〜研究課題: 企業を元気にする人材育成のためのライフスキルプログラム〜

スポーツ体験を通じて得られる中間管理職の自己の意識の変容に着目して

科目名:ネットワークコミュニティ

研究代表者氏名:東海林祐子

実施期間:20091月〜2010年1月まで 全7回

対象者:太平洋精工株式会社 第1期:管理職11名、第2期:役付者21名

1.目的

 スポーツおよび参加型講義を通じて、管理職として部下をどのように導いていくか、自身のライフスキルおよび部下へのライフスキルの在り方を学んでいただく。

2.取り扱う課題と研修会の要点

 管理職として部下を率いていく立場として、自身の資質はどうなのか、自己を認識する過程に着目し、他者とフィードバックしながら、自己理解および他者理解につなげていく。自己を認識する過程では「振り返り」に時間をかけて、自分のこれまでの言動や意見などを振り返り、考える機会を与える。さらに他者との意見交換、フィードバックを通じて、他者理解につなげていくことを目指す。
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3.プログラムの実施項目とねらい

1)双方的なコミュニケーションを図る:午前中は参加型講義を実施したのち、午後は運動プログラムを実施した。受講者は日頃、それぞれの部署に配置し、部署間で交流を持つ機会はない。そのため、いずれのプログラムでも受講者がひとつのチームになることを意識しながら、チーム内コミュニケーションを図り、講義およびスポーツを実施した。また全体を通じて、体験型プログラムの際には振り返りを行い、それぞれのチームでフィードバックしながら自分の意見を論理的に組み立てるトレーニングを実施した。

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2)運動プログラム:「自分のからだを内観する」から「考える、気づく」を導く
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【受講者の運動プログラムの振り返りより】

今までそこそこ器用にこなしていた感覚があったため、ふたつのプログラムも簡単にこなせると思っていた自分がいましたが実際は気持ちとは裏腹に体がついてこない自分に憤りを感じてました。ただせめて自分の近くにボールが飛んできたらミスをしないよう(チームに迷惑かけないよう)がんばっていた自分がいたと思います。エイサーも周囲はともかく自分はうまくできるだろうと思っていた自分がいましたが、結果は他のメンバーと同じでボロボロでした(笑)多分私は回りからうまくできるねと思われたいんでしょうね。今回の二つのプログラムを通して感じたことは、最初から諦めていては何もできないということ。恥をかいてもいいから一つずつコツコツと取り組むことが大事なのかなと思いました。 

キンボールは、個人の上手下手が無く単純なゲームで、大変楽しいものでした。ゲームに自然と積極的に取り組んでおり、気持ちはがんばっているけど、体が着いて行っていない状況でした。エイサーは、踊りを覚えられない自分に自己嫌悪に陥りました。踊りについて行けない、比屋根さんがいないと全く踊れない自分に、落ち込みました。落ちこぼれると、会話も沈み、積極性が薄れ、落ち込んだ気持ちを引きずってプログラムを終了しました。人と優劣が付かないものは、自信を持って取り組めたが、自分が劣っていると感じると、何とかしよう、がんばろうというより、避けて消極的な気持ちとなってしまった。取り組んだ内容、自分に対する影響度にも寄るとは思いますが。自由参加で比屋根さんと踊るチャンスがありましたが、疲れていると言うこともあったが、それより、踊れない自分をみんなの前でさらけ出すことを恥ずかしく思い、積極的に取り組めない自分がいました

4.ライフスキルプログラムにおける前後の変化と考察 (対象者:第一期)

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 6回を通じて有意な差は認められなかった。平均値では目標設定の側面が前後で下降し、あとの側面では向上した。また指導者として、部下に求める理想像では、部下に「考えて動く姿勢」を求めていることを上司自身が認識できた。さらには、自らの考える力を引き出していることが研修後の振り返りから伺えた。また、具体的な目標設定を求めていなかったことや健康管理に配慮はするものの、実際の体重減少には及んでいないことも目標設定の側面が下降した理由と考えられる。さらにアンケート調査を実施した時期がリーマンショックの時期でもあり、会社の経営をはじめ、各部署がそれなりのストレスを感じていたことも要因のひとつと考えられる(事後インタビューより)。
 こうした状況も踏まえ、今後はストレスをより回避しながらもしっかりした目標設定のプログラムを提供し、そのプロセスを通じて経験知を高めることを目指すプログラムの開発が求められる。しかしながら、部署間でコミュニケーションを双方的に図り、さらに深めるためにスポーツを用いることの有効性については、参考資料の決意表明にも表れており、他者との交流を通じて、自身のライフスキルを考える、気づく機会が提供できたのではないかと考えている。

□参考資料@ 部下とのコミュニケーション課題についての考え(2名を抜粋)

Iさん: 私は部下に何か課題を与えたときに、部下がなかなか自分で工夫してこうしたいとう考えがなかなか出てこなくて、「どうしましょう」と何か答えを求めて来る感じがあります。まだ私たちが若いころは、「そういう答えはこうしたら?」という風に教えてしまっていたこともあったんですけど、結局育たなかったんですね。常に自分に聞いて来たりして、答えを聞いてその通りにやるっていうパターンになってしまったんで、自分で考えてこういう形でやったらどうですかという提案のような形で仕事を進めて欲しいなというのがあります。言われた通りにはやるけど、自分の発想でこんなやり方もあるというのがなかなか出てこない。それなりに工夫はしているのだろうけれど、なかなかレベルがあがってこないので、つい、自分でやってしまうのです。あとは、隣でなにか、隣の人に何か起こっていても指示がないから首をあんまりつっこまないというのもたまにあってちょっと寂しいなと思う。言わないと動いてくれないというのは寂しいなと思う。
東海林:「寂しいと思う時には、寂しいとストレートに部下にぶつけてみてはいかがでしょうか?無関心っていうところは、実は会社だけの問題ではなくて、社会的な問題だと思うんですけど、クリアできることがあるといいですよね。」

Hさん: 部下には、いろいろみんな個性があるなぁとは思うんですけれども、全体的に共通して思うのは、会社の社風もあるのかもしれませんけど、みんなルールに忠実、ルールを守るっていうところはすごい真面目だなぁと、よくやるあぁと思います。しかし、ルールを超えた部分、自分で考える発想力、判断力っていうところまでが足を伸ばそうっていうところが足りないかなあと僕は思っています。例えば、よく言うのが、私がいる部署は、エンジニアであって、お役所仕事みたいな決まった仕事をやるのではなくて、エンジニアとして自分で考えて常にやらなければいけない。・・・・・(略)、会社の中の知識、製品知識などありますが、それをもう一度客観的に調べてみたときにどうなのか、とか、今ある材料、社内にある技術的材料をどう組み合わせて判断するかとかのスキルが不足していて、それを自分でやりだそうというところがちょっと足りないというか、やってはいけないかなと思っているんですかね。そういう風に感じるところがありますかね。あとは問題が起こったときにメールで対応するのではなくて、電話をしたほうがよいと言っています。・・・・・(略)私はまずは、自分で部下にお手本を見せなければいけない、まず自分で最初に一通りやるように最初の段階でして、自分でまず電話をかける、で報告書の最初の段階で自分で書いたものを提示してそこから徐々に流れを渡していくというプロセスを実施しています。

□参考資料A 研修会最後のプログラム 決意表明より

Oさん: 健康についての目標設定がありがたかった。目標を達成しなくてはならないという意識があって、いつの間にか体にしみついて達成できた。健康を意識して実践できた。自分の健康に関して、目標設定についてもありがたい。コミュニケーションについて考え始めた。しかしながらコミュニケーションは奥が深く、ほめすぎてもだめだし、叱らなくてもだめだし、主張しすぎてもだめ。ここに書いてあるが聞くことからはじめる。ききにまわるが話がでてこない。それに負けず、何とか自分の主張をしつつ、部下の存在も認めていくようなコミュニケーションを模索したい。

Sさん: 当初の目標はあまり達成できていない。リーダーとしては部下の課題をいろいろと言ったが、それは自分にもあてはまることが多々ある。まずは自分が勉強しないとだめということです。自分の知識をあげることによって自分も高まり、その意識で部下を育成することが大切。自分の能力や経験を高めて部下に指導や助言、動機付けを行いたいと考えている。自分が高まることで部下も必然的に高まっていく。日々勉強である。

Oさん: 目標設定についてはあまり守れていないリーダーとしての決意、いくつかのキーワードをあげますと、「ゴール・到達点を明確に示すことができる上司であるとすると具体的なイメージができる。その中で必要なこと、部下を叱る勇気、おせっかいは継続してやる、ほめる努力、部下を守る責任感、頑固さと愚直さ、それをいかにして自分がやっていくのか、それを見た部下は育ってくれるだろう。さらに部下に対してどのように接するのか、具体的に考えると、成功は部下のおかげ、失敗はわたしの責任、成功体験は自慢話にしかならない、失敗談は成功のもと、叱られた上司は忘れない、記録に残る上司より記憶に残る上司でありたい。人材育成はまず自分を鏡にうつすことから人材育成は始まる、いかに自分自身が部下からどのようにみられていることを常日頃考えることがスタートだ。

Iさん: 目標達成はベスト体重4kg減でしたが、うまくいきませんでした。継続して達成できるようにします。リーダーとしてのあるべき姿ですが、皆さんの高いレベルを聴いていると、私は少し上司として甘いのかなと少し反省しました。ただ1年前の今のチームのメンバーのレベルと2年前のチームのメンバーのレベルを比較してみると着実に階段を上がっている。決して大甘にはしていないけれどもう少しレベルアップが必要。ちょっと手綱を締めようかかと思います。

Sさん:TOEIC800点を目標だったがあと少しだったので年度末までに達成したいと思う。娘との会話はだめでした。リーダーとは部下に達成感をもってもらう。成果をだすためのサポートをしてあげることにある。自分の仕事に誇りをもって将来、自分の仕事に夢を持ってほしい、例え、困難にあっても楽しく仕事ができるようにモチベーションを持ってほしい、例え、小さな成果であっても誉めてあげる。それをもとにモチベーションを挙げてもらう。次のステップに進む、そのようなポジティブなスパイラルを自らまわしていけるような人になってほしい、部下の中には自分からやりたいという人もいるのでそのような人を掘り起こすことも自分たちの仕事。エンジニアとして人一倍努力して、目に見える成果を出したい。いい影響を後輩にあたえたい。それをもとに後輩がモチベーションをだし、自分でやっていけるような人になってほしい。

Iさん:目標設定の泳ぎと読書については達成できずでした。上司としての役割としましては、今回「コミュニケーショ」研修で大切であることを知りました。わたしは人と関わることがあまり得意ではありません。気持ちをさらけ出すことが苦手です。しかし、先ほどありましたように「淋しいなら淋しい」といった気持ちを正直に相手にさらけ出して伝えることが重要だと感じています。自分の気もちを積極的にこちらから伝えて部下に理解してもらって積極的にかかわりがもてるような上司になりたい。

Hさん:目標設定は体重減少でした。3キロ減となっています。最近リバウンド気味ですが・・。体重が減ると体も軽い、体調もいい。続けていきたい。周囲から自分が認めてもらわないと信用もないので、仕事のやり方でも具体的に自分がお手本を示す、部下の失敗は自分の責任、いろんな部署が集まって部下が責められた時に一緒になって部下を責めるような上司にはならない。私が責任をもってフォローする上司でありたい。自己啓発、自己を向上させようとする気づきができるようなことを日頃の仕事の中で少しずつだして受け止めてもらえるようにしたい。この研修で本社の方々とも交流できて大変よかった。

Yさん:目標設定はメタボやや脱出、日々いろいろと考えているがまだまとまっていない、良好なコミュニケーションを作り出せる環境づくり、雰囲気のよい、相談などもしてくれるような雰囲気の部署にしたい。「自分でいうことができないとか、」というのは、私が思うに中途半端なマニュアルの影響で意欲が低下したりだせなかったりするのでは。マニュアルどおりとやるという行為でなく、何のためにこれがあるのか、その目的を示してやってもらうことが大切なのでは。

□参考資料B プログラム全体の流れ

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□参考資料C 国際学会におけるライフスキルプログラム発表およびプログラムの検討
 
本研究で取り扱うライフスキルプログラムでは、ひとつには感覚を制限することで、自分のからだの感覚や他者との感覚の違いを認識する目的がある。さらにコミュニケーションを困難にさせている「無意識の思い込み(グラバア2000)」に気づき、それらを払しょくして、コミュニケーションを図っていくことが重要であることを提供する。国際学会では、これらをテーマにすることは「考える」⇒「気づく」につながることや大学体育授業や企業の人材育成に取り入れることで、その機会を提供し、それぞれの生活におけるライフスキル獲得のための動機づけになることを発表し、意見交換を実施した。海外のスポーツ心理学分野では、色々な事例があるようだったが、いずれもプログラム自体に開発の余地があると感じられた。今後、実証研究を行っていく上で受講者がプログラムを通じて、どう感じたのか、一般生活にどのように汎用させようとしているのかなどの情報収集が急がれることがわかった。 

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