2012年度学術交流資金 研究成果報告書

研究課題名:プレイス&モバイルメディア
研究代表者:小川 克彦

研究の目的

 本研究は、地域活性化に繋がるための情報環境のロジスティックスに関するものである。近年、ソーシャルメディアやモバイル環境の発展により情報の流通経路が大変化を起こしており、まちおこし、観光など地域活性化に関わるさまざまな分野への応用が論じされている。一方で、さまざまな要因により地域へのICTの試みは成功しているとは言い難い。そこで、本研究では情報ロジスティックスを理論的に整備した上で、それに応じた情報メディアの開発、実際の場所での運用を行った。 本研究は、理論・仮説設定は天笠が、観光学分野では金澤が、まちづくり分野では田島が主に担当した。

研究成果一覧

研究成果概要

 天笠は、地域における情報流通の基礎モデルを確立するための研究を行なってきた。地域における第三の場所及び人が集まり、コミュニケーションを行う場所に対してフィールドワークの実施し、そこに集う人々のメディアの利用状況及び、そこで形成される情報流通のための人的ネットワークについて観察とヒアリングを行った。これらの調査活動は藤沢市湘南台にある、「子育て支援センター」にて実施された。調査活動の結果、地域における情報流通は、地域コミュニティの中ではなく、「地域コミュニティ/ネットワーク」の中で、より円滑に行わていることが明らかとなった。物理的に距離の近い範囲での人間関係では、人間関係そのものを円滑に行う行為が優先される傾向にあり、一定の地域の資産を共有しつつも、対面する機会の少ない人々との人間関係のほうが、実利的に情報を交換しやすい為である。今後は、地域コミュニティの他に、地域資産を共有する新しいネットワークの形を築く必要があると考えられる。

 金澤は、既存の観光メディアでは、ユーザーに適した情報を即座に提供できないという問題点をもとに、2つの観光メディアの作成を行った。1つ目に、旅行動機より観光情報を検索するシステム「Trimpa」の構築及び評価を実施した。本システムは、旅行地の写真に印象を表すタグを付与し、旅行地を連想検索するものである。タグとして適切な言葉はグループインタビューから抽出し、タグと写真の関係性はウェブ調査から求めた。「Trimpa」が検索行動に与える影響を既存の観光情報検索システムとの比較から評価した結果、クエリの抽象性は検索結果に自由な解釈を持たせることから、旅行地の検索欲求言語化する際に、システムが有効であるとの結果が観察された。2つ目に、ユーザーの気分に沿った観光地を紹介する観光マップ「Mapletter」を制作した。「Mapletter」では、パターンランゲージの手法を応用し、静岡県伊東市の商店街をフィールドとして、制作した。フィールドワーク中に撮影した写真を、KJ法により、その場所での気分をもとに写真の分類を行った。今後は、「Mapletter」を実際に使用してもらうことで評価を行いたい。今後は、作成した観光マップと観光情報検索システムにより、観光資源の横断的な検索手法を構築する必要があると考えられる。

 田島は、情報ロジスティクスのうち、地域活性・まちづくりについて、アートプロジェクトについての研究を行った。具体的には、茨城県ひたちなか市那珂湊地区のアートプロジェクト「みなとメディアミュージアム」における情報流通を調査した。その結果、アートプロジェクトにおける情報流通が、一元的・管理的に行われることは難しく、むしろソーシャルメディア的に同時多発的に行われることを明らかにした。さらに、関係者を対象とした質問紙調査を行い、ソーシャルメディアの特性のうち「安心」「気楽」「偶然」が、アートプロジェクト上にも見られることを確認した。この研究を踏まえて、翌年度以降では、アートプロジェクト特有の情報流通傾向を活かした地域政策の具体提案やメディア制作を行っていきたい。

今後の課題

今年度の研究では、天笠、金澤、田島がそれぞれ担当した分野において、調査や評価が行われ、上記のような結果が観察されている。次年度はそれらをもとに、地域へのICTの試みの実践をし、観光や地域活性化における情報流通傾向を踏まえた、新しいメディアの制作及び、ネットワークの形を模索していきたいと考える。