2011年度学術交流支援資金研究報告(国際交流)

 

【課題名】スポーツサイエンスとコグニティブエルゴノミクス

【申請者】 政策・メディア研究科准教授 仰木裕嗣

【研究助成金額】700千円

 

【研究テーマ】

ワイヤレスセンサを使った運動計測・解析手法に関する日豪共同研究VI

 

【研究概要】

人間が運動時にセンサを持ち歩くようになると,その運動を計測する需要が高まると考えられることから,センサネットワークはより高速サンプリングの時代を迎えると考えられる.申請者の仰木は,加速度センサや角速度センサなどの慣性センサを用いた運動解析方法の開発を行ってきたが,これまでの一連の研究で利用してきた慣性センサデバイスは,全てデータロガー式(メモリ記録式で,事後データを取り出す)であったことから,我々のデータ取得はリアルタイム性に乏しかった. これに対してオーストラリア・グリフィス大学工学部のCenter for Wireless Monitoring and Application(CWMA)では,Bluetoothや他の無線を運動計測に活用する研究が進められており,同研究所の研究代表者でもあるDr. Daniel James氏は歩行やスポーツ運動の解析において無線活用の提案を早くから行ってきた.

2006年度の学術交流支援資金によってグリフィス大学との交流事業は双方の大学院生・研究者間の交流として結実し、2007年度はお互いの大学間でもちあう技術をさらに融合し、国際会議において慣性センサを用いたヒトの運動計測についてのワークショップを開催し、世界各国から参加した学会参加者に対して慣性センサの使用法、時系列データの分析法などを教えた。2008年度,および2009年度は、無線計測をヒトの運動計測に活用するため、さらに研究を推進するべく本研究助成に応募した。2008年度は、我々研究グループの活動が評価され、豪日交流基金(Australia Japan Foundation)によって研究交流事業に対する助成をうけることができたため、学術交流支援資金ならびに豪日交流基金の両方の支援をうけて研究交流を推進した。2009年度に引き続き,小型軽量、省電力と進化するマイクロプロセッサをスポーツに活用するために、技術交流を計画した.またグリフィス大学から派生し,オーストラリアにおいて,サンシャインコースト大学,サザンクロス大学といった他の大学研究者との交流が行われるようになり,テーマも取り組み方法も幅広い新たなメンバーが参画してきた.2010年度には,iPhoneをプラットフォームにしてスポーツ計測アプリケーションを開発する,グリフィス大学講師Dr. Roland氏による講演会をSFCで開催した.

 

 

【研究目的】

本研究は,スポーツ運動をはじめとする人間の運動解析において無線計測技術の応用事例と具体的データ解析手法を提案することを,日豪の共同研究によって進めるものである。2011年度は、慶應義塾大学,グリフィス大学,さらに,新たにサンシャインコースト大学の研究者間の交流によって無線慣性センサの応用研究を進める。

 

 

【研究成果】

(1)  招聘外国人による研究活動

(ア)Dr. Daniel James氏 2011114

 グリフィス大学工学部無線計測応用研究所上席研究員の,Dr. Daniel James氏を招待し,2011年度秋学期の学部授業「スポーツエンジニアリング」においてゲスト講演を企画した.Dr. James氏の専門分野は,無線工学である.彼は現在,グリフィス大学工学部無線工学応用研究所のなかで,研究リーダーとして特にスポーツ工学分野への無線計測の応用を先導的に進めている.本研究責任者の仰木も,同研究所のメンバーとしてDr. James氏の指導する大学院生の指導を務めている.

現在は,精力的に水泳,特に競泳競技における無線モニタリングの応用研究について進めており,慣性センサによる選手の動きの計測だけではなく,画像による水中移動体の自動計測など幅広く水泳に関する工学研究の応用を進めている.

 

(イ)  Dr. James Lee氏 20111129日〜20121128日までの1年間

グリフィス大学工学部無線計測応用研究所研究員の,Dr James Lee氏は,Dr. Daniel James氏と共に,2011114日に,「スポーツエンジニアリング」にも参加し,コメンテーターとして授業内で学生に研究紹介を行った.

 

氏は,さらにJSPSの海外特別研究員(ポスドク)として,20111129日に再来日し,20121128日までの1年間,仰木研究室において研究を進めている.氏の専門分野はスポーツバイオメカニクスであるが,グリフィス大学無線工学応用研究所のメンバーの一員として,無線慣性センサを用いた歩行解析を博士論文テーマとし学位を取得し,その延長として仰木研究室においては,義足選手のランニングにおける運動解析をテーマとしている.また,氏の研究経歴では,水泳における慣性センサの応用も豊富に持っていることから,現在仰木研究室で進めている水泳研究にも参加している.

 

Dr. Daniel James氏および,Dr. James Lee氏の両名は,20111031日から112日まで,京都大学において開催された,日本機械学会ジョイントシンポジウム,スポーツアンドヒューマンダイナミクスにおいて口頭発表を行って研究の最先端を紹介した.この学会会期中に,双方の大学で進めてきた研究についての討論を行った.

 

(2)  グリフィス大学おける研究ミーティング

研究責任者である仰木は,20111024日にグリフィス大学を訪問し,同大学キャンパスに隣接する,Queensland Academy of Sportsにおいて,水泳研究についてのワークショップに参加して,30分の講演を行った.またその後,同大学工学部無線計測応用研究所の研究メンバーとの討論を行った.

 

日時:20111024

場所:クィーンズランド・アカデミー・オブ・スポーツ

講演タイトル:「Acquatic technologies, advances and applications --All about Swimming Performance revealed by IMU--

 

     

 

 

 

(3)  サンシャインコースト大学における研究ミーティング

研究協力者であり,日本学術振興会特別研究員の金田晃一君は,水中運動における慣性センサの応用研究を進めるために,研究提携大学である,オーストラリア,クィーンズランド州のサンシャインコースト大学に20116月より,1年間の予定で留学中である.同大学学長である,Dr. B. Burkett教授は自らもパラリンピックで活躍するなど障害者スポーツ競技者でもあり、工学博士号をもつ異色の経歴をもつ研究者である。彼の研究テーマも仰木と共通で,センサを用いた水泳ストロークの分析であり、前項グリフィス大学/クィーンズランドアカデミーオブスポーツ等と共同で研究を進めている。

20111018日には,仰木が,サンシャインコースト大学を訪問し,Dr. Burkett教授と研究ミーティングを行った.翌1019日には,同大学にオープンする屋外競泳プールのセレモニーを控えており,同大学が保有する水中/水上映像モニタリングシステムの説明を受けた.

  

 

 

(4)  慶應義塾大学仰木研究室における取り組み

仰木研究室では,2011年度新たにボート競技における無線慣性センサの応用研究に取り組んだ.研究室学部4年生の谷知亮,上田佳奈子の両名によって,ボート競技中に艇に作用する流体力の推定が,慣性センサのみから実現可能である事を明らかにした.研究成果はきわめて新規性が高く,オールに働く力を計測する事無しに,推力を推定する試みは,これまで世界的に見ても事例がなく,独創性の高い研究成果が得られたと言える.ボート競技に関する研究推進にあたっては,留学中である,Dr. James Lee氏がかつてクィーンズランド州代表のボート選手を育成していた経験によって,多大な援助と示唆を得る事ができた.