2011年度 学術交流支援資金報告書「海外の大学等との共同学術活動支援」

研究課題名:トランスカルチャー論プロジェクト

研究代表者氏名:藁谷郁美

所属/職名:政策・メディア研究科/准教授

研究課題:ドイツ州立ハレ・ヴィッテンベルク大学との共同授業および共同研究活動の確立 − 授業アーカイブシステムの確立および政策・メディア研究科におけるダブル・ディグリー・マスターコース学生受け入れ体制の整備と運用 (1)

 

1. 本研究の背景と目的

1.1. 共同講義科目の運用とアーカイブシステムの必要性

 2001年春学期よりドイツ語圏の大学と共同で遠隔ビデオシステムを取り入れた授業スタイルの導入および授業形態の多様化を目指してきた。実際に授業として運用を開始したのは2002年度秋学期からである。同年より現在に至るまで、ドイツ州立ドレスデン工科大学東アジアセンターとの共同授業(タンデムプロジェクト)が継続されている。同時に2006年春学期より、ドイツ州立ハレ大学に日本学科との共同授業が開始され、現在まで継続されている。これまでの実績をもとに、遠隔会議システムが外国語学習環境のなかでいかなる意味を有し、どのような方向へと拡大していくのか、その可能性を具体化した形で提示することは、今後の開発方向を見極めるうえできわめて重要である。2006年度以降、継続しておこなわれているハレ大学との共同授業「言語教育実践論」(ドイツ語講義科目:春学期担当者 マルクス・グラースミュック非常勤講師/秋学期担当者 マルコ・ラインデル訪問講師)は、それぞれ1)双方の画面中の動画、2)双方のプレゼンテーション内容プロセス、および3」SFC側から見た共同ディスカッションの経過、について録画録音し、学期中はそれぞれの担当者および履修者がデータを再生できる環境を構築した。また、本プロジェクトの中心となっている「ドイツ語教材開発研究プロジェクト」の主な活動場所であるドイツ語研究室に遠隔会議システムを導入した。

 上記と同様に2001年度よりドイツ州立ハレ・ヴィッテンベルク大学の日本学科と協力し、ドイツ語および日本語学習のためのグループワーク活動を実施している。運用はSFC内のインテンシブドイツ語初級3履修者を対象におこなっており、授業外の時間を使用してWebカメラおよびSkypeの併用でグループワークの形で課題に取り組むものである。しかしながら、2006年度時点で構築したシステムは、継続運用が困難となり、2009年度以降はまったくアーカイブシステムが機能していない。サーバ内の更新プログラムが不安定だったことが主な理由と考えられる。今後は、継続性を重視したシステム構築の可能性を考える必要がある。

 日独間の大学交流を学習および研究レベルで今後展開していくためには、これまでのデータの評価と同時に、本アーカイブシステムの新たな構築および運用が必要となる。これまでの実績を評価するためには、録画資料を「データ」として位置づけ、これまでの蓄積データおよび今後発生するデータを「データベース」として構築することが必要であり、そのためのシステム構築および分析評価が本研究の目指す目標のひとつである。

 

1.2. 研究レベルの交流への方向性とのその整備

 上記と並行して、夏季休業期間および春季休業期間を使い、フィールドワーク活動を目的としたSFCドイツ語履修者のハレへの派遣を実施している。逆に、同時期にはほぼ同数(毎年5〜6名)のハレ大学日本語履修者を、フィールドワーク活動のためSFCに受け入れている。それぞれの準備は「タンデム」と呼んでいるグループワーク活動や共同講義科目を通してお互いに進めている。この結果はhttp://deutsch.sfc.keio.ac.jp/にデータとして蓄積され、現在の学習者が参照できる状態を維持している。なお、本活動については、これまで未来先導基金およびハニエル財団基金の援助を受け、奨学金の形で参加者を支援できた時期があり、今後の資金供出の可能性を探る必要がある。学部生および大学院生の交流活動のほかに、研究者の交流もおこなっている。これまでにハレ大学での集中講義や講演(2007年度および 2009年度:藁谷郁美)などを通して、研究者レベルでの交流もおこなっている。また、ドイツ語関連科目については、ハレ大学からインターンシップを受け入れ、教授法の指導もおこなっている。

 これらの活動が実績の基礎となり、2008年度にはドイツ州立ハレ・ヴィッテンベルク大学との間に交換協定を締結、さらに2009年度には政策メディア研究科との間にダブルディグリーマスタープログラムの締結が実現した。現在、既にこのプログラムを使い現地で研究活動をおこなう修士学生もいる。しかしながら、このダブルディグリー制度では、政策メディア研究科からの派遣に対し、受け入れは三田キャンパスの文学研究科を位置づけている。現在我々が早急に取り組まなければならない課題は、政策メディア研究科に受け入れ体制を準備して、相互派遣・受け入れの環境を実現することにある。今後、多くの留学生を受け入れる状況となるSFCキャンパスに、学部生レベルの交流だけではなく、研究レベルでの大学院生の派遣・受け入れが切に望まれる。

 

2.本研究の実施内容(今年度3月までの予定を含む)

 2006年度以降、継続しておこなわれているハレ大学との共同授業「言語教育実践論」(ドイツ語講義科目:春学期担当者 マルクス・グラースミュック非常勤講師/秋学期担当者 マルコ・ラインデル訪問講師)は、共同ディスカッションの経過について録画録音し、学期中はそれぞれの担当者および履修者がデータを再生できる環境を構築した。今年度も引き続き日独共同講義科目「言語教育実践論」(ドイツ語講義科目:春学期担当者 マルクス・グラースミュック非常勤講師/秋学期担当者 マルコ・ラインデル訪問講師)を開講している。今後のアーカイブシステムを構築するためには、1)データ集積サーバの管理場所とその方法、2)録画録音データの保管方法、3)分析内容の確認、4)今後の共同研究の方向に関して、まずハレ大学側の授業責任者および授業担当者とディスカッションを通して決定していくことが必要である。今年度はドイツ語研究室で運用している2つのサーバ(教材用サーバおよび遠隔授業アーカイブデータ用サーバ)のITC移行を試みた。20122月には前者の教材用サーバを完全にITC領域へ移行が完了した。後者の遠隔授業アーカイブデータ用サーバは次年度(2013年度)に移行作業を進めていく予定である。その上で、データ収集および(必要に応じて)データ編集、データベースの構築作業を進めていく。すでにハレ大学日本学研究所所長であるオーバーレンダー氏(Prof. Christian Oberländer)ならびに授業担当者のランゲ氏(Frau Anne Lange)との話し合いは進んでいる。なお本プロジェクトの参加者である村田優子君(政策・メディア研究科修士2年)は現在ハレ大学とのダブルディグリープログラム生として勉強中であり(2012年度春学期修了予定)、今年度、同様にハレ大学とのダブルディグリープログラムで渡航中の米持愛未君(政策・メディア研究科修士1年)と3月にハレで現状に関するインタヴューをおこなう予定である。

 

3.今後の課題と計画

 これまで培ってきたドイツ州立ハレ・ヴィッテンベルク大学との交流は、学部生レベルでの交換授業、フィールドワーク、共同講義科目の運営等とならんで、大学院生のダブルディグリープログラム派遣活動を継続しておこなうことで、今後のより密接な共同研究の基礎がつくられると考える。その場合に、このいわゆるデータ基盤は、外国語関連の講義科目やスキル科目への反映に生かせるだけでなく、SFCの言語学習環境デザイン構築にも、重要な参考データとなりうる。この活動を通して、今後「成長型」のシステムが構築できれば、今後のデータ蓄積がより効率的な形で実現すると考える。さらには、現在ハレ・ヴィッテンベルク大学大学院との間でおこなわれているダブルディグリープログラム(修士)で、政策・メディア研究科から派遣の形で運用されている交流を、今後は大学院生の「受け入れ」が可能となる体制へと移行させていくことが必要となる。その際は、制度も含めた環境構築をおこなうことになると考える。2013年度はハレ大学大学院から3名(博士課程在籍1名、修士課程在籍2名)をSFCに受け入れ予定である(SFC研究所所員)。今後の大学院レベルでの交換が実績として蓄積されることがまずは重要な課題である。

 また、2014年度より開始されるリーディング大学院「超成熟社会発展のサイエンス」との併願の可能性を明らかにできれば、本ダブルディグリープログラムの定着がより着実なものとなることを期待する。