2009年度学術交流支援資金「国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援」採択研究

研究課題名:「コンゴ民主共和国における小学校の設立・開校・運営プロジェクト−現地との協働モデルの確立

09congo

本年度完成した第一棟校舎の外観

 

研究代表者:松原弘典(総合政策学部准教授)

共同研究者:長谷部葉子(環境情報学部准教授)

サイモン・ベデロ(環境情報学部非常勤講師)

桑原寿記(政策メディア研究科修士課程)

高村伸吾(政策メディア研究科修士課程)

 

●研究課題

本件は、コンゴ民主共和国の首都キンシャサ郊外に小学校を設立・建設し、そこに日本+コンゴ融合型のカリキュラム・教授法を構築し、学校運営を軌道にのせるところまでを実践するプロジェクトである。現地の関係者に呼び掛けて、2008年夏より推進している7年間の長期協働プロジェクトの、今年度は2年目になる。昨年度は長谷部葉子を研究代表者として助成を受け、現地調査と日本での準備作業を進めてきた。今年度は現地での施工に立ち会い、小学校の正式開校を果たすために、松原弘典を研究代表者として2008年度に引き続き申請を行ったものである。

 

●研究計画

1.研究の背景:アフリカ、コンゴ民主共和国首都キンシャサの郊外にSFC英語非常勤講師のサイモン・ベデロ氏が、コンゴ本来の教育+日本の教育システム+SFC「問題発見・問題解決発信型」教育を融合させた小学校の設立計画を起案している。これにSFCの二つの研究室(松原弘典研究室と長谷部葉子研究室)と現地専門家が加わり、20099月開校を目指して小学校「ACADEX」の設立事業活動を進めてきた。

 

2. 研究の目的:コンゴというアフリカの発展途上国の現地の実情に即した、かつ日本の現代的な知見を取り入れた小学校をコンゴの首都郊外に建設し、その運営を軌道に乗せること、がこの研究の大きな目的である。またこのプロジェクトの遂行を通して、建設や学校運営に関する実践的な取り組みに教員や学生が直接関与することで、日本の側にも大きな教育的効果がもたらされることを期待している。計画している小学校「ACADEX」は、「地域に開かれた小学校」という理念に基づいて、一つの広々とした学校空間にその内部構造に可動性をもたせることで、図書館・音楽ホール・コミュニティホールとしての地域活動の場としての役割をになうことを想定している。また計画の遂行に際しては、現地の様々な労働事情・経済事情・天候などを十分に理解したうえで、無理なく、現地の教育・建築・学校関係機関・関係者と十分なコミュニケーションをとり、協働体制を構築した上での、長期的かつ継続的な完成モデルを提示しようとしている。松原研究室は学校の校舎などハードウエア設計を担当しており、現地の材料と労働力を利用し、かつ日本からの学生のサポートも統合して施工が可能な、簡便な校舎デザインの実現を目指す。長谷部研究室は学校のカリキュラム・運営手法などソフトウエア設計を担当しており、小学校校舎と地域コミュニティとの一体化を目指した、教会とは異なる視点での地域活性化の担い手となる「場」づくりの実現を目指す。

 

3. 研究の推進方法: 日本ではSFC2研究室が窓口になっており、2009年度春学期は毎週火曜にミーティングを重ねてきた。ベデロ氏を通して日本とコンゴの間では連絡がとられており、この共同関係が本プロジェクトの推進主体である。松原研究室は夏までは建築設計案の深化と現地施工の準備、秋からは来年度以降に向けた設計図面の修正とメディアでの発表作業を主に進めてきた。長谷部研究室は夏まではカリキュラム案の作成や今年度夏の学校開校への準備と調整、秋からは現地教育機関との関係構築持続を主に進めてきた。コンゴの現地では20096月にすでに校舎予定地にベデロ氏により学校事務局が設立され、夏の開校以降すでに5歳児と6歳児の計2クラスが学校として運営されている。

 

2009年度の本研究費による研究成果

1. 小学校校舎建設:

松原研究室では2009年度春学期から設計、施工の詳細化を進めてきた。学外協力者として構造設計事務所「ASA」代表鈴木啓氏の指導を受けて屋根の構造モデルを作成し、その11のモデルを作成して施工手順を確認した。また湘南台の工務店「株式会社成幸建設」様には施工手順や手法についてアドバイスを頂いたりした。

松原研究室からは教員松原弘典のほか、桑原寿記(修士2年)、菊地豊栄、小林司、楢原圭紘(環境4年)、立元遥子、篠田泰平(環境3年)の学生6名(このうち桑原楢原以外の4名はSFCの海外フィールドワーク助成金を受給し、旅費にあてた)が818日から830日まで現地に渡航し、現地のヴォランティア協力者とともに第一棟目の屋根を完成させた。帰国後は本研究を紹介するための展覧会での展示準備やメディアでの発表の為の資料を整備した。本プロジェクトについて対外的にメディアで発表されたものについては4で示している。

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a.SFCでの11屋根の構造モデル作成 b.渡航日初日の状況 c.日本コンゴ協働での屋根の施工状況 d.屋根を完成させて教室を使っている室内の様子 

 

2. 教育プログラム実践:

長谷部研究室では、開校に向けた準備活動として生徒募集企画立案、教育理念紹介の広報活動立案、現地政府関係機関からの認可申請補助を行ってきた。

長谷部研究室からは教員長谷部葉子のほか、高村伸吾(修士1年)、森澤篤史(環境4年)、陸耀耀、鈴木えり(総合4年)、斎藤美玲(総合3年)、加藤梓、山崎あずさ(総合2年)の学生7名(このうち陸、鈴木、加藤、山崎の4名はSFCの海外フィールドワーク助成金を受給し、旅費にあてた)が824日から97日(山崎のみ818日〜97日)まで現地に渡航して活動を実施した。現地では実践的ワークショップを行ったほか、広報活動として渡航時に当該コミュニティでの家庭訪問による各家庭の小学校への教育理解の促進、そしてコミュニティ外では現地ラジオ局のインタビュー収録に出演などを行い、小学校の概要、理念を中心とした紹介活動を展開した。またコンゴ民主共和国では私立校の設立には私学連盟の認可登録が必要な為、教育省の教育長であるKALONDA氏から認可登録手続きのサポートをしてもらい、キンシャサ市州副知事のFRANCIS氏から私立校として正式認可を頂いた。この一連のプロセスに我々も加わり、サポートすることができた。そして2009827日に現地で在日コンゴ大使館ムルンバ゙大使、在コンゴ日本大使館藤田参事官を来賓に迎え、開校式を迎えることができた。またコンゴ大学、キンシャサ大学、学生NPOとの協働プロジェクトとしての拠点づくりを実現した。

workshopa ACADEX_09901100.jpgb 図1c 図3d

a.紙芝居を用いた衛生ワークショップ b.現地教員との授業風景 c.藤田参事官による「合気道」実演 d.コンゴ大学医学部にてトークセッション

 

3. その他の作業

2008年度フィールドワークでカリキュラム立案以前に、「水」「衛生」といった教育インフラが未整備であり、当該インフラ整備が急務であると判明した。そこで本活動では2009年度は「水」「衛生」を重点項目に挙げ、現地における水・衛生環境の調査、解決に向けた具体的施策を模索してきた。

フィールドワーク前には「株式会社ビックバイオ社」様から水質浄化剤を提供して頂いたり、渡航中はキンシャサ大学、コンゴ大学と水・衛生関連の技術協力を行う為の協働体制につながる関係構築をした。また創造性を育む音楽・図工・体育といった副教科が脆弱な為、現地・国立芸術大学とのカリキュラムの協働立案体制を結んだ。2010年以降からSFCから現地への長期滞在型研究者の派遣が見込まれるため、治安及び有事の危機管理体制を確立するため日本大使館と当地における情報共有を行い、政府関係者との協働・補完体制を構築した。結果として在コンゴ日本大使館・藤田参事官によるlanguage-culture exchangeに基づいた体育教科として「合気道」の定期的訪問授業を実施する旨の合意形成を行った。

これから2010年度以降は「水」「衛生」といった教育インフラの具体的整備を行う。水分野は先に述べたビックバイオ社、キンシャサ大学、更にはJICAといった機関と連携して、上下水の整備を行いたいと考えている。衛生分野はコンゴ大学医学部の協力により、新たなインターン制度の一環として、ACADEX小学校における定期検診を行う。また同時にコンゴ大学医学部との協働研究による、「衛生教育」のカリキュラム立案への準備段階を整えた。その他にも国立芸術大学の訪問授業実践に向けた準備を進めている。

日本における具体的な連携活動として、藤沢市立滝の沢小学校でのコンゴ民主共和国を題材にした国際理解の授業を行い、将来的なコンゴ「ACADEX」小学校と滝の沢小学校との国際交流授業の基盤形成を行った。2010年度は現地に森澤篤史(現環境4年)、森裕紀(現総合1年)の2名が滞在し、さらなる教育環境整備を目指した現地調査、解決に向けた施策の導入を行う予定である。

共同研究者に名前の入っている桑原寿記(修士2年)は、当該研究活動を通して2009年度修士論文「開発途上国における国際的分業に関する研究−コンゴ民主共和国アカデックス小学校の事例を通して−」を執筆し、優秀な成績をもって修士号を取得した。

外部関係者として、写真・映像記録担当を米国在住の映画監督落合賢氏に依頼し、当プロジェクトの活動紹介映像も制作している。

 

4. なお、主なメディアでの本件に関する報道、受賞などは以下の通り(本年度分のみ)

・学外

SD review2009(実施を前提とした若手建築家の登竜門コンペ、鹿島出版会主催)での慶應義塾大学SFC松原弘典研究室のSD賞受賞

http://www.kajima-publishing.co.jp/sd2009/n2009.html

雑誌「新建築」(新建築社発行)20103月号掲載

   http://www.shinkenchiku.net/

ジャパンデザインネットでの報道

http://school.japandesign.ne.jp/project/congo/

・学内

大学研究室でのプレス資料

http://matsubara-labo.sfc.keio.ac.jp/projectsinprogress/caps02.pdf

http://matsubara-labo.sfc.keio.ac.jp/projectsinprogress/caps.pdf

 

以上(文責:松原弘典、2010225日)