研究報告書

2009年度 学術交流支援資金 電子教材作成支援

 

科目名:メディアと外国語学習環境設計 - ドイツ語教材開発研究プロジェクト

研究代表者氏名: 藁谷郁美

所属:総合政策学部 兼 政策・メディア研究科

研究課題:SFCドイツ語自律学習支援システム構築 ― 海外研修支援システム『d-map』の構築およびドイツ語スキル科目における運用

 

研究組織:

藁谷郁美(総合政策学部 政策・メディア研究科・准教授)

平高史也(総合政策学部 政策・メディア研究科・教授)

太田達也(SFC研究所上席所員(訪問))

マルコ・ラインデル(総合政策学部・訪問講師(招聘))

鹿久保翼(政策メディア研究科・修士2年)

板宮朋基(政策メディア研究科・博士2年)

 

I. 研究の背景と目的

 

春・秋通年で開講している本研究プロジェクト「メディアと外国語学習環境設計 -ドイツ語教材開発研究プロジェクト-」では、毎学期ドイツ語教材開発を目的として、様々な自律学習用のWeb教材およびモバイル教材コンテンツを開発・制作している。その中で、ドイツ語圏へ海外研修に出かける学生のための支援システムの構築は、他の学習コンテンツ作成と並行して進めなければならない課題のひとつである。

SFCで夏季・春季の学期休み期間に実施する海外研修は、ある特定のコースに引率していく形式ではなく、ドイツ語圏の大学およびゲーテ・インスティトゥートが主催する約20のコース選択肢から自分で選択する形式、いわば個人の短期留学である。従って、より細分化した学生へのアシストが必要となっている。海外研修に加えて、2005年度以降はドイツ語圏フィールドワークへの派遣も多くなっていることをふまえて、その支援システムの充実はより重要な課題となっている。

 

海外研修参加を終えた学生から帰国後に提出を求めるものは、①研修先大学でおこなうフィールドワーク研究、および②異文化との接触を記録した日誌、③現地の研修修了証明書である。これらは学習者がドイツ語をスキルとして海外研修先でどのように活動してきたのか、その履歴をみる上で重要なデータである。通常、2年時の夏、あるいは3年次の春に海外研修に参加する学生が多いが、その多くは、各自が研究会プロジェクトで進める卒業制作にテーマを近づけた形で、ドイツ語圏をフィールドにフィールドワーク課題を進めている。したがって、過去にどのような分野のフィールドワークが、どの大学都市でおこなわれたのか、という資料は、今後のドイツ語教育デザインを考える上で有効であるのみならず、今後ドイツ語圏へ海外研修に出かける学生にとって、具体的な参考資料となる。既に1999年度夏季海外研修以降、毎年夏と春に参加した学生の膨大なデータが蓄積されているにもかかわらず、そのほとんどが紙媒体であり、データとしての位置づけは困難であった。本プロジェクトは、これらの資料をデータ化し、これからドイツ語海外研修に出かける学生のための支援「システム」を構築することにある。

 

II. 研究成果

 

以下に、今年度の研究成果について述べる。なお、本プロジェクトは、藁谷郁美、太田達也、マルコ・ラインデル合同研究プロジェクトとして、学生と共に立案、開発、運用を進めてきたものである。

 

1)都市データの入力更新

毎年あらたに海外研修に参加する学生にとっては、都市ごとの情報へのアクセスが容易なトップページがあることが望ましい。そのため、2008年度にはその枠組みとなるページ「d-map」を作成し、都市ごとのデータを入力できるようにしておいた(Webシステムには「Pukiwiki」を利用)。これに基づき、本年度は海外研修先として候補となりうる約30の都市に関する有益な情報を入力・更新し、学習者が最新の情報にアクセスできるようにした。また、必要に応じ、有益な情報へのリンクを貼り付けた。

 

2) 海外研修フィールドワークおよび海外研修日誌へのリンクおよび複数のデータアーカイブ

2007年度には過去の学習者のフィールドワークをアップロードできるようにプラットフォームを整備した。2008年度はこれを基盤に、過去の履修者のフィールドワークおよび海外研修日誌の一部を、研修先の都市のページからジャンプできるようリンクを貼り付けた。これにより、各学習者がより迅速に必要な情報を得られるようになった。また、教員もこれまでよりもさらに迅速かつ適切に学習アドバイスを行うことが可能となった。本年度は、これまで問題点として挙げられていたデータの移行作業がおこなわれた。今後は卒業後のリンク切れを防ぐため、リンクを貼る形式を採用しないことを決定。本プロジェクトであらかじめテンプレートを準備したうえで、データを学習者がそこに入力する形式をとることにした。それらのデータは本プロジェクトメンバーの作業を通して「d-map」のページにアップロードされる。

 

3) 過去のデータのアーカイブ化

2008年度以降継続して、上記2)の作業を今後すすめていくうえで必要な、過去の膨大な量の海外研修フィールドワークおよび海外研修日誌をデジタルデータとしてアーカイブ化する作業を行った。これにより、これまで紙媒体で提出されたフィールドワーク・レポートや日誌類等も、スキャンしpdfファイル化されたことで、本人の了承が得られればWeb上にアップロードすることも可能となった。また、これらのデータがデジタルでアーカイブ化されたことにより、今後、海外研修における「気づき」に関する研究(異文化コミュニケーションや言語学習の視点から)、あるいは海外研修の「効果」を検証する研究を行うにあたっての分析データへのアクセスがより容易になった。

 

4) ゲートウエイの再デザイン構築

今後、「d-map」を学習者にとってより使いやすく有益なものとするために、どのような改善が考えられるかを検討した結果、以下のリ・デザインを行っていく方向で2008年度より再検討が始まり、今年度は以下の項目が新たに付け加わった。

 

l   海外研修参加者用ブログとドイツ語圏フィールドワーク地域のマッピング

l   海外研修参加者用ブログとドイツ語圏フィールドワーク参加者ブログの併設

l   好きなガジェットを表示させられる機能を付加ピクチャ 1

 

図1: 『d-map』ゲートウエイ(1)

 

 

 

 

 

ピクチャ 2

 

図2:  『d-map』ゲートウエイ(2

 

 

5)ドイツ語スキルコースへの導入

毎年、春学期に開講されるドイツ語スキル科目『ドイツ語圏海外研修準備コース』(担当者:藁谷郁美/マルコ・ラインデル)では、各大学コースの説明時に『d-map』を用いた授業をおこなった。特に海外研修時に課題となっている1つ、フィールドワークの実施は、学習者があらかじめこのマッピングデータおよび付随するブログ(図1および図2)データを参照することにより、テーマ選択に結びつきやすいことがわかった。

 

6)ドイツ語研究室HPへのリンク

海外研修サイトとの併設として、ドイツ語圏フィールドワーク参加者のブログをひとつのフィールドにまとめた。このことによって、ドイツ側からの受け入れ学生の活動と併記したデータが提示できる(図3)。

 

ピクチャ 3

 

図3:ドイツ語圏フィールドワーク参加者ブログサイト

 

 

本プロジェクトではその他、以下のような案も視野に入れて検討を重ねている。

 

l   留学に必要なドイツ語表現集をアップする

l   既習者とQ&Aコーナーを設置する

l   授業との連携をはかるべく、課題や授業ログなどアップできるようにする

 

今後、プロジェクト参加者の間で議論を重ねるとともに、利用者からの評価も取りながら、より具体的な再立案を作成し、実現していく。

 

なお、上記の研究成果については、20091123日・24日、SFC Open Research Forum 2009(於 六本木アカデミーヒルズ40)において、「学びのガジェット  ユビキタス・ドイツ語学習環境の感触  」と題した展示・デモンストレーション発表を行った

 

III. 今後の課題

 

本研究の目指す海外研修フィールドワークのアーカイブ化および海外研修支援システムの構築はSFCのドイツ語教育領域にとどまらず、SFC言語教育全体にも関わる研究となろう。今後は、大学院プロジェクト「ITと学習環境」とも協働しながら、管理者たる教員と利用者である学習者の双方にとって有益な学習環境のさらなる構築を行っていく予定である。また、海外フィールドワークの派遣および受け入れ実績もすでに蓄積されつつある今、これらのデータの提示方法をより教育効果に沿った形でおこなえないか、その方向を検討する必要がある。