2008年度 学術交流支援資金報告書

 

研究課題名       電子教材作成支援3-16 スペイン語3 (ベーシック3

研究代表          山本純一 

所属                環境情報学部(教授)

研究協力者       寺田 裕子(スペイン語訪問講師(招聘))

 

報告書目次

1 本研究の背景

11 2007年度からの新カリキュラム導入と言語科目の履修コースの変更

12 スペイン語科目の変更点と課題

13 新教材の検証と、改定の必要性

2.本研究の目的

       21 ベーシックコースの授業を補助する教材の作成

     22 スペイン語コース全体の授業内容レベルをあげるための教材の作成(DELE対応教材の作成)

     23 

3.研究開発

4.研究成果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I 研究の背景

 

本研究は、SFCの外国語教育の一拠点スペイン語研究室として、日々変化する電子媒体による学習環境をかんがみ、目標として学習者主体のスペイン語LMS(Learning Management System)を構築することを掲げた。

 

1−1 2007年度からの新カリキュラム導入と言語科目の履修コースの変更

 

 新カリキュラムの中で、語学科目は、卒業要件の見直しの一つになっている。

従来、外国語は卒業単位の必修科目で、10単位が必要であった。今回の改訂で、環境情報学部の学生は、外国語科目は必修ではない。総合政策学部の学生は、一言語で4単位が必修となった。

 

1−2 スペイン語科目の変更点と課題

 

 スペイン語は、従来、ベーシックコースと、インテンシブコースの複線型履修コースを準備していた。

改訂後、他言語と異なり独自のコースを準備した。

 

2007年度からの新カリキュラム(スペイン語)

 

ベーシック1(2単位)→ベーシック2(2単位)→ベーシック3(2単位)→インテンシブ1(4単位)

 

     →インテンシブ2(4単位 海外研修)→インテンシブ3(4単位)

 

単線化によって、入学年度からインテン1まで3セメスターが必要になった。従来、入学年度の秋学期からインテンシブで4単位学習していた内容を、2単位構成の3セメスター制として見直す必要がでてきた。

 

 この改定で重要な点は、教える内容を、4単位分から2単位分に減らすのではなく、2単位であっても従来の4単位の教育内容に近づけるよう、学習内容の充実化を目指す点である。

 授業内容を見直すため、新しいシラバスを構築する必要がある。そしてそのシラバスにそった良質な自習教材を開発する必要がある。すでにスペイン語では、ウエブ上に文法自習システムを構築し、実際に授業で活用し一定の評価を得てきている。さらに、授業外の活動を促す教材として、CD語彙教材の活用を本格化し、その活動を成績評価の一部とすることを目指している。さらに、学生の興味にあわせ、自分で単語帳を増やせる機能を搭載することを目指している。

 

1−3 新教材の検証と、改定の必要性

 

 上記の背景をもとにスペイン語では、新カリキュラムに添って、2006年度から電子教材開発を進めてきている。2007年度は、主教材第27課から第39課の内容に合わせてCD語彙教材を開発した。

 今年度は、

 1)これに続く40課から65課までを網羅する教材の開発。これによりスペイン語は、主教材の1課から65課まで、すべてを網羅したCD自習教材が完成する。

 2)この教材を、再構築することによって、以下に述べるスペイン語資格試験のレベルに対応したインテンシブスペイン語の副教材を構築する。

 3)2008年春から授業で使用し始めた教材について、使用する中で出てきた問題点を分析・訂正作業が必要である。

 4)現在の単語帳に、学生の自立的学習を支える機能を搭載したい。具体的には、関心のあるテーマについて、学習者が自由に単語を記載し、テスト機能などを使えるようにする、また、DELE資格試験に対応する単語帳を準備し、テスト対策の教材として使用する、など、最終年の完成バージョンをめざす。

 5)完成した電子教材を、研究室でシステムおよびコンテンツを、容易に、維持改定できるように整備する必要性がある。

 

II 研究の目的

 

2−1 ベーシックコースの授業を補助する教材の作成

 

(1)語彙学習教材 (第40課から第65課までのCD語彙自習教材の作成)

   先学期に続くCD教材作成

 

(2)ベーシック・インテンシブ各コースに対応するスペイン語の単語学習CD教材の充実化

            語彙リストだけでなく、授業で使用する小テスト機能をそなえ、さらに、自習教材として、学習した内容をテストで確認できる機能を備えた教材の開発

 

(3)音声重視のSFCスペイン語カリキュラムに沿い、ネイテイブの音声を軸とした独自の単語学習教材の開発

 

 以上の3点を新教材の独自な点として重視し、開発を進めてきたが、CD教材としては、本年度は最終版の完成をめざした。

 

2−2 スペイン語コース全体の授業内容レベルをあげるための教材の作成(DELE対応教材の作成)

 

   スペイン本国では、第二言語としてのスペイン語能力を認定するテスト(DELE)が実施されている。日本でも、受験可能であるが、今回のコース改訂では、このレベルに準じた授業を準備し、DELEの各レベルに応じた教材を各コース内で新たに準備する必要があると考えている。なお、DELEは、現在、「ヨーロッパ言語共通枠組み参照」という、EU内の外国語教育の共通枠組みの一部となっており、それを踏まえたレベルの対応表が、下に示すものである。SFCのコースも、これに準拠したシラバスの構築を目指しており、今期の電子教材は、その一部をになうものである。

 

DELEの各レベルは、共通枠組みでは、以下の通り規定されている。

        Nivel

    Denominación

Diplomas de Español

   SFCカリキュラム

          C2

       Maestría

Diploma de Español

     Nivel Superior

 

          C1

Dominio operativo eficaz

 

インテンシブ3 スキル

          B2

       Avanzado

Diploma de Español

     Nivel Intermedio

インテンシブ2

海外研修

          B1

       Umbral

Diploma de Español

     Nivel Inicial

インテンシブ1

ベーシック3

          A2

       Plataforma

 

ベーシック2

          A1

       Acceso

 

ベーシック1

 

共通枠組み参照 全体的尺度

   熟達した使用者

 

C2

聞いたり、読んだりしたほぼ全てのものを容易に理解することができる。

いろいろな話し言葉や書き言葉から得た情報をまとめ、根拠も論点も一貫した方法で再構成できる。自然に、流暢かつ正確に自己表現ができ、非常に複雑な状況でも細かい意味の違い、区別を表現できる。

 

C1

いろいろな種類の高度な内容のかなり長いテキストを理解することができ、含意を把握できる。言葉を濁しているという印象を与えずに、流暢に、また自然に自己表現することができる。社会的・学問的・職業上の目的に応じた、柔軟な、しかも効果的な言葉遣いができる。複雑な話題について明確でしっかりとした構成の詳細なテキストを作ることができる。その際、テキストを構成する字句や接続表現、結束表現の用法をマスターしていることが伺える。

    自立した使用者

 

B2

自分の専門分野の技術的な議論など、抽象的また具体的な話題の複雑なテキストの内容を、ほとんど理解することができる。お互いに緊張しないで、母語話者とやり取りができるぐらい流暢かつ自然である。かなり広範な話題について明確で詳細なテキストを作ることができ、様々な選択肢について長所や短所を示しながら自己の視点を説明できる。

 

B1

仕事・学校・娯楽で普段出会うような身近な話題について、標準的な話しかたであれば主要点を理解できる。その言葉が話されている地域を旅行しているときに起こりそうな、大抵の事態に対処することができる。身近で個人的にも関心のある話題について、単純な方法で結び付けられた。脈絡のあるテキストを作ることができる。経験・出来事・夢・希望・野心を説明し、意見や計画の理由、説明を短く述べることができる。

  基礎段階の使用者

 

A2

ごく基本的な個人的情報や家族情報・買い物・近所・仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使用される文や表現を理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応じることができる。自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。

 

A1

具体的な欲求を満足させるための、よくつかわれる日常的表現や、基本的な言い回しを理解し、用いることができる。自分や他人を紹介することができ、どこに住んでいるか、誰と知り合いか、持ち物などの個人的情報について、質問したり、答えたりできる。

もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け舟を出してくれたら、簡単なやりとりができる。

 

 

(1)DELEに対応する単語リストの整備と教材化

 ベーシック・インテンシブの各コースのシラバスを、上記に示したDELEの基準に沿って作成し、語彙教材を準備していくことが第一の目的である。

(2)単にリスト作成するだけでなく、自習教材として、テストし確認する機能を搭載する。

(3)将来的に、自分で語彙を追加していけるような機能開発を視野に入れる。

 

III 研究開発

 

授業を補助する副教材の充実と、DELEに準拠した電子教材の作成が今期の課題である。

 

具体的には、以下の計画のもとで実行した。

 

1)教材の概要・全体像を把握、教室や学習者個人レベルでの使用状況もわかってきた。

そこで、今後の発展のために、基礎構築の見直しをした。

積み上げて構築してきた部分に、変更したほうがいい部分がいくつか散見され、構造上の改良を加えた。

それにより、今後、自習教材として利用者が単語を加えていく機能を搭載することができた。

2) ベーシック1から3、さらに2008年度で、インテンシブ1までを網羅して授業での副教材としての機能を完成させた。

 

3) 単語の選定をDELE初級レベルに準拠した結果、自習かつ授業での小テストとして使用できる教材として完成しているが、2008年度は、中級レベルに引き上げ、それと同時に学習者が興味のある分野について、自分で単語帳を拡大作成できるようにした。

 

以上のために、

1)CDのプログラムの見直しと、再構築

2)スペイン語単語の見直しと、検定試験に対応する単語の洗い出し

3)全体像として統一して、バランスのとれた電子教材としてデザインする

以上のワーキンググループにわかれて、作業を行った。

 

 

W. 研究成果

 

 昨年度大幅に拡充したDELE に準拠した語彙教材「Cocina」の理解促進と改善が今期の研究成果である。授業を補助する副教材の充実と、DELEに準拠した電子教材が完成した。

SFCのスペイン語学習者に、授業に取り込まれている教材で学習しながら、スペイン語のレベルが上がればあがるほど、自立学習へと導くことのできる教材が完成した。また、言語学習は、続ければ続けるほど、専門性が増すという特徴がある。そこで、自分が、初級から学んだ単語と同時に関心のあるテーマや専門性の高い単語を追加することができるというノート機能を備えた自分独自の教材を提示した。

 

 

具体的には、以下の点である。

1)      研究室スタッフ(教員・学生)が教材の仕組みを理解する。

これまで、電子教材作成は長い期間にわたって行われてきており、その機能や仕組みの全体像を把握が年々難しくなっていた。この状況を解決するために、大学院生による解説と演習を行った。

これによって得られた利点は以下の通りである。

(a)    担当スタッフによる履修者への応答が迅速かつ適切なものになった。なお履修者からは、教材の誤植指摘、オンライン上システムのアカウント情報問い合わせが多い。

(b)    電子教材作成に携わる学生のモチベーションが向上した。

これまでは一部の学生に「先輩に言われた通りに書いているだけで、どういう仕組みで動くのか分からない」などの声が聞かれることがあったが、仕組みの理解が進んだために改善案を積極的に提言するなど、スペイン語研究室のスタッフの姿勢の変化が見られた。

 

2) 教材と開発環境の改善

 上記 1) で教材の仕組みについて整理・理解が進んだために、教材そのものや教材開発環境の改善を進めることが可能になった。教材そのものの改善として、「Cocina」の次年度に向けてプロトタイプを作成した。

プロトタイプの特徴は以下の通りである。

(a) 既存の音声・画像素材は再利用した。

(b) プログラム言語の特長を生かした、再利用・応用しやすい作りにした。
(c)
語彙教材の要となる単語一覧を、本体から切り離して データとして用意することで、追加・変更を容易にした。

また、スペイン語研究室の自サーバのOSを変更し、担当ス タッフも操作しやすいGUIのものにした(Mac OSX)

バックアップ環境、無停電電源装置、研究室内 LAN環境を整え、 担当スタッフに周知することで教材開発環境が改善された。

3) 今後の展望

 現在「宿題システム」「Cocina」はそれぞれ完全に分離したものである。CocinaCD媒体で頒布しているために、毎年、作成コストが嵩むとともに、事後の変更・更新を行うことができない。また、教材内で行ったテストの記録を、履修者や他人が改竄できないような形で記録し、スペイン語研究室へ送る仕組みがないために、教材を利用した語彙の定着は毎週の紙媒体でのテストに頼らざるを得ない。こうした問題を解決するため、次年度は「宿題システム」の中に「Cocina」を導入する予定である。これにより、語彙教材がオンライン化され、同じアカウントで両方の教材を使用することができる。このことは使用者にとって便利なだけではなく、成績処理や問題・解説の更新が可能になるため、運用者にとっても大きな利点となる。次年度以降の移行・統合が円滑に進むよう、 今期は上記  1)  2) で記した「仕組みの理解」と「教材、開発環境の改善」に合わせて、実際に両教材のプログラムの見直しを進めていくことが来期の課題である。

                                         

文責 寺田裕子 総合政策学部 訪問講師 hterada@sfc.keio.ac.jp