研究報告書
2007年度 学術交流支援資金 電子教材作成支援
科目名:メディアと外国語学習環境設計 − ドイツ語教材開発研究プロジェクト
研究代表者氏名: 藁谷郁美
所属:総合政策学部 兼 政策・メディア研究科
研究課題:SFCドイツ語自律学習支援システム構築
― 学習者データベースシステムの構築およびインタラクティブな教材の開発とその実践・評価 ―
研究組織:
藁谷郁美(総合政策学部 兼 政策・メディア研究科・准教授)
平高史也(総合政策学部 兼 政策・メディア研究科・教授)
太田達也(総合政策学部・専任講師)
マルコ・ラインデル(総合政策学部・訪問講師)
板宮朋基(政策メディア研究科・博士1年)
石田桃子(政策・メディア研究科・修士2年)
今井小帆里(政策メディア研究科・修士1年)
I. 研究の背景と目的
春・秋通年で開講している本研究プロジェクト「メディアと外国語学習環境設計 −ドイツ語教材開発研究プロジェクト−」では、毎学期ドイツ語教材開発を目的として、様々な自律学習用のWeb教材およびモバイル教材コンテンツを開発・制作している。本研究プロジェクトで開発しているWeb教材およびモバイル教材の多くは、SFCドイツ語研究室で開発された教材シリーズ『モデル 問題発見のドイツ語Modelle』(三修社;全3巻)に準拠しているが、本シリーズの改訂にともない、コンテンツの見直し・拡充が必要となり、昨年度までに以下の部分までの作業を終えた。
1) ドイツ語作文添削システム「サッと独作」の更新
2) 「名詞画像データベース」の更新
3) 「名詞性あてクイズ」の更新
4) 文法穴埋め問題「10分間テスト対策」の更新
5) 「Modelle」音声ファイルデータの更新
6) 携帯電話用ドイツ語コンテンツ「Mobilin」の動画・音声データの更新
7) 「Modelle」動画データのDVD化
また、インテンシブコースで毎週水曜日に学習者が見るビデオをpodcasting用のファイルに変換し、学習者のもとに定期的に配信されるシステムの構築も昨年度までに行った。podcastingについては、これまで2回にわたり使用状況アンケート調査を実施した。
このようにコンテンツの多様化・充実化を目指してきた一方で、未だに実現されていなかったのが、学習者の学習履歴及び成績を一括管理するデータベース・システムの構築である。これまで、個々の学習者の学習履歴を通時的に一括して管理するシステムは開発していないため、個々の学習者のこれまでの学習履歴を調査する場合には煩雑な作業を余儀なくされる状況である。今後、履修経験者の数が増えれば、この問題はますます大きくなると予想される。
また、今後podcastingによるビデオ教材配信システムをより効果的に学習の中に取り入れるためにはどのようにするべきか、アンケート調査や授業との関連づけの試みを通じて、その方法を模索し、評価する必要がある。
さらに、インテンシブ初級3ではドイツのドレスデン工科大学およびハレ大学の日本語科学生と、ビデオ・カンファレンスおよびビデオ・チャットによるタンデム学習を導入しているが、この様子を動画ファイルとして記録するアーカイブシステムの構築・改良も行っていく必要がある。
本研究は、SFCドイツ語自律学習環境の改善に向け、上記の点に重点を置いたシステムの構築を図るとともに、自律学習教材コンテンツの更なる多様化・充実化を目指したものである。
II. 研究成果
以下に本研究の成果を、4つに分けて述べる。
1. 学習者データベースシステムの開発
学習者の学習履歴を一括管理するデータベース・システムを開発した。これにより、ある学習者が、どの学期にどのドイツ語科目を履修し、どのような成績を得たか、またその後どのような外部資格試験等に合格したかなどのデータを一括管理するとともに、さまざまな条件下で検索するための基盤システムが整った。また、各学習者へのより適切かつ迅速な学習アドバイスも、これにより実現可能となった。今後は、学習者のデータを入力するとともに、得られたデータを教育効果の観点から分析し、よりよい学習環境を構築するための示唆を得たいと考えている。また、データベースのページに頻繁にアクセスしてもらうための付加サービスを考案・実現したい。
なお、この開発にあたっては、文部科学省 私立大学学術研究高度化推進事業 学術フロンティア「行動中心複言語学習プロジェクト」の研究費より一部支援を受けた。
2. インタラクティブな教材の開発とその実践・評価
podcastingによる動画教材配信システムの構築により、SFCのドイツ語学習者は、授業で見たビデオを授業後すぐにiPodもしくはPC上で繰り返し見ることができるようになっているが、今年度はさらに、学習者自身が授業内で作った会話を動画または音声の形で配信するシステムを構築した。これにより、学習者をあくまで「受容者」として捉える従来型のpodcastingとは異なり、学習者を取り込み参与させる「参加型・双方向的」なpodcastingによる学習環境の構築が実現した。また、学習者の使用状況及び使用評価のアンケート調査を行い、さらなる改良点についての示唆を得た。本研究の成果については、2007年6月10日に日本独文学会春季研究発表会(東京大学駒場Iキャンパス)において、「外国語学習環境における動画・音声配信教材の意味と機能 −podcastingを中心に−(Multimedia-Abos
und Fremdsprachenlernen – Lernende als Empfänger und Sender beim Podcasten)」と題したポスター発表をドイツ語で行った(発表者:太田達也,藁谷郁美,マルコ・ラインデル,江面快晴)。
3. タンデム活動のアーカイブ化
インテンシブ初級3で導入しているタンデム学習(母語が違う者がペアになり、互いの母語を教えあう外国語学習)における実際の活動の様子を、これまではハレ大学のシステムに依拠して記録・保存されていたが、今年度あらたにSFCドイツ語研究室内に専用のサーバーを設置し、タンデム活動をアーカイブ化するためのシステムを構築した。これにより、学習者が自分たちのタンデム活動の様子を繰り返し見ることができるだけでなく、学習者言語の特徴についての基礎データの収集が可能となった。今後は、このデータを分析して、よりよい言語教育のための材料とする予定である。
4. 学習環境の整備
上記の作業と並行して、wikiを利用した海外研修情報サイトd-mapを開発した。これは、利用者自身が情報をアップできる機能を備えたものであり、すでに学習者に公開して運用が始まっている。
なお、1.〜4.の研究の成果については、2007年11月22日・23日、SFC Open Research Forum 2007(於 六本木アカデミーヒルズ40)において、「学習者とともに作るドイツ語学習環境」と題した展示・デモンストレーション発表を行った。
III. 今後の課題
本研究の目指すSFC自律学習支援システムの構築は、今後のドイツ語学習環境整備の基盤を成すものである。特に学習者の学習履歴を管理するデータベースの構築は、SFCのドイツ語教育領域にとどまらず、SFC言語教育全体にも関わる研究となろう。すでに大学院プロジェクト「ITと学習環境」では、ドイツ語、中国語、フランス語セクションとも協働しながら、podcasting等を利用した学習環境のさらなる構築を行っていくことになっている。