3912.5

3912.5

3912.5

15

南西部砂地

雑草地

ヨシ

191

184.8

184.8

52.1

52.1

16

南西部砂地

雑草地

冷蒿

196

451.5

220.1

127.4

62.1

17

南西部砂地

雑草地

シチメンソウ

181

1044.2

218.0

294.6

61.5

18

湖南部草密地

雑草地

スゲ属sp.

183

272.2

272.2

76.8

76.8

19

南東部砂地

雑草地

燭台虫実

190

281.0

9.3

79.3

2.6

20

南東部雑草地

農地

トウモロコシ

189

1746.1

1746.1

492.6

492.6

21

南東部雑草地

農地

ミドリマメ

188

309.2

309.2

154.6

154.6

22

南東部雑草地

雑草地

白草

189

955.2

942.4

269.5

265.8

23

植林地南

雑草地

チョウセンオヒシバ

863.3

853.2

243.5

240.7

24

植林地南

雑草地

アキノゲシ属sp.

638.8

638.8

180.2

180.2

25

植林地南西

雑草地

チョウセンオヒシバ

761.7

761.7

214.9

214.9

26

植林地南西

雑草地

チョウセンオヒシバ

660.5

639.6

186.3

180.4

27

植林地南

雑草地

チョウセンオヒシバ

114.3

114.3

32.3

32.3

28

植林地南

雑草地

苔草

187

278.0

278.0

78.4

78.4

29

植林地南

雑草地

燭台虫実

188

567.9

499.6

160.2

141.0

30

植林地北

雑草地

冷蒿

186

226.1

202.3

63.8

57.1

31

植林地北

雑草地

冷蒿

187

299.4

98.8

84.5

27.9

32

北部潅木林

草密地

コヌカグサ

211

253.9

205.5

71.6

58.0

33

北部潅木林

農地

ソバ

216

34

道路西柵

草密地

蒙古蒿

187

366.7

320.9

103.5

90.5

35

東部砂地

雑草地

黒蒿

199

132.2

89.9

37.3

25.4

36

道路東柵

草密地

エノコログサ

188

297.9

258.2

84.0

72.8

37

塩性地

農地

トウモロコシ

185

1787.7

1787.7

1787.7

1787.7


3 土地被覆別生産力の比較

植生類型

単位面積当たり生物量(g/m2)

面積(m2)

全生体重

全乾物重

牧草生体重

牧草乾物重

雑草地

367

104

291

82

17444663

草密地

368

104

332

94

7415961

農地

2979

2218

2979

2218

499249

 

観測対象地は放牧禁止草地でなければ,観測値は放牧開始以来の被食残存量を意味する.そして,式(8-2)はこの残存植生量であと何頭の羊を養えるかを意味する.したがって,土地の収容力は土地の運用方法,つまり,放牧日数にも依存する.両者を厳密に区分して計算すべきである.そのためにそれぞれの景観生態区分にどのような頻度で放牧を行っているかを知る必要がある.

 1つの景観生態区分には複数の植生類型が含まれる場合,植生類型ごとに式(2)を適用し合計を取る.つまり,

 

                                  (3)

 

5.3     都西村に対する評価の結果

都西村では夏季に放牧禁止の土地がある.また,政策的に毎年121日から531日まで放牧禁止としている.しかしながら,現実では禁牧を無視して放牧が行われていることもある.このことを考慮して,土地収容力の計算では,土地によって放牧日数を数パターンに分けることにした.夏季の放牧区域は183日間,冬季放牧地または採草地は90日間,植林柵等放牧を行っていない地域は0日間とした.

計算過程と結果を表4にまとめた.表中,調査地点数は集計された景観生態区分のうち,調査を行った地点の数である.それぞれの景観生態区分には塩性地・潅木林・砂地・雑草地・草密地・農地といった植生類型の面積が集計されている.そのうち,雑草地・草密地・農地だけが牧草地として,放牧可能な牧草地とした.

 景観生態区分において,植生分類が草密地にあたる部分だけを農地にした.景観生態区分の農地にはトウモロコシや雑草地など数種類の植生被覆が含まれており,厳密に区分することができない.このまま全部飼料用トウモロコシにすると,過大評価となってしまう.そこで,便宜的に草密地だけをトウモロコシとし,植生被覆分類上,農作物を加えた.

 全植生生体重の平均,牧草生体重の平均,全植生乾物重の平均,牧草乾物重の平均は表3の原単位を用いてそれぞれの景観生態区分の植生類型の面積に対して計算した.また,調査を行っていない景観区分に対しては定性的に似通った特徴をもつ景観生態区分同士の平均植生量で代用した.


4 景観生態区分別の土地生産力の評価

景観生態区分

調査地点数

単位面積生物量(g/m2)

運用パターン

可能放牧ヤギ頭数(頭)

全生体重

牧草生体重

全乾物重

牧草乾物重

禁牧日数

実放牧日数

夏季用

冬季用

禁牧時

実放牧時

東部砂地

1

299.4

98.8

84.5

27.9

183

183

1

0

425

425

東北部雑草地

0

306.2

261.5

86.4

73.8

0

0

0

0

 

 

東北部潅木林

0

127.0

102.7

35.8

29.0

0

0

0

0

 

 

西部砂丘

0

299.4

98.8

84.5

27.9

183

183

1

0

81

81

北西部雑草地

0

306.2

261.5

86.4

73.8

90

183

0

1

837

412

北西部潅木林

0

127.0

102.7

35.8

29.0

0

0

0

0

 

 

北部潅木林

2

127.0

102.7

35.8

29.0

90

183

0

1

570

280

西部砂地雑草地

1

133.2

89.9

37.3

25.4

183

183

1

0

96

96

南西部砂地

5

1147.5

936.0

885.5

825.8

90

183

0

1

9696

4769

西部雑草地

1

415.3

415.3

117.2

117.2

183

183

1

0

364

364

南東部砂地

1

281.0

9.3

79.3

2.6

90

183

0

1

7

3

農地

3

3631.4

3631.4

3631.4

3631.4

90

183

0

1

13429

6605

居住地

1

8159.5

8159.5

2719.8

2719.8

0

0

0

0

 

 

塩性地

6

86.7

68.4

24.5

19.3

183

183

1

0

91

91

南東部雑草地

4

890.5

885.4

268.1

266.6

183

183

1

0

1993

1993

砂丘南部潅木林

1

1787.7

1787.7

1787.7

1787.7

183

183

1

0

2745

2745

湖南部草密地

2

272.2

272.2

76.8

76.8

90

183

0

1

1391

684

道路東柵

1

297.9

258.2

84.0

72.8

0

0

0

0

 

 

道路西柵

1

366.7

320.9

103.5

90.5

0

0

0

0

 

 

道路南西柵

0

366.7

320.9

103.5

90.5

0

0

0

0

 

 

植林地北

1

226.1

202.3

63.8

57.1

0

0

0

0

 

 

植林地南

4

492.5

476.8

138.9

134.5

0

0

0

0

 

 

植林地南西

2

711.1

700.7

200.6

197.7

0

0

0

0

 

 

合 計

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5794

12753


 禁牧日数は禁牧のある区域においては年間放牧日数を示した.禁牧していない区分については0とした.実放牧日数は禁牧に対して,実際に放牧を行っている年間放牧日数を表す.同様に放牧を行っていない区分については0とした.

 以上の単位面積の牧草生産量と運用パターンを組み合わせて,それぞれの利用条件下の可能なヤギ放牧頭数,実放牧可能放牧頭数を算出し,表4の最後の列に記入した.

 評価結果として,村全体では夏季と冬季の可能放牧頭数がそれぞれ5794頭,12753頭となった.夏季と冬季では飼っている家畜の頭数が同じであることから,どちらか一方の季節のうち,少ないほうが村全体の放牧容量として考えられる.故に,村全体の可能放牧頭数は5794頭,約5800頭であることがわかる.

 村の現在の家畜放牧頭数は,社会調査の結果,ウシ800頭,ヤギ3000頭である.通常,ウシはヤギの約5倍の植生を摂取すると言われていることから,現在の家畜はヤギ7000頭分を所有している.これを5800頭と比較すると,現在の家畜数は約1200頭分超越していることがわかった.

 

6     土地利用方針の考察

 

 土地利用計画は土地の収容力の下で環境保全効果と経済効果を同時に実現できる用途,強度,配置のことである.その前に村にどれだけの人口を収容し,それらの人々はどれぐらいの消費水準にするかを設定なければならない.工業化,都市化が進む中国農村部にとってこのことを前提に計画しなければならない.現に後旗政府はアゴラ町を観光拠点として整備し,周辺部から人口を吸収する移民の町を計画している.それは都西村にどんな影響を及ぼすかは,重要な課題であるが,今回は議論しない.

 都西村にとって現在の人口を養い,砂漠化の進行も抑えるためには2つの方策がある.

1つ目は農地の生産力を利用して家畜品質をあげる.表4からわかるように農地の収容力が他の区分と比較して圧倒的に大きい.細かい数値に議論の余地があってもこの事実は間違っていないと思われる.農地には商品作物として,または食料用としておもにトウモロコシが栽培されている.トウモロコシの背丈は高くて200cmを超え,低くては150cmほどある.すべて飼料作物として利用されなくても,砂丘上の放牧地より生物生産力は圧倒的に大きい.トウモロコシを換金作物とせずに飼料作物の為に栽培することがある.それによって養える家畜の数が増大し,同時に放牧地への環境圧力も軽減できる.トウモロコシは飼料作物としての栄養価値が雑草より高いため,家畜の品質改良にもなる.これはガンチカに近い村ではすでに実践している.それらの村は全農地を家畜飼料用に使い,乳牛を飼っている.毎日,新鮮な牛乳をガンチカ鎮へ出荷し,高い収益をあげている.これが都西村でもできるようにするためには道路の改修が重要である.

農地を飼料畑にすれば,放牧する必要がなくなる.つまり,囲い飼へのシフトである.砂漠化を抑制するために政府は囲い飼を推奨している.農地を飼料生産基地にし,トウモロコシよりも良質な飼料植物を育てる.農地は住居にも近いし,地形も平坦なため,機械化にも適する.そのために農家に家畜小屋と糞尿処理施設を整備しなければならない.できれば,集落と別居に家畜小屋村を立てて,集中供水,供熱を行い,糞尿処理も集中処理して,循環型の畜産村を建設するのが理想である.それによって各家庭の衛生条件も改善でき,疾病の防治にも有益と考えられる.そのためには初動資金が必要で,すぐに実現されないかもしれないが,しかし,アゴラ鎮の観光開発と一体的に考えれば,まったく可能性のない話ではないような気がする.

 2つ目は土地生産力を高めることである.景観生態区分の単位面積生物量の結果からみて,塩性地及び西部砂地雑草地,北部潅木林は牧草生産について,まだ改善の余地がある.まず,塩性地は家畜が食することのできない耐塩性の植物が多い.しかし,ヨモギ属の植物は乾燥することで冬用の飼料としても利用できる.そういった植物を夏季に播種し冬用に採集しておくことが考えられる.また,西部砂地雑草地や北部潅木林は固定砂丘であるため,植生が繁殖できるポテンシャルがある.現在,灌木林の下は豆畑になっているが,それをやめれば豊富な牧草の生産地にもなる.

 以上は採草及び飼料作物の栽培を増やし,飼料の貯蓄技術を導入し,囲い飼を進め,夏季にも放牧日数を減らせる戦略である.それによって付加価値の高い家畜が育てられ,250人の住民を養うには余裕があるはずである.

 

7     おわりに

 

 今回の分析では,現実の農地を作物によって区分していないこと,どの農地が飼料作物用に適するかを作成していないことで,若干の精度落ちがみられている.今後,農地を高精度にマッピングして,地上調査も行い,分析の精度を高めることが必要である.

 都西村にも間もなく整備された道路が通る.これにより湖等の観光資源を利用した観光事業の発展が考えられる.この道路は村の北側に延ばせば,北部の未利用地を採草地として使うことも容易になる.土地利用計画を作成するにあたっては,国家政策や地域情勢を掴み,先見性のある戦略を打ち出さなければならない.

 

謝辞

 

 本研究は慶應義塾大学政策・メディア研究科2007年度学術交流支援資金による研究助成を受けて行ったものである。研究を実行するに当たり、非営利団体緑化ネットワーク東京本部およびホルチン現地事務所から多大なご協力をいただいた。北京林業大学王賢教授、武蔵工業大学環境情報学部吉崎真司教授からフィールド調査に関してご協力をいただいた。また、フィールド調査には厳研究室学部生が多数参加された。また、以上の方々に感謝を申し上げたい。

 

参考文献

 

Zonneveld, I. S. Jan, 1995, Land unit survey, Land Ecology, SPB Academic Publishing, Amsterdam.

青森県畜産試験場草地飼料部,1992,サイレージ用とうもろこしの栽培条件と生育・収量,平成45年 青森県畜産試験場 試験研究成績書,http://www.applenet.jp/home/08000401/promote/H6/H6-124.htm

板野志郎,2004,草地におけるエネルギー流,草地科学実験・調査法,23.2469-482.

高頭 謙介・池田 武,2002,マメ科三作物における栽植密度とフィガロン散布の組み合わせが開花数および収量構成要素に及ぼす影響,日本作物學會紀事,712),108-109

國友淳子・吉川賢・森川幸裕,2000,中国毛烏素沙地における衛星画像を用いた植生量および放牧圧の推定, ランドスケープ研究,63 (5)531-534.

田殿武雄・島田政信・村上 浩,2007,ALOS搭載PRRISMAVNIR-2の初期校正と精度管理について,日本リモートシング学会誌,27(4)329-343

道南農試園芸科,1988,無加温ハウス利用による夏秋播冬どり栽培に関する試験,http://www.agri.pref.hokkaido.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/S63gaiyo/1987057.htm