2009年度学術交流支援基金

研究成果報告書

 

研究課題名:大学教育の評価におけるフォーカスグループの活用に関する日豪共同研究

研究代表者:井下 理(総合政策学部教授)

研究報告: フォーカス・グループ・インタビューという技法は、日本ではこれまでビジネスの世界において、マーケティング調査の技法として用いられてきた。教育の世界においては、調査技法としてはあまり活用されてこなかった。近年、看護・医療の分野で少しずつ援用され始めているものの高等教育の世界では依然としてあまり普及していないのが現状である。

近年、大学教育実践において、学生による授業評価など、教育を施す側からではなく教育を受ける側の声を聞こうというマーケティングの発想が少しずつではあるがようやく普及し始めた。マーケティングとは別に、国公立大学の「説明責任への自覚」が芽生えてきたことにより自分たちの行っている教育活動への納税者への説明義務を充足しようという発想も影響を与えている。

その結果、定量的な教育評価も普及してきた。しかし、定性的調査技法はいまだにあまり注目をされていない。従来、大学教育の「質保証」への関心も不十分であったし、そもそも実証的なデータに基づいて大学教育の学習ニーズの測定や、学習成果の把握ということ自体にあまり関心が向けられてきていない。ようやく最近、IRInstitutional Research)という言葉が少しずつ大学関係者の間でも知られるようになったが、量的指標が中心となっていて、質の評価についての質的データの収集解析などには、まだ関心が向けられていない。

オーストラリアにおいては、大学教育はいわば輸出産業としての性格づけをもたせ、計画的に海外からの留学生を標的対象として政策的にマーケティング活動を展開している。そうしたマーケティングの発想のあるところで大学教育の評価について、どの程度、教育機関がマーケティングの発想・観点からのフォーカス・グループ・インタビューを用いているのかをフィールドへの訪問インタビューを通じて明らかにすることに取り組んだ。具体的には、ビクトリア州とニュー・サウス・ウエールズ州の2つ州を訪問し、1つの高校と3つの大学にヒアリングを行った。高校としては、メルボルンにあるTOPレベルの私立高校、大学としては、メルボルン大学、ラ・トローべ大学、シドニー大学を訪問した。 その結果、フォーカス・グループ・インタビューが、ビジネス領域における特殊な技法としてではなく、高等教育研究者および中等教育関係者の間でも広くその意義と効用が認識されていることや、多様な領域、テーマ、課題、目的に利用されていることがわかった。また大学図書館関係者の間でも、施設利用者のニーズ調査や満足度調査などにおいてフォーカス・グループ・インタビューが盛んに用いられて数多くの調査報告書が出されていることが明らかとなった。 今後日本においても教育領域における評価において、質の保証と向上へつながる質的データ収集技法としてフォーカス・グループ・インタビューがより広く活用されうべきことが確認された。        以上