学術交流支援資金 電子教材作成支援
「インタラクションデザイン」報告書
研究代表者
環境情報学部教授 奥出直人
共同研究者
安田俊平(政策・メディア研究科 修士1年)
橋本翔(政策・メディア研究科 修士1年)
研究課題
本研究では人・環境・社会が複雑にインタラクションするモノづくりの設計の学習を支援する「DESIGNING BLOCKS」を開発する。
研究背景と目的
「インタラクションデザイン」では哲学と工作を同時に学び、現象学的設計論を用いて環境と社会と個人とものが複雑にインタラクションするデザインを行う。このデザインを通して生み出されるメディアは社会や人間の生活・経験を豊かにするモノである。そのためにデザイナーはフィールドワークで得た経験を元にコンセプトをつくり、そのコンセプトを経験できるプロトタイプをもって検証を繰り返す。インタラクションデザインのこのプロセスの中で、デザイナーは設計する際に大きな壁にぶつかることとなる。コンセプトからプロトタイプを作る際に、デザイナーが創造した新しい経験/モノのクリエイティビティ/新規性が失われてしまうのである。その壁を乗り越えるために2つの能力が必要である。その2つの能力とは設計力とデザインのための技術力である。
1つめの設計力とはコンセプトの面白さ・創造性を失うことなく形にする能力である。そのための1つの要素がシナリオで表現し分析する能力であり、その代表的な技術がシネマトグラフィである。2つめの要素として挙げられるのがWeb2.0リテラシーである。これから先のインタラクションデザインにおいては、必ずバックグラウンドにWeb2.0的なフレームワークが存在するものとなる。日常生活の中からWeb2.0に触れておくことで設計力の向上にも繋がる。
2つめの能力であるデザインのための技術力とは、自分たちがデザインしたモノを実際に作り経験することを可能にする技術である。環境・社会・個人が複雑にインタラクションするデザインでは単一的な技術のみでなく、プログラミングから意匠・造形技術まで多岐に渡る能力を使いこなせなくてはならない。しかし現状ではこれらの技術に横断的に触れ学習できるツールが存在しておらず、プログラミングや電子工作など個別の専門書を確認しなくてはならない。
社会・人の生活を豊かにするデザインを行うために設計力・デザインのための技術力を横断的に学習できるツールが必要不可欠である。
研究成果
■ Designing Blocks
http://www.ok.sfc.keio.ac.jp/2007/lecture/designingblocks/
※認証がかかっています。
[id]db
[password]db2007
■ Desigining Blocksとは
フィジカルなインタラクションをデザインする際には複雑な様々な技術のたな卸しが重要な課題となる。そのためには日常的に技術に触れていることと、何か作りたいと思ったときにどんな技術を使えば実現できるかを発見できるかが非常に重要となる。従来ではインターネットを通じて検索したり書籍等で調べたりしている。しかし授業を履修するような初心者にとってはそもそもどのように検索してよいか、どのように調べていいかわからずとまどうことが多い。そこで、インタラクションデザインおいて共通的に使われることの多いツールや、知っておくとよいツールについてを並べる電子教材を制作した。本ツールを用いることで自分たちがつくるモノのコンセプトが確定したあとにすぐにものづくりに取り掛かることが可能となる。
本ツールが目的とするのは技術力を身につけることではない。設計を行うための手助けを行うツールであり、身につけられるのは様々な技術に対するリテラシーである。文字を読めることや計算をできることが様々な仕事を行ううえで必要なリテラシーであるように、Designing Blocksはインタラクションデザインを行うために必要な技術のリテラシーを集めた道具箱となる。
■ Desigining Blocksの仕組み
Designing Blocksはひとつひとつの技術がBLOCKとなっており、その技術によって生み出せる新しい経験とその技術の使い方(マニュアル)を理解することができる。何かを調べているときに同時にマニュアルやサンプルが閲覧することで素早くプロトタイプにうつることができる。
Designing Blocksを作成にあたってはSixApart社のMovableType3.3を用いた。MovableTypeを用いることで各BLOCKにタグ付けを可能になると共に、カテゴリわけができる。また、誰でも追加・編集可能であるためBLOCKの追加が容易であるというメリットもあげられる。また検索も可能であり、用途にあわせてBlocksを探すことも可能となる。
■ Blockの内容
今回の研究にあたり、特に重要となる技術の選出を行った。選出を行った技術に対して調査を行いその技術のメリットやプロトタイピングを行うにあたってどのような効果をえられるかを調査した。そして実際にその技術を用いたプロトタイピングを行い、その技術を使う上で便利なマニュアルならびにサンプルを作成した。
今回作成したBlockは以下の通りである。
・電子工作Blocks
ロジックアナライザー
|
オシロスコープ |
基盤掘削 |
・マイコンBlocks
AVR |
PSoC |
MOXA |
・センサー・ネットワークBlocks
MOTE |
ZigBee |
GPS |
XPort |
・造形Blocks
フライス盤 |
MODELA |
エアブラシ |
・造形Blocks
MAX/MSP |
まとめと今後の課題
本研究ではインタラクションデザインのプロトタイピング・設計において特に必要となるBlocksに容易にアクセスが可能となるWebページを作成した。特に今回は様々な分野における14のBlockの作成を行った。実際にはこれらのBlockを並べて得られるものは広い分野に対する技術力ではなく、技術のリテラシーであることが確認できる。インタラクションデザインの分野における技術の移り変わりは非常に激しく、今後はより分野を広くまたBlockの数の拡大を進めたい。Blockひとつひとつを作成するには非常に多くの労力を必要とするため、より多くの人を巻き込んで拡充していくことが今後重要となる。
また実際の設計を行うにあったって必要となる技術のリテラシーを補充する教材となったが、設計には同時に設計力が必要となる。様々な技術に触れて、そこから新しいアーキテクチャを生みだす能力である。これらにはオブジェクト思考やWEB・ネットワーク・コンピュータなどのリテラシーなどが含まれこの点についてもDesigningBlocksで触れて、ノウハウを獲得できるようにする必要性がある。今後はこの設計力を補うことができる教材へと強化したい。