2010年度学術交流資金(電子教材作成支援)研究成果報告書
講義:ポリシーマネジメント
作成物:Field Explore ver 2.0.0 (beta)
申請者:総合政策学部 梅垣理郎
政策研究の分野において、フィールドワークが最重要の研究手法のひとつであるという認識は常態化しつつある。実際、総合政策学は「実践知の学問」というスローガンを掲げるに至り、フィールドワークの重要性はますます高まっているといえよう。これに加え、近年のインターネットを基盤とした情報コミュニケーション技術の進展は、フィールドワーク中の学生の活動を適時把握し、適切かつきめ細かいアドバイスを提供することを可能にする。また各種デジタルメディアの普及は、フィールドノーツといったテクストベースでしか記録できなかった現地のリアリティをより複合的に記録してゆくことを可能としている。特に、アジア地域においては情報コミュニケーション関連のインフラ整備ならびに利用技術の開発が急速に進展している。日本国内のみならず、自身のフィールドワーク先においてもICT環境が着々と(地域によっては日本以上に)整備されつつある。これらのICT環境を研究者がそれぞれ調査あるいは現地での恊働作業の中で効果的に利用することで、短時間での研究成果の量的かつ質的な向上が期待される。
申請者(梅垣)が担当する講義(ポリシーマネジメント、アジアワークショップ、政策デザインワークショップなど)の履修者の多くは、途上地域の開発問題の研究に携わる、東アジアからの留学生が占める。これらの留学生のほとんどは各々の母国の官公庁等での勤務経験を有し、また本研究科を卒業後も地元の行政府の役職に就き、ODAや開発プロジェクトの現場での運用などに携わるケースが見られる。これらの学生がICT技術の利用を前提としたフィールドワークの手法を習得することは、具体的な開発の現場における問題解決(ガバナンス)へ資するうえでも重要である。本講義では以上の認識に立ち、過去数年にわたり学生が(特に留学生が)ICT利用を前提としたフィールドワークを支援するための電子教材を作成している。
具体的には、これまで蓄積されてきたノウハウをもとに、フィールドワークが必須の動作として求められる研究をトータルにサポートするためのソフトウェア(Field Explorer)の開発を続けている。Field Explorer は、フィールドワークの過程で収集する各種データ(書誌情報、政策文書、統計、インタビュー記録、映像/画像、音声ファイル等)をPC上で管理し、研究内容にあわせて時系列的、空間的、概念的に構造化・整理し、インターネットを介してフィールドワークへの協力者、研究のアドバイザー等と共有する機能を提供する。OSに依存せず、どの種類のノートパソコンにインストールできるソフトウェアとして実装することで、フィールドワーク先にて収集した情報を随時入力しつつ、蓄積してきたデータをいつでもどこでも参照できる情報システムを構築することができる。2009年3月にアジア政策ラボにてバージョン1を公開し、学生に利用してもらい、ユーザビリティ等に関するフィードバックを受けた。
2010年度は、前年度に利用者から受けたフィードバックをもとに既存の機能についてのいくつかの改善をおこないつつ、新たにネットワーク共有機能を追加したヴァージョンを実装する作業を行っている。具体的には以下の3つの機能をField Explore にて実装する作業を行っている。
2011年1月の時点で上述のうち、1に関してはツリー構造による分類機能、時系列による分類機能の実装が完了している。さらに、1に関しては1次資料(主にフィールドワークの過程で収集した資料)と2次資料(フィールドワークの前後で収集した資料)に分けて管理ができるように、それぞれ画面を分けて実装している(図3、図4)。また2に関してはDropbox と連携する機能の実装が完了している(図5)。現在これらは、Field Explore version 2.0(alpha)として、順次提供を開始している。今後は、ユーザビリティの改善を図りつつ、1に関しては空間情報を共有する機能を実装し、2に関してはほかのオンラインストレージサービスと連携する機能の実装とP2P形式でのデータ交換を行う機能を実装する。
上述のまだ実装していない機能を実装する作業、ユーザビリティの向上を図る作業に加え、今後はソフトウェアの有効性に関する検証実験を行う。具体的には、修士課程および卒業研究にてフィールドワーク等を行う予定の学部生へField Exploreを提供し、使用状況と研究成果のパフォーマンスの向上についてのモニタリング調査を行う。先述のとおり、申請者の担当する講義では、東南アジアからの留学生の多くが履修し、その中には国際開発や援助政策の現場における研究者やエージェントとして活動している学生も多い。また、東南アジア諸国の開発の現場へ積極的に赴く学部生も多い。そういった学生の調査能力の向上や、研究活動のコスト削減につながるのかどうか、モニタリング調査を通じて検証したい。
2010.02.21