2010年度 学術交流支援資金 電子教材作成支援
研究成果報告書
研究課題名:講義「ウェアラブルメディアデザイン」の教材作成
環境情報学部 准教授 脇田玲
■ 教材作成の背景
近年、スマートテキスタイルと呼ばれる新素材が大きな注目を集めている。スマートテキスタイルとは、導電性繊維(電気を流す性質をもった布)や小型のセンサやマイコンなどを材料とした布のことである。コンピュータに接続することで様々な機能を提供することができるため、ユビキタス環境におけるインターフェイス素材として期待されている。また、家具、衣服、建材などに利用することで、柔らかな人工物をメディア化する素材として利用することもできる。大きな期待が集まる一方で、スマートテキスタイルの作成を支援する環境は稀である。インタラクションデザインにおいては、ハードウェアスケッチやプロトタイピングを効率的に行える環境が望ましいが、そのような環境は存在しない。LilyPad Arduino のように布を対象としたフィジカルコンピューティング環境は存在するが、IDEによるプログラミング/デバッグ作業が必要であり、プロトタイピング作業を素早く行う作業には向いていない。さらに、スマートテキスタイルのデザインは特殊な技術とノウハウを必要とするため、学生がその仕組みを自力で作り上げるのは困難である。教育を目的として、ノウハウや作り方を効果的に学ぶ事ができる教材が求められている。
■ 専門家へのヒアリング
教材を作成し授業利用する前に、インタラクションデザインの専門家を対象に本教材の一部を公開し、その有用性を評価するためのヒアリングを行った。研究代表者は、2010年2010年7月2-4日に長野大学で開催された日本デザイン学会、及び、2010年8月16-20日にデンマークのオーフス大学で開催された ACM DIS 2010 で本教材の一部となるオーサリングツール"Intuino"の成果を発表した。発表前に研究室内で小型のワークショップを開催し、そこで作成された作品とワークショップの分析結果を発表した。
・脇田玲, 姉崎祐樹, フィジカルコンピューティングを支援するオーサリングツール - Intuinoを用いたインタラクションデザインの実践, 日本デザイン学会第57回春期研究発表会, 2010年7月2-4日, 長野.
・Akira Wakita, Yuki Anezaki, Intuino: An Authoring Tool for Supporting the Prototyping of Organic Interfaces, In Proceedings of DIS' 10 (ACM Designing Interactive System), Full Paper, ACM, pp.179-188.
■ 作成した教材
ヒアリングで得られた意見をもとに、本講義「ウェアラブルメディアデザイン」のために作成する教材を以下の3点とすることにした。
1)スマートテキスタイル作成支援マニュアル
2)スマートテキスタイルを電子工作で利用するためのオーサリングツール
3)スマートテキスタイルのネットワーク接続を支援する環境
1はスマートテキスタイルをハンズオンで作成していくためのチュートリアルである。
2はスマートテキスタイルの振る舞い(センサからの入力とアクチェータへの出力)をGUIのみで設定できるオーサリングツールである。
3はTwitterなどのAPIにスマートテキスタイルを接続するためのprocessingモジュールである。
以下、この3つの詳細を述べる。
● スマートテキスタイル作成支援マニュアル
講義で行われるワークショップで利用するチュートリアルを作成した。
この教材は講義1〜2回で1つの作成を完成させることを想定している。
単なる電子工作のノウハウではなく、布という素材の特徴を理解し、電子回路とシームレスに連結させるための工夫を散りばめた題材を扱っている。
チュートリアルにはステップごとに画像と説明が加えられている。
学生は電子工作キットと刺繍キットを持参し、この教材を当日に受け取り、その場で作業を開始する。
TA/SA、教員がそれをサポートしながらワークショップは進められた。
以下に、「ひよこの作成」の回のチュートリアルを示す。これは、LEDが目になっているフェルト製のひよこを作成するワークショップの教材であり、ニードルフェルトの技法、導電性繊維の特性、LEDなどの電子部品を布と合わせる方法、等の理解を目的としている。
図:チュートリアルの例 1
図:チュートリアルの例 2
図:チュートリアルの例 3
● スマートテキスタイルを電子工作で利用するためのオーサリングツール
研究代表者の研究室では、視覚的なPC操作のみで有機的な振る舞いを持つインターフェイスを直感的かつ高速にプロトタイピングできるオーサリング環境"Intuino"を開発を進めている。この環境は、汎用的なフィジカルコンピューティングボードであるArduinoとシームレスに連携するソフトウェア "Intuino" として提供される。Arduinoに接続したセンサとアクチュエータは、そのままIntuinoの画面上に詳細なアイコンとして表示され。グラフィカルな操作言語のみでセンサ値の取得とアクチュエータの動作設定をほぼリアルタイムで行うことができる。システムは、入力/処理/出力のプロセスにおいて処理の作業を最小化するかたちで設計されているため。ユーザは入力と出力の組み合わせ及びその詳細な動きのデザインに集中することができる。プログラミングとデバッグの処理の一切を省くことは時間を短縮するのみならず、インタラクションデザインの初期過程をより充実させることにも繋がる。そのため、本システムは一般的なPCスキルしか持たないデザイナーのみならず、経験を積んだプログラマーにも有効である。
図:Intuinoの概観。左側のグラフは取得したセンサ値を表示している。中央にあるI/Oモジュールアイコンはピンのレベルまで詳細に表現しており、視覚的に設定を行うことができる。右に表示されているタイムラインはアクチュエータの振る舞い(この場合は2つのLED)をスプライン曲線で指定しているところ。
本講義では、スマートテキスタイルを用いた作品制作を容易に行うためにIntuinoを利用した。題材として、布と電子工作を組み合わせた作品制作で近年注目を集めているテクノ手芸部(http://techno-shugei.com/)が公開している「まばたきのきつね」を参考にした。
図:テクノ手芸部「まばたきのきつね」
本講義では、この作品に、Intuinoを用いて独自のLEDの明滅を組み合わせることとした。なお本講義では、テクノ手芸部のよしだともふみ氏のゲストレクチャが2011年1月6日に開催されている。
この題材では、指をきつねの形にすると、スイッチがONになり、Arduino経由でIntuinoに信号が送られる。Intuinoでは、GUIによりON/OFFの閾値を設定し、LEDの明滅を決定するPWMをスプライン曲線を描画して設定している。
図:電子工作、布、Arduino、Intuinoの4つを用いた教材