学術交流支援資金 外国語電子教材作成支援(2011年度)報告書
科目名:フィールドワーク法(An Introduction to Field Research Method)
研究代表者:加藤文俊(環境情報学部)
はじめに
本研究は、定性的な社会調査の方法であるフィールドワークについて、実習教材のデザイン・外国語化を行い、カード型の教材として公開するものである。まず、過去数年間にわたり開講中の「フィールドワーク法」における実習課題を英文化し、ウェブ教材として整備する。さらに、調査者がまちや地域コミュニティと関わる際のアプローチ方法について、事例紹介を行う。近年、調査者は、たんなる〈観察者〉に留まらず、能動的に現場(フィールドワーク)に働きかける〈関与者〉としての役割を意識することが求められており、とりわけ「実学」を志向するSFCにおいては、実習プログラムと事例の体系化、そして(日本語のみならず)外国語による公開が必要だと認識している。
背景・目的
近年、「フィールドワーク」ということばが一般的に使われるようになったが、「フィールドワーク」においては、地道に観察・記録を行うこと、時間をかけてデータの整理や解釈を試みることが重要である。つまり、知識を生成するための技法としてのトレーニングには、(それなりの)時間とエネルギーが必要だと言える。また、メディア(たとえばカメラ付きケータイ)を活用したあたらしい調査方法について考える、実験するマインドも要求される。
「フィールドワーク」は、社会や文化を知るためのひとつの手段である。したがって、「技法」としての実践的な意味が重要であることはいうまでもないが、調査者自らが「問題」を定義するという「ものの見方」や、調査・分析の結果を解釈し表現するという「コミュニケーション」の問題とも密接に関わっている。申請者は、これまで学部生対象科目として「フィールドワーク法」(創造技法科目 - ナレッジスキル)を開講してきたが、同講義は、相互に関連する3つのテーマについて取り組めるように設計されている。
(1) フィールドワークを行う:
入門的な性格や時間的な制約を考慮し、あらかじめ「フィールド(現場)」やテーマを緩やかに指定します。各自(またはグループ)で計画を立て、学期をつうじてフィールド調査やインタビューをすすめ、調査レポートをまとめる。キャンパスの外に出て、まちを歩いたり、写真やビデオを撮ったり、人に話を聞いたり、まずは調査者が自分の目で見ること・自分の身体で感じることが重要視される。
(2) 観察・記録のあり方について考える:
また、さまざまなメディア機器の活用と観察・記録・分析方法との関連について考える。それは、調査者が自ら見たこと・感じたことをどのように「調査報告」として整理し表現するかという問題である。「フィールドワーク法」とよばれる一連の方法が、デジタルメディアを前提としたとき、どのように変わりうるのかについて考えることも重要なテーマとなる。とくに、「フィールドノート」のための〈装備(gear)〉として、調査者である自分を意識するための方法として、カメラ付きのケータイをつかった実習課題を行う。あたらしい「フィールドワーク法」のあり方について実験を試みながら、やわらかい発想や創造力・想像力を育む。
(3) 社会活動としての社会調査をデザインする:
ただ調査をおこなうばかりでなく、何らかのかたちでメッセージを発信できるような、ひとつの「社会活動」としての調査のあり方についても考える。「社会活動」として調査(フィールドワーク)を理解するとき、どのような課題(可能性や限界)があるのか。こうした問題について実践的に検討する。
教材の概要
上述のとおり、「フィールドワーク」は調査の技法であり、コミュニケーション実践である。人びとのリアリティに向き合い、それに対してどう応えるかという、調査者の自覚とふるまい自体を育む上でも重要な領域だと言えるだろう。こうした「実学」的な側面に着目するとき、われわれは〈観察者〉から〈関与者〉へと視座を変え、あたらしい方法や態度を身につけなければならない。本研究(電子教材作成)においては、つぶさな観察と厳密な記録、さらには人びととの関わりをもふくめた形で、実践のデザインを支援することを目指した。
これまで、申請者は「フィールドワーク法」を担当し(2011年度は春学期に開講)、フィールド調査に必要な基本動作を学ぶための実習課題を整えてきた。また、メディアの活用、成果の公開方法等をふまえてフィールド調査の事例の整理もすすめている。本研究をつうじて、一連の課題及び事例を外国語化し、ウェブやカード型教材として公開する計画である。
今回の学術交流支援資金によって外国語教材として、フィールドワークの本質を理解し、定性的調査に必要な態度を育むための簡単な実習課題(エクササイズ)を整理し、英文化した。この教材は、ポストカードのサイズ(100×148mm)でデザインされた10枚のカードで構成されている。近年の多機能化したケータイやスマートフォンの利用を前提に、フィールドワークに必要な、基本的な振る舞いについて体験的に学ぶための教材である。カード自体は、紙媒体であるが、フィールドに携行し、その場でケータイ等によってデータ収集をおこない、必要に応じて送信するスタイルを想定しており、リアルなフィールドとネットワーク環境を結びながら学ぶスタイルを提案するものである。10の実習課題のタイトルは以下のとおり。
1 自分で近づく(Get closer)
2 くり返す(Visit more than once)
3 集める(Create a collection)
4 まわりを見る(Look around)
5 多面的に見る(Observe from various angles)
6 時間を読みとる(Search for footprints)
7 規則性をさがす(Search for regularities)
8 同時に撮る(Collaborate with your friends)
9 影を見る(Think about shapes and shades)
10 吹き出しをつける(Let it speak)
サンプルとして、一部の画像を掲載しているが、概要等をふくめ詳細は下記サイトにて公開している。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~fk/post/
まとめ
外国語による電子教材化をすすめることにより、現場志向の調査研究のための学習支援に貢献しうる。近年、調査者はたんなる〈観察者〉に留まらず、能動的に現場(フィールドワーク)に働きかける〈関与者〉としての役割を意識することが求められており、とりわけ「実学」を志向するSFCにおいては、実習プログラムと事例の体系化、そして(日本語のみならず)外国語による公開が必要である。今後は「フィールドワーク法」をはじめ、他のワークショップ等の機会に本教材を配布し、実践的な文脈において活用していきたい。