2009年度学術交流資金(電子教材作成支援)研究成果報告書
講義:「持続的開発のためのアジア・太平洋イニシアティブ」
作成物:Field Explorer ver.1.0.4 (遠隔フィールドワーク支援ソフトウェア)
申請者:総合政策学部梅垣理郎
関連URL: http://asialab.sfc.keio.ac.jp/fwsoftware.html
1.概要
政策研究の分野において、フィールドワークが最重要の研究手法のひとつであるという認識は常態化しつつある。実際、総合政策学は「実践知の学問」というスローガンを掲げるに至り、フィールドワークの重要性はますます高まっているといえよう。これに加え、近年のインターネットを基盤とした情報コミュニケーション技術の進展は、フィールドワーク中の学生の活動を適時把握し、適切かつきめ細かいアドバイスを提供することを可能にする。また各種デジタルメディアの普及は、フィールドノーツといったテクストベースでしか記録できなかった現地のリアリティをより複合的に記録してゆくことを可能としている。特に、アジア地域においては情報コミュニケーション関連のインフラ整備ならびに利用技術の開発が急速に進展している。日本国内のみならず、自身のフィールドワーク先においてもICT環境が着々と(地域によっては日本以上に)整備されつつある。これらのICT環境を研究者がそれぞれ調査あるいは現地での恊働作業の中で効果的に利用することで、短時間での研究成果の量的かつ質的な向上が期待される。
2.目的
「持続的開発のためのアジア・太平洋イニシアティブ」の講義には、途上地域の開発問題の研究に携わり、フィールドワークを実施する学生が少なくなく、その多くを東アジアからの留学生が占める。本研究の目的は、これらの学生が行うフィールドワークをトータルにサポートするためのソフトゥエア(Field Explorer) を開発することである。2009年度よりβ版をアジア政策ラボにて公開し、「持続的開発のためのアジア・太平洋イニシアティブ」の講義を履修している学生への利用を促し、ソフトウェアの操作性および機能性に関するフィードバックを受け、改善点/修正点等を反映させている。
3. 2009年度の成果
今年度は、Field Explorer の学生への利用を促進し、利用学生からのフィードバックをまとめることに重点を置き、今後の改善点等の割り出し等を行った。懸案だったネットワークへの対応は、次年度のヴァージョンアップにて反映することとした。以下、学生から出てきた今後の改善点等を示す。これらの改善点のうちいくつかは、Field Explorer を動かす基盤(Adobe Integrated Runtime)の次期ヴァージョンアップ後に実装作業を順次開始する予定である。
1) USBメモリへの対応:
現行のβ版では、たとえばUSBメモリといったデバイスに保存されているファイルを読み込み、あるいはUSBメモリへのファイルの保存といった動作を行うことができない。しかし多くの場合、学生は自分達のファイルをUSBメモリに保存しているケースが多かった。Field Explorer から USBメモリにファイルを保存し、ファイルを読み込む機能を組み込む必要がある。
2) 各種ネットワーク機能への対応
現行のヴァージョンではネットワークを介した諸々の機能を提供していない。これに対して、インターネットを介したファイルのやり取り、SONYのGPSlogger 等で採取したデータ等を利用しGoogle Maps等からフィールドワーク先の地理情報等を取得したり、例えばiPhoneのようなモバイルデバイスとのネットワークを介した同期、P2Pを利用してField ExplorerをインストールしているPCどうしをつなぐことで、フィールドワークの現場にいながら迅速なデータ共有を行うなど、ネットワーク関連についてのアドバイス・アイディア等は多かった。
3) 写真/動画管理機能
写真や動画に日付やGPSデータ、簡単な記述等を付加するための特別なエディタへのニーズが多かった。
4) インターフェイスデザイン
既存のAdobe AIRで提供されているFlexスキンで作成されているインターフェイスをもう少し改善すること。特にマウスを利用したドラッグ&ドロップ操作ができるようにしてほしいという要求が多かった。
5) 操作マニュアル等の充実
日本語版および英語版でのマニュアル作成が急がれる。
4.今後の展望
引き続き、今年度出てきた改善点を反映させることとしたい。また、単に学生が利用するという用途のみならず、例えば学内外の国際機関やNGO、さらにはフィールドワーク先での政策形成等に関わるアクターどうしの情報共有のためのツールとして発展させることがのぞまれる。そのためにも、今後は英語ヴァージョンでの実装を中心的な作業としてゆきたい。