2011年度 外国語電子教材作成支援 報告書
プロジェクトNO. 研究課題名 代表者 所属
3-1 スペイン語ベーシック1〜3・インテンシブ1〜3・スキル 山本 純一 環境情報学部
1 研究目的と課題
スペイン語の習得には、動詞の活用の習得が第一課題である。日本語のように、膠着言語で、形態素が加算される言語では、
例1 「シンデレラは、掃除する」
という、短文が、
例2 「シンデレラは、掃除 + させ + られ + 続け + てしまっ + てい + まし + た」
という一文でわかるように、動詞の語幹に、形態素が、どんどん加算される。こういう言語を膠着言語と呼ぶ。
一方、スペイン語は、屈折言語であり、動詞の形態素が、語末で多様に活用することで知られている。
たとえば、動詞 ”hablar” 話す、という動詞は、“habl + ar ” というように、前半の語幹の変化しない部分、意味の中核の部分と、後半の “ar” という活用語尾にわかれる。
そして、その活用語尾は、
(1) 主語を表す人称(6形態素)
(2) 時間を表す時制(過去、現在、未来、完了、可能など(10形態素)
(3) 話し手の意思を表すモード(6形態素)
(4) 命令(肯定命令・否定命令の12形態素)
というように、それぞれ、活用語尾がわかれていて、ざっと計算しても、34の活用語尾を覚えなければ、話すことはもとより、理解もできない。
以上のように、日本語話者の学生にとって、スペイン語の動詞の活用を覚えるというのが、ベーシック1からスキルにわたるまで、ずっと課題として目の前に大きく立ちはだかっている。これができずに、履修をやめる学生も少なくない。
そこで、スペイン語学習だから仕方がないと、あきらめるのではなく、動詞の活用を、体系的に、文字ではなく音声のインプットで、音楽のように繰り返し聴きながら覚えることができたら、学習者の負担が少し軽くなるのではないかと考え、基礎動詞を選び、全ての時制を網羅して、音声で学習できる動詞活用の学習教材を開発するのが、今期の課題であった。
また、もう一つの課題は、スペイン語で文法用語が瞬時にわかることである。
インテンシブ2は、海外研修で、現在はスペイン、サラマンカ大学のコースに参加しているが、参加した学生から、文法用語をスペイン語で言われても、なかなか、何を示しているのかわからない、という指摘を受けてきていた。そこで対応として、日常の授業でスペイン語でも文法用語を示して来たが、実際のところ、ネイテイブの教員は、スペイン人だけでなく、メキシコ、ペルー、ベネズエラと多様で、用語が一致していなかった。そこで、今回は、スペイン語の文法用語の全員の確認という課題もあった。
2 教材の構成
2−1 学習レベル別の提示
ベーシック1からインテンシブ1までの2年間で、文法的にはほぼ全ての動詞活用形を学習する。唯一、完了形は、授業では一部が提示されず、上級のインテンシブ3からスキルで、取り扱われる。すべての時制を学習できるように、上記の二段階に分けて、レベル別で、選択できるように構成した。
2−2 カテゴリー別の提示
ベーシック1で扱われる動詞は、限られてはいるが、インテンシブ1まで、ベーシック1で扱われた動詞が、活用形が多様化されながら扱われ続けていく。そこで、学習者にとって、二つの学習アプローチを想定した。
ひとつは、基礎動詞を限られた活用形で、繰り返し勉強することが可能なように、動詞単位で選択できるようにすること。
もう一つは、活用形が増えるごとに、活用形をもとに、動詞を選択し、学習したい活用形を多様な動詞で練習できる、つまり、活用形単位で選択できるようにすること。
2−3 ランダム学習
インテンシブ3以上であれば、いかなる動詞でも、活用形でも、すぐに言えるようにしたい。そこで、ランダムにチョイスして、学習できるような仕様にすること。
以上、ベーシック1からスキルまで、レベルごとに、動詞の活用形を選べる仕様を目指した。
3 研究成果
3−1 動詞の選択
ベーシック1からインテンシブ1までの間に、現コースでは、学期末ごとに動詞の活用課題とテストを実施している。その動詞を整理し、基礎動詞を選択した。
3−2 活用を示す文法用語の整理
各動詞に、活用形を示す文法用語を整理した。実は、スペイン語教育の場面では、国別に、活用形や文法用語に、ばらつきがあることが問題点として知られている。簡単にいえば、スペインのスペイン語と、メキシコのスペイン語は、文法まで異なっている。当然のこと、活用を示す文法用語も異なる。
そこで、SFCの使用教材がスペインのスペイン語であることを考慮し、レアルアカデミア(国語審議会に相当)の決める文法用語に統一して、原稿を作成した。
3−3 動詞の音声の録音
スペイン人のネイテイブに、すぺての活用形を音声ファイルに分けて録音してもらった。
3−4 e-ラーニングシステムへの音声素材の配置
現在、スペイン語履修者全員が用いているe-ラーニングシステム上で動詞活用教材を使えるように、録音された音声ファイルを同システム上に配置した。
4 特徴
4−1 共通教材としての利用
本研究で作成した教材は「メタコース」としてシステムに登録されており、ベーシック1からインテンシブまで、どのクラスに登録している履修者でも共通に利用できる教材となっている。このことにより、教材の更新や修正がある場合には、教材のマスターを変更することで全履修者の教材が更新されることになり、教材作成者にとっても大きな利点となる。また、履修者の利用状況等を管理者がシステム上で把握可能である。
4−2 音声ファイルの種類
本研究で作成した教材で用いる音声素材は目的に応じて「(A)素材そのもの(=1単語の1活用形の音声)」、「(B)1単語の全活用形を繋げた音声」、「(C)1つの活用形の49単語を繋げた音声」の3種類を用意した。
利用者は、e-ラーニングシステム上で教材にログインと図1のように「活用形ごとの音声聞き取り」と「動詞ごとの音声聞き取り」から利用方法を選択できる。
ここで「活用形ごとの音声聞き取り」を選択すると、図2のように選択した活用形で、教材に登録されている49の単語が繋がった音声(C)が再生可能になる。また、このファイルは自学自習用にダウンロードすることも可能である。
また、「動詞ごとの音声聞き取り」を選択すると、図3のように選択した動詞で、第1段階の活用形をすべて繋げた音声ファイル(B)が再生可能にある。このファイルと、1活用形ごとの音声ファイル(A)は、いずれもこのページからダウンロード可能である。
図1 教材ログイン時の画面 図2 不定詞 inifinivo を選択した例
図3 動詞 abrir を選択した例