2008年度学術交流資金成果報告書

 

衛星画像と植林履歴を組み合わせた砂漠植林のモニタリングとCO2吸収の評価

 

環境情報学部 厳網林

yan@sfc.keio.ac.jp

 

 

慶應義塾大学は1999年から中国瀋陽市康平県で砂漠化防治のための植林事業を進めてきた。これは産業研究所、商学部、総合政策学部、環境情報学部の教員らが参加した学部横断的なプロジェクトであり、故小島朋之教授の強いリーダーシップの下で進められてきた。現在、プロジェクトを植林CDMにするプロジェクト設計書(PDD)がようやく完成され、日本では林野庁、中国では国家発展委員会に提出されることになった。両国政府の審査を受けてから、国連気候変動条約枠組み組織(UNFCCC)の下に設置されているCDM理事会に提出し、小規模植林CDMA/RCDM)プロジェクトとして認めてもらうことになる。代表者の研究室はプロジェクト設計書の作成の中で、地理情報を用いて植林地を設定し、現地に行って植林地の地上・地下CO2ベースラインを評価し、PDDの作成に協力した。この調査と評価は研究室の学生が担当した。学生らはCDMプロジェクトに隣接する内蒙古自治区ホルチン砂地のNPO緑化地において、2003年以来、毎年砂漠緑化フィールド研修を受け、植生調査をはじめ、さまざまなフィールドワークのスキルを習得できたからである。これによって、NPOを通してフィールド研修を行い、その成果を実プロジェクトに適用する教育・実践モデルが確立できた。

康平県CDMプロジェクトはCDM理事会によって認めてもらってから、今後5年おきに植林地をモニタリングし、樹木の生長とCO2の吸収を評価しなければならない。砂漠化土地の植林は土地条件による樹木生長に不均一性がある。CDMガイドラインでは植林の状況に応じて区画し、それぞれの区画に対して適切な密度でサンプリングを行う要求がある。その際に航空写真または衛星画像の利用は推奨されている。航空写真が使えない地域では、衛星画像で代用する。私たちは低価格で2.5mの解像度を有するALOS画像を期待したい。右図に示すように良質なALOS画像は植林予定区画内部の植林地、砂地、草地を区分することができる。それを用いて植林地の変化をモニタリングできる可能性がある。しかし、樹木が成長すると、樹冠密度が変化し、草地との区別が付きにくくなる。つまり、衛星画像による植林地のモニタリングの能力は、樹種、樹齢、土地条件によって変わることがあり、画像情報だけでは十分ではないと考えられる。

一方、NPO植林地は植林の履歴が台帳に残されている。土地の境界、面積、植えた面積などを参照することができる。そのデータをグランド・トールスとして使えば、衛星画像だけによる土地被覆の区分と比べて、より詳細な区画図が作成できる。私たちはNPOの植林地において研修フィールドワークの一環として植林地のモニタリング地点を設置しており、植林履歴も記録させている。

以上のことから、低コストで高精度のALOS画像情報と現地植林地の履歴情報を組み合わせた方法はモニタリングに有効だと考えられる。そこで、本研究は植林の時期、成長の具合、土地条件の異なる植林地を選び、衛星画像情報と地上フィールドデータを統合して、植林地のモニタリングとCO2吸収を評価する方法を研究した。

 

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