Auto-ID Lab. Japan

ソフトウェア制御可能なRFIDオープン・プラットフォームに関する共同実証(モービル広域ネットワーク)

環境情報学部 三次 仁

物流効率化や製造管理で導入が進んだ結果、無線タグ(RFID)システムの市販装置はLSI化してしまい大学などの研究者が詳細な通信性能の評価や新しいプロトコルの開発実証をすることが難しくなっています。こうした背景から様々な研究機関で、ソフトウェアで制御可能なRFIDシステムを独立に開発しています。本共同実証では、慶応大学で2007年より民学の研究コンソーシアムで開発してきたソフトウェア制御可能な電子タグとUniversity of Washington(UW)が開発しているソフトウェア制御のRFIDリーダを組み合わせて動作できるように、お互いの機材を提供し、利用環境を整備し、通信性能の詳細評価を実施しています(2011年度学術交流支援資金事業)

ソフトウェア無線を用いたRFIDリーダライタ

ソフトウェア無線を用いることで従来は困難であったRFIDリーダライタに新しい無線通信機能や性能向上を図ることができます。その際、汎用的に使うことができるソフトウェア無線装置に加えて、国際標準に則ったオープンなプロトコルスタックがあると開発を迅速に進めることができます。我々はEttus社のUSRPプラットフォームにUWで開発したISO 18000-6 Type C準拠のリーダライタプロトコルスタックを実装し、さらに独自の拡張を施すこで、位置検知機能付きのリーダライタの開発を進めています。

USRPを用いたRFタグの読み取り↓クリックして拡大
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USRPはPCと組み合わせて使います。USRPは

  • RF部の制御(周波数、GAINや受信ポートの切り替え)
  • AD変換(指定したサンプリング間隔で受信した電界値をデジタル化(複素数)
  • Gigabitイーサポートを通じて、PCへデータの送信

を行います。通信のステートモデルや制御ロジックはPC側につくります。現在、開発している位置検知アルゴリズムの検証には、電子タグ側にも機能追加が必要であるため、下に述べるプログラマブル電子タグを用いた実験を行っています。

ソフトウェア無線リーダライタとプログラマブル電子タグを用いた位置検知実証実験↓クリックして拡大
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プログラマブル電子タグ

パッシブ電子タグは電池が不用であることから物流を中心に多くの応用が期待されています。しかし確実な読み取りを実現したり、センサと連携させるなどの機能追加を安価な市販電子タグで実現することは困難です。我々は、ISO 18000-6 Type Cに準拠(通信速度の制限あり)したプログラマブル電子タグをCPLDとMCUの組み合わせてで実現しています。

プログラマブル電子タグ↓クリックして拡大
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ISO 18000-6 Type Cはリーダライタからのコマンドに対するタグの反応時間等に厳しい要求条件があるため、MCUだけでプロトコルを実現することは困難です。またコマンド長が可変であるのでステートモデルの構築が複雑になりがちです。モノに貼り付けて使うものなので、電池駆動が望ましく高性能なFPGAを使ってしまうと消費電力が問題になります。我々はCPLD(Cool runner)にプリアンブル処理、CRC処理、コマンド分析の一部、プロトコル処理はMCU(Atmega 64)に分割することで、リーダライタからタグ方向への通信速度80kbps、電子タグの応答速度200kbpsを実現しています。

マルチプルタグエミュレーション
高速で電子タグを読み取ることは、大量のモノを自動認識することに加えて、読み取りの繰り返しによる読み漏らしの向上のために大変重要です。これまでに多くの高速読み取りプロトコルが開発されていましたが、実際にそのプロトコルを試験するためには、相手になる電子タグが必要となります。我々は、プロトコルの確率的な特性に注目して、そこを効率的にプログラムすることで、一つのプログラマブル電子タグで最大8000枚の電子タグと同様の挙動させることに成功しています。このエミューレータの特性は実際の電子タグの読み取りと比較することでその妥当性を検証しています。

マルチタグエミュレーションの実験検証結果↓クリックして拡大
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読み取りエリア測定
UHF帯電子タグは我が国を含む多くの国でリーダライタが1W出力まで可能であるため、電池なしタグでも5mから10mの読み取りが可能です。しかし、電波伝搬特性によってリーダライタに近いタグが読めなかったり、遠くに存在する関係ないタグが読めてしまうことがあります。したがって実際の置局では、読み取りエリアを正確かつ効率的に測定することが重要です。我々は測定物に電子タグが貼付された状態で移動した際の、リーダライタの信号をプログラマブルタグでモニタすることによって、読み取り成功タイミングを正確に測定し、測定物の位置情報と組み合わせることで読み取りエリアの正確なマップを簡単に作りだすことに成功しています。

読み取りエリア測定結果↓クリックして拡大
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その他

  • オープンRFIDプラットフォームを用いた研究開発は世界的に広がっています。慶応大学、University of Washington、MITは2012年4月に開催されるIEEE RFID2012において、Workshop on RFID Emulators and Simulatorsを共同開催します。
  • プログラマブル無線タグプロジェクトはこちら