2011年度 学術交流支援資金 研究報告書


研究課題名:サイバーサウンド・プロジェクト

研究課題 大規模公共空間のサウンド・デザインの研究

研究代表者氏名 岩竹 徹


今年度は、サイバーサウンド・プロジェクトのメンバーを中心に、日本を代表する大規模公共空間に於いて、インタラクティヴな音響デザインの設置を行う事が目標として設定された。そのため昨年度には、音響デザイン作品の設置空間の管理を行う相手側企業の担当部門スタッフの方々と4回にわたり会合を重ね、基本コンセプトの策定を行い合意に至った。その後2011年3月11日の大震災で、当該空間が相当程度被災したため当プロジェクトは一時中断されたが、2012年の5月25日にはSFCに相手側企業の担当者6名をお招きし、SFC研究所の契約事務担当者も同席して、サイバーサウンド・プロジェクトのメンバーと共に会議を行い、6月から音響デザイン活動を再開する事が確認された。その後、8月2日には別途オーディオ会社からの音響製品担当者と共に設置空間の視察、および設置企業側の担当者の方々へのデザインプロトタイプの提示を行い、高い評価を得る事ができた。そのままSFC研究所との間で正式な制作契約プロセスへと至り、作品の制作を開始できると思われたが、契約の最後の詰めを行う段階で問題が発生した。契約を結ぶためには、相手企業側は設置作品に関する細部まで決定された仕様書が必要であり、対話的で発見的な制作プロセスの中で新たな創造を行う事にフィールドワークの価値があると考える我々のアプローチとは相容れない様子が伺えた。また相手側企業には我々にはアクセスできない情報がある様でもあり、数度に渡り相手側企業の担当者へ契約を結んで頂ける様に私から働きかけたものの、今日に至るまで契約を結ぶには至っていない。当該の大規模公共空間では、セキュリティ管理の必要がある事は明白で、そのため厳重な警備が行われている事等も、情報を共有して頂けない理由の一つではなかったかと推測される。

最終的な制作方法とコンテンツ制作に関する意思決定を行う段階で相手側企業と情報を共有し、より良い解決プランへと至る事ができなかった事は誠に残念であり、公共的な空間を管理する企業とのコラボラーションの難しさを実感する結果となった。

しかしながら、大規模公共空間のインタラクティヴな音響デザインは、将来的には対話的な空間アクセスのデザインと言う視点からも重要な分野と予測されるので、今回の挫折を将来の成功へ向けての教訓とし、これに怯む事無く今後の活動へと是非とも繋げて行きたい。

今年度は、大規模公共空間の音響デザインのインスタレーションまでには至らなかったものの、プロトタイプとして制作された3作品は六本木でのORF、情報処理学会のSIGである音情研インターカレッジその他で展示され、一部のメディアから注目された。その一例として、修士2年生の土居真也君の作品は、ITmediaの「ねとらぼ」で紹介され、「三田評論」2012年1月号では巻頭の写真集で紹介された。