2011年度 学術交流支援資金報告書

(海外の大学等との共同学術活動支援)

研究課題名:言語教育デザインプロジェクト

「海外主要都市における日本語母語話者・学習者の言語行動」

 

 

代表者:平高 史也(政策・メディア研究科教授)

分担者:古谷 知之(政策・メディア研究科准教授)

木村 護郎クリストフ(上智大学外国語学部准教授)

王 雪萍(東京大学教養学部講師)

島田 徳子(国際交流基金日本語国際センター専任講師)

福田 牧子(バルセロナ自治大学翻訳通訳学部講師)

 

 

1) 研究の背景と目的

 

グローバル化の進展にともない、人口の移動が活発化し、世界各地で多言語化が進んでいる。一方、国際企業における英語の社内公用語化に見られるように、ビジネスの世界では英語の重要性が増している。このような世界の潮流には日本人も日本語も巻き込まれており、海外では少なくとも日本語、英語、現地語の3つに囲まれて生活することになる。海外の日本人は実際にはどのようなコミュニケーションをとっているのだろうか。国や地域、職種や滞在期間によって言語との関わり方はどのように異なるのだろうか。

本研究ではこうした疑問に導かれ、海外在住の日本語母語話者の言語コミュニケーションの実態を明らかにしようとする。当初は日本語学習者のそれも含めようと考えていたが、まずは日本語母語話者の言語コミュニケーションにしぼって研究を進めることにした。

具体的な課題は、現地語が日本の外国語教育の主たる対象言語となっており、なおかつ在外邦人が比較的多い海外の主要都市を選び、日本語母語話者や学習者が日本語、現地語、リンガ・フランカとしての英語を使ってどのような言語行動をとっているかを明らかにすることにある。

 

2)実施状況

 

今年度は、本研究の概念的枠組みの構築、言語管理研究者との意見交換、本調査用の質問紙の作成、パイロット調査としての海外日本人ネットワークの調査をソウル、上海、ベルリン、デュッセルドルフ、マドリッドで実施することができた。

また、海外で生活する日本語母語話者の場合、異言語間の翻訳・通訳の機会が多いことが予測される。本資金では、特にこの異言語間の通訳・翻訳の役割に着目し、Council of Europeが発行しているProfile Deutsch(「ドイツ語プロファイル」)の「仲介」のカテゴリーを取り上げ、日本語に訳出した。海外の日本語母語話者は複数の言語を操って生活しているケースが多いため、翻訳・通訳という形で仲介する場面が多い。したがって、その際に能力記述の基準となる指標のようなものが必要である。同じCouncil of Europeが発行しているCommon European Framework of Reference (CEFR) では「受容」「産出」「やりとり」「仲介」という4つの言語活動のカテゴリーを提示しているにもかかわらず、能力記述文があるのは「受容」「産出」「やりとり」の3つだけなので、ドイツ語プロファイルの「仲介」は、今後日本語母語話者のコミュニケーション場面を把握するうえで重要な参考資料になる。

さらに、次の講演会を開催した。

2011106日 ネクヴァピル氏講演会「ヨーロッパの企業における多言語使用」

20111029日 福田牧子講演会「カタルーニャ在住日本人の社会言語的実態」

2012127日 木村護郎クリストフ講演会「言語政策としての言語行動言語選択研究の展望と課題」

 

3)今後の課題

今年度作成した質問紙に対する回答を各都市で回収してデータを収集する作業が次なる課題である。そして、その分析を通して、海外の日本語母語話者の言語行動の実態を多角的にとらえるだけではなく、海外でのコミュニケーションにおける日本語、英語、現地語の役割について考察する。それは、日本の外国語教育海外における日本語普及政策に関して、新たな意義や具体的な示唆(実生活での日本語使用、他言語との併用、カリキュラム、教材の見直し等)を与えることになるだろう。