研究課題名:アートイベント「みなとメディアミュージアム」による地域コミュニティ活性化実証実験
所属:環境情報学部
氏名:小川克彦

1.プロジェクト概要
本研究では、アートが持つ社会的な役割に着目し、地域型アートイベントの事例を示すことで、1)芸術作品が活用される環境を作り出し、2)地域の魅力を掘り起こし、3)地域のコミュニティを活性化し、4)最終的には地域振興につなげることを目的としている。また、大学と地域(第三セクター)、行政が連携し、産学官で活動を進めることで、一過性ではなく持続的な「地域文化」としての、アートイベントによる地域振興の具体策を提案する。
本研究は2年目にあたり、本年度はより具体的な研究成果となることを目的の一つとしていた。 2.目的 本研究の目的は、地域型アートイベント「みなとメディアミュージアム2010」(以下、MMM2010)の実践を通して、1)芸術作品が活用される環境の創出、2)地域の魅力の再発見、3)地域コミュニティの活性化、などをもたらすことである。今回は、イベント終了後にイベントの成果をまとめたものをさまざまな形で報告することも目標の一つとして考えていた。 3.MMM2010について 3-1.概要 MMM2010は、2010年7月24日から9月5日まで開催され、そのうち7月24日から8月8日までは「プレ展示期間」とされ作家による現地作業が頻繁に散見された。8月8日から9月5日までは「本展示期間」と設定されていた。MMMの出展作家は18歳から25歳までの作家が大半を占める。作品のジャンルとしては、「メディア」という言葉をタイトルに冠していることから、映像作品やメディアアートが多い。その他全体的に現代アート作品が多く、一般的な油画作品などはごく一部に限られた。
3-2.イベント内容
◆ パブリックな環境にせり出した作品
今回の作品の特色として、公的空間に作品を配置する作品が多かったことが挙げられる。
今回の展示では多くの乗客・地元住民の方が興味を示し、老若男女問わず、作品を体験している様子が見受けられた。
こういった作品は、いわゆる美術館で展示される作品とは異なり、美術に興味のない人間に対して、「偶然の鑑賞」を生み出す。
また、天候や他のイベントなど、周辺環境によって、大きく変わるため、通常の美術館とは異なる鑑賞の可能性を生み出した。
パブリック
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◆地域性を取り入れた作品
作品が地域に関連したテーマをもって制作された作品には田島悠史「circuits」や中垣拳「スタンプラリー・湊音」などがある。
これら種の作品は、地域に関連していることもあり、美術に関心のない鑑賞者にとっても見るモチベーションを与える契機となる可能性を持っている。
また、これらの作品は、作家と地域が密接なコミュニケーションを取ることを要求するため、作家がいわば「地域の代弁者」となり、その地域を世界に発信することもある。
地域
◆ワークショップを行った作品
玉田多紀やASAMIはワークショップを取り入れた作品制作・展示を行った。
地元住民はもちろん、遠方よりはるばるやってきた参加者も見られた。
あるワークショップ参加者には隣町にあたる水戸市民が多かったが、那珂湊には来たことのない者が多く、那珂湊を知る契機となった。
また他のワークショップでは、海岸近くで行ったことから比較的遠距離(栃木県や埼玉県、東京都北部)の来場者に那珂湊やアートイベントを知らせることができた。
地域
地域
◆イベント
MMMの最終日には地域住民の代表者、アーティスト、イベントスタッフを交えたトークセッションを行った。ひたちなか海浜鉄道湊線のご厚意により、那珂湊駅ホームでの開催が実現したため、偶然聞くような者も少なからず現れた。
地域
◆データ取得について
データはさまざまな面から収集した。具体的には1)twitterを導入し、公式アカウントおよび関連作家のツイート(書き込み)を収集した。2)アンケート、3)ICレコーダにGSPをつけたシステムによって、鑑賞中の来場者の声を収集した。4)作品の前に定点観測を行った。5)地域住民にインタビューを行った。

4.成果
4-1.イベント
玉田多紀によるワークショップに対する反応が最も良く、多くの地域住民および展示場所の近くに来ていた海水客から良好な反応が聞かれた。
また、今回のイベントでは、IBS茨城放送、常陽新聞、文化庁、地元FM局、ケーブルテレビ茨城など、各方面のメディアからMMMの活動が紹介された
4-2.『地域系アートイベントにおけるコミュニティ内でのツイッターの効用 「みなとメディアミュージアム」を事例として 』(田島悠史、小川克彦)
上記著作の掲載が、地域活性学会が発行している学会誌、「地域活性研究vol.2」(2010年3月)に事例研究報告として、掲載が決定している。
この著作は、地域系アートイベントにおいてコミュニティ内でツイッターを活用することにより、イベントの成否や地域活性化に繋がる可能性を示すものである。
4-3.報告会
2011年1月にはメンバの田島悠史と緒方伊久磨がひたちなか市にて報告会を行い、上記成果についての報告を行った。
会には市の文化協会顧問や市議会議員、県議会議員などが集い、有意義な情報交換ができた。
地域
4-4.その他
また、10月16日、17日の秋祭りにはメンバの清水健佑が、11月22日、23日のORF(OpenResearchForum)にてメンバの日高一馬がブース展示を行った。

5.おわりに
今回の研究を通して、小規模アートイベントを通して、地域コミュニティの活性化や地域の魅力の再発見に有効である可能性が見られた。
昨年課題だった継続的財源確保だが、地域住民や企業からの寄付も一部あり、徐々にではあるが継続的にイベントが行えるような体制づくりができつつある。
その一方で、慶應大学主体のイベントでは継続性は難しく、今後の課題として地域への段階的なタスクの移行が挙げられる。
MMMは2011年度も開催予定であり、今後はコミュニティの活性化を、定量的な評価によって取得し、小規模地域アートイベントの有効性を証明すると同時に、上記課題を達成してゆく。

参考文献
[1]MMM みなとメディアミュージアム :http://mmm.sfc.keio.ac.jp/, 2011年2 月28日
[2]『地域系アートイベントにおけるコミュニティ内でのツイッターの効用 「みなとメディアミュージアム」を事例として 』田島悠史,小川克彦 地域活性研究vol.2 2010.3