研究課題名:2009年度学術交流支援資金「インターンシップ・フィールドワーク科目支援」報告書
所属:環境情報学部
氏名:有澤誠

1.プロジェクト概要
本プロジェクトでは、アートが持つ社会的な役割に着目し、コンピューターアートを利用した新しい作品発表とアートマネジメントの事例を示す。
これにより芸術作品が活用される環境を作り出し、地域の魅力を掘り起こし、ひいては地域活性化に繋がることを目的としている 。
また、大学と地域、行政が連携し、産学官で活動を進めることで、一過性ではなく持続的な「地域文化」としての、アートによる地域活性化の具体策を提案する。

2.PAの抱える現状と仮説
現在、パブリックアート(以下、PA)は公共の場を創造するツールとして日本各地に導入されている。
しかしその一方で地域との融和が十分に図れていないものが多く、ツールとして本来の意義を失い芸術公害として批判されることすらある。
PAが公共の場として十分に機能するためには地域住民にとって関心の持てる作品になることが重要であり、
そのためには地域でのワークショップやアート作品に絡めたイベントを行うことにより地域住民が展示されるアートに触れ興味を持ってもらうことが必要である。

3.地域活性化策の抱える現状と仮説
地域活性化には持続的なまちづくりを図るということが不可欠であり、その中でも中心地市街再生が重要とされている。
しかし、中心市街の実でイベント的に活動を行っても、イベント以後に続かない例も多い。
したがって地域の中心的な場の再結成を促し、かつ中心的な場へと人を引き込むきっかけを作ることで、持続的な中心市街地活性化を促せると考えた。

4.目的
そこで本研究では、2009年8月に茨城県で行ったみなとメディアミュージアム(以下、MMMとする)[1]の開催により、PAを有効な地域活性化策とする方策を探ることを目的とした。
アーティストと地域住民とのワークショップにて協同して作品制作を行い、地域に密着したPAを展示することで「場の生成能力」を高める。
また、モータリゼーションにより中心性を失いつつある駅や中心市街地を通過する列車内にPAを設置し、地域の中心的な場の再結成と中心市街地への集客を促すこととする。

5.みなとメディアミュージアム(以下、MMM)
5-1.概要
みなとメディアミュージアムは、2009 年8 月8 日〜31 日に茨城県ひたちなか市で行われた。
今回のイベントに参加した作家・団体は13名1団体、作品数は14点であった。
以下はイベント時の様子である。
みなとメディアミュージアム
5-2.イベント内容
◆ インタラクションのある作品
作品にインタラクション性を持たせたものとして「external_heart」「HiddInteraction」「空埋」がある。
今回の展示では駅構内に設置された作品に対して多くの乗客・地元住民の方が興味を示し、老若男女問わず、作品を体験している様子が見受けられた。
インタラクション
◆地域性を取り入れた作品
作品が地域に関連したテーマをもって制作された作品には「おわるけれど、はじまることもできる」「駅名標のリデザイン」「『まちのうた』プロジェクト」「汽車にのって」「the viewaround the train is constrained」がある。
これら種の作品は、地域に関連していることもあり、多くの地元住民の方が足を止めた。
これらの作品によって、「地元の魅力を再確認した」や、地元を題材にした作品(許田)を見て「感動した」とのコメントもあった。
地域
◆ワークショップを行った作品
作家と地域住民が協働して作品を制作した作品は「ひたちなかを歩いて新しいフォントを作ろう」「『まちのうた』プロジェクト」がある。
地元住民はもちろん、遠方よりはるばるやってきた参加者も見られた。参加者は作家とともに市街地を歩いて作品素材集めを行ったり、海の家の特設会場や商工会議所の会議室にて作品制作を行ったりした。
制作した作品は、那珂湊駅待合室にてワークショップを行っている映像とともに展示された。
◆イベント
MMM会期中に、作品の場の創造性や集客力を高めるために、ワークショップ以外にもひたちなか海浜鉄道と協力し、一日フリーきっぷをMMM期間限定の特別デザイン(右図)で販売した。
他にも、駅名標を用いたクイズラリーイベントも行った。また地域の夏祭りに併せて作家を交えた立食パーティーを企画した。

6.成果
作品に関するアンケートの結果、地域性を取り入れた「駅名標のリデザイン」に対する反応が最も良かった。
「発想がユニーク、駅ごとのデザインが楽しみ」や「他ではやらない斬新なデザインが面白かった」など、数々の好印象な反応を得ることができた。
地元の特産品の干し芋会社の方が、リデザインされた駅名標に干し芋があったことから会社のブログで取り上げた上で、イベントに参加しに来て下さった例もあった。
インタラクションのある作品は、特に小中学生が作品で遊んでいる姿が頻繁に見られ、定点観測データにも何度も記録された。
逆に、地域性の無い作品やインタラクションのない作品について「よくわからなかった」というインタビュー回答もあり、地域性やインタラクションがでアートをより親しみやすいものにするということが明らかになった。
また、今回のイベントでは、IBS茨城放送、常陽新聞、交通新聞、ケーブルテレビ茨城など、各方面のメディアからMMMの活動が紹介された[2]。
特にラジオでは期間中に2度も取り上げられ、住民の中にはラジオでMMM のことを知り、わざわざ数日かけて全駅の駅名標を撮影、個人のブログにアップされた方もいた。
今回のMMMでは、第三セクターのひたちなか海浜鉄道とひたちなか市商工会議所に協賛して頂き、効果的な作品展示とイベント後の作品継続展示に力を貸して頂いている。
現在、最も反響の大きかった「駅名標のリデザイン」については、第三セクターの株主でもあるひたちなか市が来年度予算で買い取るという方向で話が進んでいる。
また、11月23日、24日はORF(OpenResearchForum)にてブース展示を行った。特に23日は湘南藤沢学会第7回研究発表大会において「地域振興手法に対するコンピュータアートの活用」という演題で発表を行った。

7.おわりに
PAに地域性やインタラクションを実装することで、地域の中心的な場の再形成に資することがわかった。
反面、「湊線の雰囲気をもっと変えて欲しかった」等の規模に対する要望がある一方で、継続的財源確保はできておらず、継続的にイベントが行えるような体制づくりが必要である。
MMMは2010年度も開催予定であり、その様子はhttp://mmm.sfc.keio.ac.jp/の他、twitter上のMMM公式アカウント(http://twitter.com/minatom_m)でも確認が可能である。今後はコミュニティの活性化を、定量的な評価によって取得し、体系的なPAの活用方法の提案に繋げてゆく。
また、地域住民に開かれたイベントや作家と地域住民が集う場を設けることはが、より有意性のある地域活性化策となることがわかった。


参考文献
[1]MMM みなとメディアミュージアム ?ひたちなか海浜鉄道がメディアアートの博物館に!:http://mmm.sfc.keio.ac.jp/, 2009 年10 月20日
[2]IBS 茨城放送 スクーピーレポート:http://www.ibs-radio.com/?act=Program&program_no=110&mode=Note¬e_no=110&year=2009&month=8&p=3, 2009 年10 月20 日