学生交流の促進を主眼とした、フランスにおける国際学術活動拠点の形成

國枝孝弘

総合政策学部准教授

 

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスフランス語セクションはこれまで、フランスの諸大学と様々なレベルで交流をはかってきた。共同研究、海外研修、フィールドワーク、遠隔テレビ会議、共同教材開発などである。今回の研究では。研究面においても、教育面においても、これまで以上に交流の推進をはかるために、活動拠点形成の可能性について探った。

 

1)共同研究の推進

 フランス、グルノーブル第3大学において、國枝が«Autonomie et technologie appliquées au FLE en milieu universitaire japonais»(日本の大学環境における外国語としてのフランス語教育に適用される自律学習とテクノロジー)というタイトルで講演を行った。これはグルノーブル大学の外国語教育の研究者、および修士、博士課程の学生を対象とした講演であり、現在の日本における外国語教育研究の先端を紹介するものである。その後、参加者とディスカッションをし、共同研究の可能性を探った。

 

 2)学生交流の新たな形

 これまでフランス語セクションでは、海外研修や未来先導基金フィールドワークといった形で、学生のうちなる国際化をはかってきた。しかしながら日本からフランスに行く学生は多いものの、フランスから日本に、特にSFCに来る学生はコンピュータ関連の専門家をのぞいてはほとんどいない。しかも彼らは研究者であり、日常的にキャンパスの学生と交流する機会は多くない。一方、現在のヨーロッパの国々においては、日本という国は、単にサブカルチャーの発信地としてだけではなく、それをきっかけとして日本と出会い、さらには日本で本格的に学びたい、働きたいという学生が増えてきている。

 たとえばグルノーブル大学には、外国語+専門というSFCと似たカリキュラムを選択している学生たちがいる。彼らは政治や経済を専門としながら、同時に外国語を学んでいる学生である。このようなプロフィールをもつ学生が日本の大学で短期研修を受ける可能性について、同大学の国際交流担当と相談をした。

 その結果、フランスに学生にとって望ましい海外研修のひとつが、「日本語+現地企業」の研修であることがわかった。すなわち、たとえば6ヶ月の研修のうち、3ヶ月間は日本の大学で日本語を集中的に学び、その後3ヶ月は東京の国際企業で企業研修を受けるというものである。これによって帰国後に社会で働く場合、日本語スキルと社会体験というプロフィールで、仕事を見つけることができるというわけである。日本と比べて新卒の若者が安定した職を見つけるのが難しいフランスにおいて、こうした実地体験を含み込んだ研修が大きな魅力であることは間違いない。

 しかし研修システムの可能性はそれだけではない。たとえばFLE(外国語としてのフランス語教育)の課程にいる学生にとっては、外国の大学の教育現場で経験を踏むことが、将来的の職業を考えても、また研究の推進においても大きな意義をもつ。その意味でSFCで行われているTAの枠を利用して、フランスからTAとして研修に来てもらう可能性についても相談した。基本的には、寮と奨学金さえあれば、日本で教員実習を積みたいと思う学生は多くいるだろうとのことであった。将来の教師になる学生が、先進的な外国語教育を行っているSFCTAとして学生の相談相手になることは貴重な体験であると考える。そのためにはSFC側の短期留学生に対する受け入れ体制を明確化することが望まれる。

 

 成果と展望

 グルノーブル大学での講演、現地担当者との話し合いの中で、研究においても教育においても、今後様々な形で交流を拡大してゆけることがわかった。特に外国語教育研究は、それぞれの母語を外国語として学ぶ学生が交流すること一点をとっても、互恵的な環境のなかで推進してゆけるメリットがある。

 また学生の交流については、昨今東アジアの留学生が注目されがちではあるが、実はヨーロッパにおいて、日本語教育、日本研究は今後ますます拡大してゆくだろうと予測される。その意味で現在、日本について学ぶ学生、あるいはフランス語教育に携わる学生に、留学および研修の機会をつくることは、今後の大学間交流において大きな重要性を持ってくると考えられる。そのために必要なことは、形式的な交流協定ではなく、現地のニーズに合わせ、かつ日本側にとってもメリットのあるような、きめこまやかな研修システム、留学システムを作って行くことが肝要である。