2011年度学術交流支援資金「国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援」採択研究

研究課題名:「環境デザインの手法開発とその支援システム」

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a.本年度完成した第三教室棟の外観

 

研究代表者:松原弘典(総合政策学部准教授)

共同研究者:長谷部葉子(環境情報学部准教授)

ベデロ・サイモン(環境情報学部非常勤講師)

エミリエン・アコンガ(ゴンベ教員大学学部長)

ンガエラ・ツスアカ(キンシャサ建築大学ディレクター)

岩崎美紀子(Iwasaki Language Program Development代表)

 

●研究課題

本研究の課題は、代表者らが2008年より建設・運営に深く関与してきたコンゴ民主共和国キンシャサ市郊外に立地する「アカデックス小学校」などを拠点とし、現地の2つの大学(コンゴ教員大学とキンシャサ建築大学)と慶應義塾大学SFCの学生が、小学生児童や地域周辺住民を巻き込んだ交流実践をすることである。代表者らは2010年夏にコンゴ政府高等教育省と学術交流に関する覚書を締結し現地の大学上層部との関係を構築した。本研究活動ではこの関係を活用し、自ら建設したコンゴの小学校を会場にして日コの大学生が一緒になって言語学習や建設工事の公開ワークショップを展開し、かつ現地のコンゴ教員大学に日本語コースを設置し軌道にのせようとするものである。

 

●研究の経緯

コンゴにおける本研究プロジェクトは2008年度からすでに3年にわたっており、総合政策学部の松原弘典と環境情報学部の長谷部葉子が交替で研究代表者となり、毎年本研究資金を受給している。08年度は「コンゴ民主共和国における小学校の計画立案・設計・開校・運営プロジェクト(代表者:長谷部)」というテーマで、09年度にはそれに「現地との協働モデルの確立(代表者:松原)」、10年度には「現地との協働モデルの運用と定着・普及(代表者:長谷部)」というサブテーマを加えて継続・徐々に拡大をしてきた。2010年夏にはこうした努力が実り、研究代表者らはコンゴ政府高等教育省と学術交流に関する覚書を締結できた。2011年度の本プロジェクトは「コンゴ民主共和国における小学校を拠点とした大学交流プロジェクト」と新しい目標を掲げ、「環境デザインの手法開発とその支援システム(代表者:松原)」という名前の下で資金援助を本資金に申し込んだ。向こう3年をかけて、現地大学との交流を深めながらアカデックス小学校の建設を進める1年目として考えている。今までの3年がたち上げ期だとすると、11年度の今年から本プロジェクトは中盤期に入り、特に本年度はコンゴ政府高等教育省との学術交流協定を活用しつつ、「現地大学と共に学ぶための拠点整備と交流の実践」という年次目標を掲げて作業をすすめた。いわばコンゴ政府に公式的に後援を受けた形で、コンゴの現地で日コの大学生が一緒になった言語学習や建設工事ワークショップを展開し、コンゴ教員大学内の日本語コースを軌道に乗せてゆくための実践を行った。

なお、今年度は本資金のほか、住友財団、慶應義塾未来先導基金からもそれぞれ研究資金をいただく機会に恵まれ、これらの資金を用いてさまざまな試みを限定滞在中に行っている。

 

●研究の目的

本研究の今年度の目的は、日本とコンゴの大学生が、コンゴで自らが作った小学校を主たる会場とし、子供や地域住民などを巻き込みながら教育的なワークショップを開催し交流をすることで、双方が学びかつ地域の活性化に貢献することである。これはより具体的には2つの目的に分けることができる。1つ目は我々が2008年から建設・運営を継続してきている「アカデックス小学校」を拠点に、建設と言語教育と建設のワークショップを開催することである。SFCの教員と学生の主要メンバーは2011821日−94日に現地に滞在し、それに前後して教員大学の日本語を学ぶコンゴ人学生も参加して合宿を実施した。空き教室に両国の学生が寝泊まりして交流しながら、小学生や地元住民に日本語や交流授業を行い、第三教室棟を建設した。2つ目の目的は、20114月より本研究組織によりゴンベ教員大学内に日本語コースが開設されているが、このコースを軌道に乗せて両国間の大学生どうしの交流をさらに活性化することである。長谷部教員と一部の学生は2011920日までさらに長く現地に滞在し、9月の現地大学の新学期まで現地にとどまり日本語コースの学生選抜に助言を行い、学期を通して現地に残って教育にあたる日本人への指導を行った。

 

2011年度の本研究費による研究成果

1. 小学校校舎建設:

今年度は第三教室棟の設計と建設を行った。松原研究室からは教員松原弘典のほか、金子絵美と武藤奈穂(政メ2年)、安藤数保と立元遥子と水嶋輝元(政メ1年)、本田真侑子(総合3年)、鈴木葉月と梶原慧太(環境3年)の学生8名が渡航し、現地のヴォランティア協力者とともにHPシェル形状の第三教室棟の屋根をほぼ完成させた。また構造家の鈴木啓氏に渡航いただいて専門的なアドヴァイスを受けた。地元建築大学との交流は実現しなかったが、建築専門以外の現地大学生の建設、合宿への参加があった。帰国後は本研究を紹介するための展覧会での展示準備やメディアでの発表の為の資料整備をSFCの学生が行った。本プロジェクトについて対外的にメディアで発表されたものについては末尾に示している。

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b.完成させた第三教室棟外観 c.渡航前にSFC内で作った11の屋根模型モックアップ d.全体のサイトプラン、中庭型、右上に見えるのが第三教室棟 

 

2. 環境技術測定:

別資金によって日本で購入した太陽光パネルを現地に持参し、第一教室棟(2009年夏竣工)の屋根に取りつけた。30Wの太陽光パネル6枚とチャージコントローラ、インバータ、データロガー、延長ケーブルなど計30万円程度の機材を専門家の助言を参考に選定し、日本のメーカから購入していった。そのほかにバッテリーが必要であったが、液体バッテリーは危険物として航空機での運搬が禁止されているため、現地調達することとなった。太陽光発電に関して専門知識の乏しい我々は、太陽光発電機器の設置を行う企業の協力の元、これらの機材一式の接続実験を数回に渡り大学のキャンパス内で行った。この実験では接続手順の確認と、日本における発電量の計測やバッテリーの使用可能時間などの記録をとってコンゴでの状況と比較できるようにした。この際に手順を間違えたり取り扱いに不安を感じることがあったため、自分たちのためそして現地コンゴで利用する人のために英文の接続マニュアルと取り扱い説明書を作成して持参した。屋根に固定するための専用の接続金具や土台が無かったため、教室棟の施工に用いたベニヤや木材を使って配電板や6枚の太陽光パネルを固定するフレームを制作した。設置の際にはコンゴ人の手で継続的に活用してもらえるよう、作成してきたマニュアルに従って、何をすると故障するのか、どこを触ると危険なのかということを説明しながら行った。このシステムでは曇天でも日中に発電できる。またバッテリーがフルの状態であれば、夜間にラップトップコンピュータ3台を充電しても、まだ電力に余裕のある状態が確認できた。今後はこの発電システムを利用して、パソコンやテレビを用いた質の高い授業に取り組みたいとのことだった。

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e.SFCでの太陽光パネル設置実験 f.設置風景 g.第一教室棟屋根に載せられた太陽光パネル h.教室内の設置状況 

 

3. 教育プログラム実践:

長谷部研究室が中心になって、ゴンベ教員大学とのアカデックスでの大学生交流プログラム、大学での日本語クラスの運営活性化が実践された。

長谷部研究室からは教員長谷部葉子のほか、清田晴香と代田ゆかり(政メ1年)、森裕紀(総合3年)、吉田絹と大川晴(環境3年)、徳山裕子(環境2年)ら6名の学生が渡航した。また卒業生の高村伸吾と訪問研究員の高木勇歩は現地に長期滞在しており、この実践を現地で長くフォローしている。

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i.アカデックスでの日コ大学生の交流ワークショップ j.こどもへのおえかきワークショップ k.浴衣を持参し、コンゴの大学生に日本の文化を紹介した

 

4. 国際協力の現場の調査

現地滞在期間中には、日本が国を挙げてコンゴで建設支援や資金協力を行っている現場を訪れて見学した。内戦後のコンゴの国土再建にあたってカビラ現大統領は、「インフラ」、「雇用」、「教育」、「水・電気」、「保健」を開発優先5分野として掲げており、この「水」を担う「ンガリエマ浄水場施設」の建設が日本政府の援助によって行われている。現地での施工には、大日本土木株式会社を含む日本企業3社によるコンソーシアムと現地の下請け企業が当たっており、私たちがコンゴ川流域の建設現場を見学に訪れた時には、掘削工事の真っ最中であった。現場の案内をしてくださった中村勝彦氏のお話では、竣工予定は2013年で、完成後は国土の20パーセント程のエリアに飲み水を供給することが可能になるという。コンゴの将来を左右する役割を日本が担っていることを改めて気付かされると共に、現地で働く施工担当者の方々の強い使命感に感銘を受けた。

 

 また、日本政府の資金協力を受けて現地の団体が建設した2つの学校を見学した。両校とも「資金難で困っていたところに日本に援助を頂き、大変感謝している」と温かく迎えてくれた。そのうちの一校、「ムバンギ校」がある村は、2004年に日本から255万円の資金協力を受けるまで学校が無かった。移住してきた社会科の教員が立ち上げたNGO団体によって、青空教室で授業が行われていたという。今では生徒数も1000人を超え、大学に進学する学生もいるそうだ。しかし残念なことに、もう一つの「アニュアリット校」では、2007年に394万円の資金協力を受けたが、予定の工期が過ぎた現在もいまだ未完成であった。日本大使館の北澤寛治大使、藤田和彦参事官にお話を伺ってみると、この形の資金協力では、初めに一括して建設費用を渡すシステムになっている為、その後資金が実際どのように使われたのか追跡調査を行う必要があるという。信頼関係があってはじめて国際協力が成り立つことを感じた一件であった。

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l.ンガリエマ浄水場施設での見学風景 m.ムバンギ校のようす n.アニュアリット校での「日本からのおくりもの」と書かれた机

 

5. その他の作業

現地日本大使館が我々の活動に大変関心を示してくださり、北澤寛治大使公邸において大使館主催のレセプションを主催していただき、現地で本活動が国際的に広報された。また昨年度の高等教育省訪問に続いて、今年は初等教育省(Min. of Primary & Secondary Education)を訪問し、Maker MWANGU Famba大臣と面会する機会も得た。ここではコンゴがこれから3万校以上の学校校舎を整備しないといけないという事実を聞かされ、その校舎の標準設計の案を見せていただいたりした。

また、本活動の動画記録を、例年通り外部の映像作家に製作依頼しており、米国在住の映画監督中村友也氏による動画がユーチューブなどで公開されている。

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o.大使公邸でのレセプションのようす p.初等教育省大臣との面会のようす

 

62011年度は松原が実質主査として修士論文指導をした学生4名のうち、2名が本プロジェクトに関して修士論文を執筆し、修了している。論文書誌は以下。

金子絵美 「コンゴ民主共和国における建築の現地仕様の適正化−首都キンシャサ近郊の学校を対象として−」

武藤奈穂 「理想像としての居住環境−日本とコンゴ民主共和国の子どもの描画分析から−」

 

7. なお、主なメディアでの本件に関する報道、受賞などは以下の通り(本年度分のみ)

・塾外

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・松原共著『311とグローカルデザイン 世界建築家意義からのメッセージ』(日本建築科協会・デザイン部会編著、鹿島出版会発行、20123月)での本プロジェクトの紹介

JIAゴールデンキューブ賞(JIA社団法人日本建築家協会主催)優秀学校部門受賞

http://goldencubejapan.com/result.html

・ジャパンデザインネットでの報道(2009年度、10年度に次いで3回目)

http://school.japandesign.ne.jp/project/congo2011/

・公益財団法人住友財団2010年度環境研究助成 「アフリカでのインフラフリー建築建設の研究〜コンゴ民主共和国での小学校を対象に〜」

   http://www.sumitomo.or.jp/html/kankyo/kantaisyo2010.htm

 

・塾内

・慶應義塾未来先導基金2011年度公募プログラム 「アフリカで学校をつくるーコンゴ民主共和国キンシャサでの実践」

http://www.dff.keio.ac.jp/activity/programs/2011/index.html

・大学研究室でのプレス資料

http://matsubara-labo.sfc.keio.ac.jp/caps05.pdf

 

以上(文責:松原弘典、2012228日)