2009年度学術交流支援資金研究報告(国際交流)

 

【課題名】ワイヤレスセンサを使った運動計測・解析手法に関する日豪共同研究IV

【申請者】 政策・メディア研究科准教授 仰木裕嗣

【研究助成金額】600千円

 

 

【研究概要】

人間が運動時にセンサを持ち歩くようになると,その運動を計測する需要が高まると考えられることから,センサネットワークはより高速サンプリングの時代を迎えると考えられる.申請者の仰木は,加速度センサや角速度センサなどの慣性センサを用いた運動解析方法の開発を行ってきたが,これまでの一連の研究で利用してきた慣性センサデバイスは,全てデータロガー式(メモリ記録式で,事後データを取り出す)であったことから,我々のデータ取得はリアルタイム性に乏しかった.これに対してオーストラリア・グリフィス大学工学部のCenter for Wireless Monitoring and Application(CWMA)では,Bluetoothや他の無線を運動計測に活用する研究が進められており,研究代表者でもあるDr. Daniel James氏は歩行やスポーツ運動の解析において無線活用の提案を早くから行ってきた.

2006年度の学術交流支援資金によってグリフィス大学との交流事業は双方の大学院生・研究者間の交流として結実し、2007年度はお互いの大学間でもちあう技術をさらに融合し、国際会議において慣性センサを用いたヒトの運動計測についてのワークショップを開催し、世界各国から参加した学会参加者に対して慣性センサの使用法、時系列データの分析法などを教えた。

そして2008年度は、無線計測をヒトの運動計測に活用するため、さらに研究を推進するべく本研究助成に応募した。2008年度は、我々研究グループの活動が評価され、豪日交流基金(Australia Japan Foundation)によって研究交流事業に対する助成をうけることができたため、学術交流支援資金ならびに豪日交流基金の両方の支援をうけて研究交流を推進した。

これに引き続いて、2009年度はさらに小型軽量、省電力と進化するマイクロプロセッサをスポーツに活用するために、技術交流を計画した。

 

 

【研究目的】

本研究は,スポーツ運動をはじめとする人間の運動解析において無線計測技術の応用事例と具体的データ解析手法を提案することを,日豪の共同研究によって進めるものである。2009年度は、慶應義塾大学、グリフィス大学双方の研究者間の交流に加えて、野球(日本)・クリケット(豪)の競技スポーツにおける無線センサの応用を進める。

 

 

【研究成果】

(1)  国際会議発表・参加

()          期間:20091014日から17

()          開催場所:ブリスベンコンベンションセンター

()          学会名称:Be Active 09, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport

()          慶應義塾大学側参加者:

l   仰木裕嗣(政策・メディア研究科兼環境情報学部)

l   金田晃一(SFC研究所上席研究員)

l   渡邉俊(政策・メディア研究科修士課程)

()          グリフィス大学側参加者:

l   Dr. Daniel JAMES(グリフィス大学工学部 無線計測応用研究所 上席研究員。専門無線工学,ワークショップ共同主催者)

l   Dr. David Rowlands (グリフィス大学工学部講師)

l   Dr. Andrew Wixted(グリフィス大学工学部講師)

l   Mr.Jonathon Neville(グリフィス大学工学部学部4回生)

()          今回の学会では身体装着型の小型センサを用いたスポーツ運動の計測に関する特別シンポジウムが開催された (Symposium:Wearable technologies for performance assessment)。上記参加者のうち、仰木/Dr. Daniel JAMES/Dr. Andrew Wixted/ Mr. Jonathon Nevilleにくわえて、University of the Sunshine Coast教授のDr. Brebdab Burkettが登壇し、各人の発表を終えた後で一般聴講者を交えた総合討論で、センサ技術のスポーツへの応用について議論を行った。

()          慶應側の発表原稿タイトルは以下の通り

l   Ohgi Y, Kaneda K, Chiaki T. Accelerometry of the underwater walking. Australian Conference Of Science And Medicine In Sport, No.BEACTIVE09-233, Brisbane, Australia, October,p.37, 10. 2009.

l   Kaneda K, Ohgi Y, Tanaka C. Cardio-respiratory Responses and Relationship to Walking Speed during Free Water Walking in Japanese Adults. 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport, p102, Brisbane, Australia, 10, 2009.

l   Watanabe S., Imamura K., Ohgi Y., Development of an orthopedic socks for the flat foot adults, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport, p98, Brisbane, Australia, 10, 2009.

()          グリフィス大学側の発表原稿タイトルは以下の通り

l   James D., Wearable technologies for performance, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport, p36, Brisbane, Australia, 10, 2009.

l   Burkett B., James D., Theil D., Davey N., Microtechnology for measuring intra-stroke arm and leg timing in swimming, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport, p36, Brisbane, Australia, 10, 2009.

l   Wixted A., James D., Busch A., Portus M., Wearable senors for the monitoring of bowling action in cricket, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport., p37, Brisbane, Australia, 10, 2009.

l   Rowland D., Neville J., Comparison of center of mass and chest based inertial sensor in the soccer throw-in, 2009 Australian Conference of Science and Medicine in Sport., p37, Brisbane, Australia, 10, 2009.

 

(2)  クィーンズランド・アカデミー・オブ・スポーツにおけるシンポジウム「Applications of Technology in Sport

()          標記アカデミーはクィーンズランドにおけるスポーツ研究とコーチングの中心地であり、我々研究グループは同アカデミーの研究統括を行っている、Dr. Sue Hooperらと、水泳をはじめとした競技スポーツにおけるセンサテクノロジーの応用を議論してきた。今回のシンポジウムは同アカデミー内にある、Center for Excellence for Applied Sport Science Researchが主催した。

()          日時:2009年10月19日(月)

場所:クィーンズランド・アカデミー・オブ・スポーツ(ブリスベン)

 (ウ)      講演詳細は以下を参照のこと(http:// ccz02.sfc.keio.ac.jp/~ohgi/Research/2009/2009GakujutsuKokusai/TechSportSeminar.pps.pdf)

 

(3)  招聘外国人による研究活動

 

期間および招待者

(ア)Mr. Craig Lyndon氏 200941日から65

 

Mr. Craig Lynton君は、2009年来日当時にはGriffith大学工学部4回生であったが、2008年招聘したDr. Andrew Wixted氏の進めた組み込みプログラミングの開発をさらに進めるため来日し、組み込みOSとして世界的に知られている、TinyOSMSP430上に移植する作業を行った。日本に滞在し研究を進め、2010年1月には卒業が決まり、同MSP430開発を仰木研究室と進めてきた(株)ARSへの就職が決まり、今後もセンサ計測への研究開発に携わることとなった。

Mr. Craig Lyndon君によって、MSP430開発をオープンソースで開発する環境をすべておさめて、さらにスポーツ工学研究に必要と考えられる計測/解析ソフトウェアをパッケージ化した、仰木研究室専用Linuxパッケージも制作した。

 

 

(3)  グリフィス大学における研究ミーティング

研究責任者である仰木、SFC研究所上席研究員金田晃一、政策・メディア研究科修士課程渡邉俊がグリフィス大学に滞在し、同大学において研究交流を行った。

 

期間および出張者

()          仰木裕嗣 20091010日から1020日(途中、国際会議発表参加期間を含む)

()          金田晃一 20081010日から1020日(途中、国際会議に参加期間を含む)

()          渡邉俊 20081010日から1020日(途中、国際会議に参加期間を含む)

 

期間中には、無線計測プロジェクトをはじめとして、グリフィス大学工学部無線計測応用研究所(CWMA)が取り組む様々な取り組みを見学し、自動イチゴ摘みロボットなどのユニークな研究も紹介された。

 

(4)  サンシャインコースト大学における研究ミーティング

研究責任者である、仰木はクィーンズランド州サンシャインコースト大学において大学院博士課程学生、Mr. James Lee君の博士論文に対してのアドバイスを行ってきた。同君の指導教員である、Dr. B. Burkett教授は自らもパラリンピックで活躍するなど障害者スポーツ競技者でもあり、工学博士号をもつ異色の経歴をもつ研究者である。彼の研究テーマも仰木と共通であり、センサを用いた水泳ストロークの分析であり、前項グリフィス大学/クィーンズランドアカデミーオブスポーツ等と共同で研究を進めている。

今回、2009年10月に現地を訪問した際には、Dr. Burkett氏自らが設計試作した、ボールゲームの選手を画像によって追跡するオリジナルのアプリケーションを見学し、ボールゲームはじめセンサと映像の融合した計測技術に関して討論を行った。