外国語自律学習支援のための多言語LMSの構築とその活用

 

 

 

國枝孝弘 総合政策学部准教授

安村通晃 環境情報学部教授

重松淳  総合政策学部教授

寺田裕子 総合政策学部訪問講師

藁谷郁美 総合政策学部准教授

 

1.多言語モードサイトの完成(重松)

 

1-1 多言語モードサイトの存在意義

「多言語モードサイト」とは、外国語を新たに学ぼうとする学生向けに、さまざまな言語を並べて眺められるように、語種横断的な視点で作られたサイトである。

SFCには英語・独語・仏語・スペイン語・アラビヤ語・中国語・朝鮮語・インドネシア語・日本語・イタリア語・ロシア語と11語種のクラスが設けられており、うち7語種にインテンシブコースが置かれている。これだけ多くの語種がかなりのレベルまで学べるのは、SFCが外国語学習をあらゆる研究に欠かせないものとして重視してきたからである。

新たに始める外国語を選ぶ理由はさまざまであるが、世界のどことでも瞬時につながるようになり、それを抜きにして研究活動ができなくなった現在、今や多言語社会となった日本に身を置く以上、母語以外の言語の一つや二つは操れることが求められており、大学での外国語学習は少なくともはずすことのできない学習の一つだと言えるだろう。

異文化接触の機会はますます増え、異文化間コミュニケーションが日常化するようになった今、現実の異文化接触のすべての場面で英語が支配的であると考えるのは早計であり、今後は「多言語社会にあって○○語を学ぶ」という、多言語環境を前提にしなければならない。それが「多言語モードサイト」の制作動機であり、多言語モードで外国語に接することに拘る理由である。

 

1-2 多言語モードサイトの位置づけ

WEB利用のネット社会は急速に拡大を続け、WEBによる外国語学習も一般的に行なわれるようになってきている。それに伴って学習者の学習スタイルにも変化が生まれている。但し、ある学習者がどのような学習方法を取るかは、比較的早い年齢で決定されるのではないかと考えられるので、WEBで提供される教材は、学習者内部の学習方法論的志向に応える選択肢が用意されているかどうか、また学習者の嗜好にヒットする形で提供されているかどうかが非常に重要になってくる。学習支援は、学習者の接近を引き出せて初めて効力を持ちうるからである。WEB利用の学習支援では、「多選択肢」と「見せ方」の工夫がポイントになる。

これまでに構築されてきたSFCの言語学習環境では実に多種多様な教材が存在する。「多言語モードサイト」では、それらの活用を少しでも促すことを考え、すでにある教材群を再編成し、現役の学習者である学生、つまり学習者サイドの視点からのアイディアを最大限に活かした「見せ方」で再提供する。それによって外国語の個別自律学習を促すと共に、多様でしかもさまざまな語種に応じた教材群が、新しい学習スタイルに添って活かされることを狙っている。

多言語モードサイトプロジェクトに参加したのは、中国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、日本語の5語種であるが、本サイトはSFCの言語セクションHPにリンクされている。その設置イメージは以下の図のようになっている。

 

 

            多言語モードサイト位置づけのイメージ

 

    SFC公式サイト                            

      言語セクションサイト        多言語モードサイト

      ◆多言語モードサイト         (1)WEB教材集

         バナー             (2)遠隔授業紹介ビデオ

                         (3)多言語環境PRビデオ

                         (4)多言語発信基地とは

                         (5)各言語HPリンク

                                       

 

 

各語種HP

                             

           履修案内    カリキュラム

教材       文化紹介

             ◆多言語ボタン

                    その他

                    

                         

                               

 

1-3 「多言語モードサイト」内容

 このサイトに載せる【ウェブコンテンツ】は、以下のようなものである。

(1)WEB教材集

当初の予定では、これまでに各語種が開発してきた教材のうち、「映像・音声・テキスト」の揃っている教材(主に単語学習)を同じシステム(ドイツ語の単語教材Dpodをベースにする)で統一的に扱い、多言語ボタンをつけて、語種横断的な単語教材を作るのがメインの計画であった。しかし、この部分はモデルケースを作るに留まった。今後各語種でモデルに従ってデータを整理すれば、この教材集が充実することが期待される。もともと多言語教材を目指して作られたTaddok(多読用多言語教材)、Multi-record(単語帳)はそのまま搭載されており、多言語教材作成の実例となっている。

なお多言語ボタンのロゴはすでに完成している。本サイトの「多言語発信基地」というアイディアを“Λ”(ラムダ)をかたどったロゴで表現したもので、言語関係の研究室が多くラムダ館にあることから、デザインされたものである。これは多言語化された教材であることを示すマークとして、今後それぞれの語種の該当教材に貼り付けてもらい、SFC言語の公式サイトと多言語モードサイトのリンクに統一感を持たせることを意図している。SFC言語のトップページにある多言語モードサイトのバナーにも「多言語発信基地ラムダ」のイメージが盛り込まれている。

(2)遠隔授業紹介ビデオ

現在SFCで行われている遠隔授業のうち、中国語、ドイツ語、フランス語、日本語、スペイン語で授業として実施されている言語学習に関わる遠隔授業を紹介するものである。イメージビデオと簡単な紹介文、カリキュラム紹介などのテキストを見ることができる。このように各語種が行なっている遠隔通信システムを使った言語学習の統一的な紹介は、このサイト独自のものである。

(3)多言語環境PRビデオ

2008年度夏に作成を開始し、2008年度・2009年度と2回のSFC-ORFで発表を行なった。内容は、SFCの多言語使用環境をイメージとして見せるためにスキット仕立てにしたもので、多言語で字幕を選択することができる。内容は、主人公の学生が、ラムダ館という多くの言語の研究室が集まっている建物の5階から1階に降りるまでにさまざまな言語に出逢う様子を見せ、多言語という空間を実感してもらおうというものである。これがSFC内に留まらない状況であることを感じてもらおうという意図もある。学生がごく自然にさまざまな言語に対応していく様子が表現されている。このPRビデオには続きの制作も予定されている。

(4)多言語発信基地とは

 ここでは、SFCのラムダ館が紹介されており、それぞれの語種の教材開発のみならず、言語横断的な活動が行なわれていることを説明している。

 

(5)各言語HPリンク

 各言語HPには、カリキュラムや授業スケジュール、教材、イベントなど盛り沢山な内容が用意されている。本プロジェクトでは、言語HPトップから多言語モードサイトを経由して多言語状況を実感してもらってから、興味をもった語種のHPへと進むことを学生に勧めたい。各語種の教材群は、現在ではそれぞれのHPに入らなければ見ることができないが、本サイト(1)WEB教材群が充実すれば、そこから多言語ボタンを辿ってアクセスすることが可能になり、言語横断的に教材を利用することができるようになる。すでに搭載されているTaddokMulti-recordは、語種が何であっても作成可能な統一システムで作られており、更に学習者自身が自ら多言語仕様にカスタマイズできるという利点があり、学習者の学習スタイルに合わせて自作の単語帳を作ったり、それを仲間で共有したりできるという、21世紀型のツールであるというところが、発展性を予感させる。

 

1-4 次年度以降への展望

 2009年度は多言語モードサイトの完成年度となった。多言語モードサイトのすべてのデータはSFC-ITCのサーバーに2010年3月中に移り、基本的な管理はITCへと移行する。多言語モードサイトの内容の中で、遠隔通信システムを用いた言語遠隔授業を統一的に紹介できたことは、非常に大きな収穫であった。またこのプロジェクトに参加したWEB教材開発研究会(重松研)の学部生が、多言語状況PRのために作ったビデオ映像は、字幕を多言語化するなどインパクトがあり、新入生にとって非常にアトラクティブな作品となっている。このように本サイトは、多言語環境を印象付け、新しく学ぶ言語を選ぶ際に、言語横断的な視点を持たせるという当初の大きな目的を達成することができた。

今後の課題として残ってしまったのは以下のような点である。言語研究室によっては独立したサーバーで動かしている教材があり、当初このサーバーのトラブルの解決もこのサイトを利用することで解決しようという目論みもあった。しかしこの点は全面的な解決には至らず、今後の大きな課題として残ってしまったわけである。また、多言語教材がモデルケースに留まったことも当初の予定から見ると少々物足りない結果となった。これは今後、このサイトを見た学生たちの中から何らかの期待の声が上がり、改善の方向に進むことを願わずにはいられない。

最後にこの場を借りて、本プロジェクトに参加してくださったドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、日本語の先生方、学生達に心から感謝の意を表したい。           以上

 

 

 

 

 

2. スペイン語研究室サーバITC移行作業について

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程3年 米澤拓郎

 

2-1概要

本報告書は、スペイン語研究室サーバのITC移行作業について報告する。サーバ移行は、20102月に行われた。本報告書では、まずこれまでのサーバ環境を説明した後、ITC移行後の環境について述べる。

 

2-2これまでのスペイン語研究室サーバ

これまでスペイン語研究室では、λ401に設置されたコンピュータ(iMac)をサーバとして運用していた。稼働していた主なサービスは、

スペイン語研究室WEBページ(Apache

スペイン語宿題システム(PHP+PostgreSQL

であった。以上のシステムは、http://estudio.sfc.keio.ac.jp/ (133.27.36.55)でアクセス可能となっていた。

研究室でのサーバの運営にはそれなりの知識を持った人間が必要であり、トラブル(HDDの故障)や停電時の復旧作業の負荷が高かった。スペイン語研究室サーバの特徴として、スペイン語履修学生の成績に考慮される宿題システムが動作しているため、安定性や保守性は重要な要素であり、ITC上に移行することで突発的なハードウェア故障など、潜在的なリスクを軽減し、学生に良い学習環境を提供できると考えられる。よって、今回研究室のサーバをITCに移行することとなった。

 

2-3ITC移行作業および現在のサービス稼働状況

以上の理由より、既存のサービスをITCへ移行することとした。移行作業は、(1)テスト環境構築によるサービス稼働実験、(2)サービス完全移行、の2ステップで行われた。以下にそれぞれ説明する。

(1)テスト環境構築によるサービス稼働実験

移行をシームレスに行うため、まずITC/pub/WWW/estudio2に共有利用環境を用意して頂くとともに、ITC上のDB:estudio_db, DBユーザ名: estudio_eb PostgreSQLデータベースを用意して頂いた。まず、既存のデータを移動し、http://estudio2.sfc.keio.ac.jp/ でテストした。スペイン語研究室WEBは基本的なPHPで書かれているため、問題はなかった。一方、PHPPostgreSQLによって動作する宿題システムは、環境の変化などでそのまま動作しないため、複数の箇所の修正・変更を行った。大きな変更箇所は、

設定変更: 接続先のデータベース変更など

学期始め・学期終わりのデータ集計スクリプトの変更

セキュリティ対策のためのDB接続パスワード外部ファイル化

などである。なお、以上の変更を反映した宿題システムインストールマニュアルを作成し、管理学生が作業を行えるようにした。以上の変更を経て、宿題システムの動作を確認し、現在まで動作テストを行っている。

(2)サービス完全移行

上記のテストがうまく行えたため、ITC上の/pub/WWW/estudio2/pub/WWW/estudioへと変更し、http://estudio.sfc.keio.ac.jp/ でアクセスできるよう作業を行った。作業は、

・共有機器利用廃止申請(旧iMacサーバの接続の廃止)

    ・/pub/WWW/estudio2/の廃止申請

 /pub/WWW/estudio/ の利用申請

という順番で行った。現在、http://estudio.sfc.keio.ac.jp/ へアクセスすると、CNS上の/pub/WWW/estudio/を参照するようになっている。

 

3 企画支援インタフェース部門:安村通晃

3-1 はじめに

 企画支援インタフェース部門(インタラクションデザインラボ/安村研究室)では、今年度、(1) 読書レビュー執筆支援ツールの試作・評価と、(2) 次世代ITと学習環境構築システムの検討、(3) 新しい学びのスタイルの検証、などを主に行なった。以下、その内容について報告する。

 

3-2 読書レビュー執筆支援ツールInterbookの試作と評価

 読書感想文は、小中学校などで夏休みの宿題なので課題として出されることが多い。本来、面白い本、興味深い本を読んだ後で、感想文として残しておくことの、学習としての意義は大きい。また、最近、インターネット上のブログやSNS (mixiなどのようなSocial Network Service)上で、読書レビューを書くことが他の人にも参考になる例が少なくない。しかし、慣れた人以外、読書レビューを書き続けるのは容易ではない。そこで我々は、3日坊主になりがちな読書レビューの執筆を支援するツールInterbookを設計、開発した[1]

 開発に先立って、2種類の事前調査を実施した。一つ目は、読書感想文を書いてもらうことを行動観察すること。これは、男女5名の被験者を対象とした。また、もう一つは、Web上にある既存の書籍レビューを分析評価し、どういう要素が含まれるか調べることである。商用レビューサイトであるメディアマーカー  (http://mediamarker.net/)の中から、小説62件、エッセイ34件、新書24件、合計130件のレビューを分析し、話題の抽出を行なったところ、(1) 感想、(2) 本についての解説、(3) 作者に関する説明、(4) その他、となっていることが分かった。これらの調査結果を踏まえ、読書レビュー執筆支援ツールInterbookを設計・試作した。

 Interbookのシステムは、(A) 本の題名を入力すると、Amazonからその候補を検索して表示する部分、(B) ユーザに対して質問を投げて回答してもらうことにより、対話的にレビューを構築する部分、および、(C) 結果を整形して表示する部分の3つの部分からなっている。(B)の対話的な部分において、システムが行なう質問は、以下の通りである。

 ***

(a) ストーリーについて

1. どんなストーリーだったんですか?

2. ストーリーについて、どんなふうに思いました?  [(   ) と思いました]

3. 特に印象に残った部分はありましたか?  [(   ) シーン]

4. どうしてそこが印象に残ったんでしょうか?   [(   ) から]

(b) 登場人物について

1. 気に入った登場人物はいましたか?  [はい/ いいえ]

2. (「はい」の場合) それは誰ですか?  [(   )]

3. どんなところが気に入ったのでしょうか?  [(   ) なところ]

(c) 作者について

1. 文体についてはどう思いましたか?  [(   )]

2. 「作品名」以外の作品も含めて、作者の作品についてどう思いますか?

(d) その他

1. この本を読んだきっかけは?  [(   ) から]

2. この本を読んで気付かされたことなどはありましたか?  [(   ) ということ]

3. 読んだあと、どんな気分になれる本ですか? [選択肢/楽しい/嬉しい/心温まる/せつない/悲しい/苦しい/イライラする/その他・(   ) 気持ち]

4. この本、どんな時に読むのがオススメですか? [選択肢/楽しい/嬉しい/心温まる/せつない/悲しい/苦しい/イライラ/暇な/疲れた/その他・(   ) ]

5. その他、なにかこの本について思ったことがあったら聞かせてください!

6. この本の評価を5段階で教えてください  [選択肢/5/4/3/2/1]

7. その評価にした理由を教えてください。[(   ) から]

***

また、図1Interbookの画面例を示す。

画面例

     図1 Interbookの画面例

 

 開発したInterbookを類似のシステムAに対し、21名の被験者により評価実験を行ない、比較したところ、「思っていることを充分書けたか」と「楽しく操作できたか」ではInterbookの評価が高く、また、「何を書けば分からなくなる」こともあまりない、と答えているが、「操作は煩雑」と答える被験者がやや多かった。

 操作性をより向上することにより、Interbookが対話的な読書レビューの支援ツールとして、より有用となることが示されたと言える。

 

3-3次世代ITと学習環境構築システムの検討

 次に我々は、Webや携帯電話を利用したITと学習環境の今後の動向について検討した。

現在、Webや携帯電話を利用した学習教材の開発が進んでいる。その中で我々は、(1) SNSを用いた学習教材開発と、(2) スマートフォンを用いた教材開発の2点に注目した。

 まず、mixifacebookなどのSNS (Social Network Service)では、ユーザがアプリケーションを登録する仕組みを備えている。しかも、たとえば、mixiの場合、マイミクと呼ばれるmixi上の友人に対しても、情報を共有したり、一緒にアプリに参加できたりする機能を提供している。このことにより、従来、単独の学習者がWeb上で学習を行なっていたのに対して、SNSを用いたWeb学習では、友人と協力し合った協調学習の可能性が一挙に広がることになる。たとえば、現状のmixiでは、サンシャイン牧場というアプリケーションがある。これは、種をまいて植物を育てて実を収穫したり、鶏や家畜を育てて卵や牛乳などを収穫するゲームであるが、本人が忙しい時など、友人が虫取りや水まきなどができる仕組みとなっている。こういった部分は協調学習として役に立つ可能性がある。この他、友人のスコアなども参照可能である。

 もう一つは、スマートフォンと呼ばれる、やや大型の携帯電話が市場に出回り始めたことである。アップルのiPhoneGoogleOSを備えたAndoroid端末などがその例である。これらのスマートフォンの特徴は、画面が従来の携帯に比べて大きいだけではなく、カメラの他にも加速度センサーやタッチパネルなどのハードウェアを備えていることに加えて、アプリケーション開発が従来の携帯電話に比べて圧倒的に楽になったことである。従来の携帯電話では、Web上に学習教材を置きそれを見に行く程度しかできなかったが、スマートフォンでは、その端末内だけで動くスタンダローンのアプリの開発が容易であることである。実際に、iPhoneAndoroidなどでは、新しいアプリが次々と作られている。

 以上述べた通り、今後の学習教材ソフトの開発には、SNSのアプリ、および、スマートフォンのアプリのそれぞれに注目していく必要がある。

 

3-4新しい学びのスタイルの検証

 最後に、20091222日(火)「ITと学習環境」の特別講演として、はこだて未来大学の美馬のゆり教授をお呼びし、講演して頂いた。美馬先生は「『未来の学び』をデザインする」[2]の著者に一人であり、はこだて未来大学(2000年に開校)の学習環境をデザインされたり、日本科学未来館の副館長として展示の新しい形を提案したりして来られた方である。美馬先生から、直接『未来の学び/新しい学びのスタイル』の考え方とその実践について、詳しく話を聴くことができたのは、我々にとっても大いに刺激となった。

 

参考文献

[1] 平井貴絵, 会話を模したインタフェースによる読書レビュー執筆支援ツールInterbookの提案・試作,慶應義塾大学総合政策学部2009年度卒業研究, (2010年1月).

[2] 美馬のゆり,山内祐子平,『未来の学び』をデザインする,東京大学出版会,2005.

 

 

 

 

 

 

4 『単語学習の開発と評価 — ドイツ語Web単語帳Version 2

ドイツ語部門担当:藁谷郁美

 

 

4-1. 研究目的とその背景

 

本プロジェクトは、単語学習に焦点を絞った学習システムの作成・運用・評価を目的として教材開発を進めてきた。すでに2008年度の時点で開発を手がけていたWeb単語帳 (MultiRecord Version1.0)は、Web上で表示できる文字コードを表記可能言語とするため、ドイツ語だけでなく他の言語にも応用可能である[1]。その際の問題点として挙げられていたのは、1)単語帳システムへのアプローチの複雑な操作、2)モティベーション向上を担う機能の不足、3)モバイル端末による汎用性の制限が主に挙げられた。

2009年度はこれらの機能をVersion 2.0として更新、より高い汎用性を付加することを目指した[2]

 

4-2. 学習教材開発内容とその特徴

 

具体的な付加機能としては、1)入力画面の操作性を明確化、2)スコア表示導入による学習者のモチベーション向上化、3)iPhone等によるWeb表示画面端末の可能性の拡大、が挙げられる(図1参照)。

図1:iPhone端末画面

 

特に第三番目の項目に関しては、今後の“Google-Phone“端末等への拡大にも今後つながる可能性をもつ。2010年度春学期にはこの方向での開発に広げていきたいと考える。

 

4-3. 問題点および今後の展望

 

問題点としては、学内・学外の学習者によるアクセスの混在が挙げられる。現在、すべての学習者は学内学外を問わず1つのシステム画面にアクセスする仕様となっている。しかしながら、学外からの学習アプローチが増加する傾向があり、データ集積の分離がまったくない状態である。画面の分割、あるいは別システムの立ち上げといった選択肢が考えられるが、この点は今後の検討課題である。

 

5. 一元化した教材管理をめざして-フランス語部門  担当 國枝孝弘

 

5-1 研究の背景

 これまでSFCフランス語セクションでは、学生とともに様々な教材を作成してきた。それはWEB上のものもあれば、ハンドメイドのものもあり、多種多様である。また学生ならではの創意工夫に富んだものであった。しかしながら学生は「通過集団」であり、せっかく学生時代に作っても、卒業とともに管理が行き渡らず、結局学習者の届かないという問題が見られた。今年度は、こうした教材を一元化するとともに、教材のポータルサイトの構築をめざし、学習者がレフェランスとなるブログの構築を行った。

 

5-2 研究の内容

 教材のメディアとなるものは、紙媒体からデジタルにいたるまで多岐に富んでいる。ダウンロードするものから、ストリーミングのものまで様々である。今回は動画教材のダウンロード、i-tunesを利用したpodcast、ストリーミングによるヒアリング教材、紙媒体のPDFダウンロード教材などを作成した。教材の内容は、授業を録画したフォローアップ動画教材、単語に特化した授業の補助教材、フランスの文化(映画、歌、料理)を紹介する教材、一般的な学習者を対象とした、上級用のテキスト読解+ヒアリング教材などである。こうした様々な教材を一元化することのメリットは、学習者に選択権を与えることができる点にある。つまり、学習者はスクロールをしながら自分の興味のある教材だけをピックアップできるのである。また同時に、学習者が新しい教材を発見する契機ともなる。つまり教室では、自分のレヴェルの教材、および授業でしか学習をしていないわけだが、他のレベルの教材を閲覧することで、より高いレヴェルを目指すことも可能になるのである。

 

5-3 研究の今後 

 こうしてブログ上による教材の一元化が可能となった。今後は、それらひとつひとつの教材の質的向上を目指すとともに、定期的な更新をすることが重要となる。ブログ上の教材はパーマネントに使える教材であると同時に、WEB上にあがっているということは、更新が、学習者が定期的にこのサイトを訪れるようになる重要なファクターであるからである。教材の種類をさらに増やすだけではなく、今後は学習者自らが自作教材を投稿できるような一大フランス語学習サイトを目指すことも念頭においてゆきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 



[1] Version 1についての詳細は以下を参照:『ドイツ語学習環境の設計 - 携帯電話対応Web単語帳 Multi Record - 』、(SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトとして共同執筆)藁谷郁美、太田達也、マルコ・ラインデル(2008628日開催DMNetワークショップ発表最終報告書)2008

[2] 参照URLhttp://dmode.sfc.keio.ac.jp/3fisch/