2012年度学術交流支援資金 報告書  2013.2.28.

 

研究タイトル 「医療福祉政策・経営」

研究代表者 印南一路(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

研究組織  渡邉大輔(成蹊大学)・古城隆雄(自治医科大学)・阿江竜介(公立浜坂病院)・原田昌範(山口県立総合医療センター)・小佐見光樹(公立浜坂病院)

 

1.研究課題

本研究は、医療機関への定期的な受診が必要と思われる患者を対象に、社会的・経済的要因が受診上の障壁になっているのかについて、カルテ調査とアンケート調査を通じて明らかにすることにある。医療機関への定期的な受診は、本人はもちろんのこと、時には、周囲の者にとっても重要なことである。受診行動については、本人の疾患や年齢、社会経済的地位(職業、所得、学歴など)、医療機関や疾患に対する知識など、様々な要因が影響していると考えられているが、そのメカニズムは明らかになっていない。そこで、本研究は医学的に定期的な受診の必要性が高い疾患について的を絞り、かつ、その受診遅滞理由について社会経済的な側面も踏まえ、総合的に考察を行うことで、受診行動のメカニズムを明らかにする。

 

2.本年度の報告

本年度は、主に以下の2点を中心に行った。

第一に調査票の開発を中心とした調査準備作業であり、69月までの間に集中的に行った。具体的には、まず調査対象の選定を行い、「医療機関への定期的な受診が必要と思われる患者」として対象とする疾患を設定した。次に、医療機関への定期的な受診が必要と思われる患者を対象とした自記式質問紙調査票の開発(最終的にA4×4ページ、)を行った。この調査票の開発において、以下の図1の因果モデルを想定し、必要項目を調査票に盛り込んだ。また、カルテからどのような情報を抽出するかについても設定した。最終的に表1のような形で調査の設計を行っている。そのうえで、調査の実施に向けて8月末に自治医科大学において倫理審査となる疫学研究許可申請書を提出し、修正指示への対応を行ったうえで、10月に許諾を得た(疫12−30号「定期受診者の受診行動に関する分析」)。

第二に、実査を行った。承諾後、10月下旬に調査の印刷等を行い、浜坂病院では11月〜1月に、岩国市立錦中央病院、岩国市立本郷診療所では1月に対象患者の受診時に質問紙の配布、回収を行った。また、並行して1月に浜坂病院で、2月に岩国市立錦中央病院、岩国市立本郷診療所にてカルテ調査を行い、バイタルデータと診療履歴を収集した。これらの作業により、データの収集までの作業を終えた。

 

1 調査概要

調査名

医療機関のかかり方に関する調査

調査対象

65歳以上の男女で、過去1年以内に対象病院において定期的な受診が必要と診断され、かつ、下記の疾病(1つないし複数)と診断されている患者。

 ・脳卒中(脳出血・脳梗塞)、心筋梗塞・狭心症、高血圧、脂質異常症、糖尿病、がん

対象病院

兵庫県公立浜坂病院

岩国市立錦中央病院

岩国市立本郷診療所

調査デザイン

前向きコーホート調査および調査時の横断調査

・ベースラインとして201211月〜20131月に自記式質問紙調査とカルテ調査を実施

1年後に更なるカルテ調査を実施し、状態増の変化を把握(可能であればその後も継続予定)

倫理的配慮

自記式質問紙への記入は対象者の任意とし、回収は郵送による回収とすることで担当医師を含めた病院関係者には協力の有無が分からないようにした。また、質問紙調査及びカルテ調査については、個人情報の管理についての厳しい規定を設け、その規定内において、病院の担当者の管理のもとで情報収集を行った。

 

1 分析において想定する因果モデル

 

3.今後の活動と次年度以降の予定

20132月まででデータの収集を終えた。3月に自治医科大学にてデータのエディティングを行い、データ入力までを年度内終了する予定である。

次年度は、データクリーニング作業を行いデータセットを確定させる。次に、横断的分析を行い、学会等での発表を行う。さらに、調査から1年後に当たる201311月〜20142月に再度の調査対象となった医療機関において調査に協力した患者のカルテ調査を行い1年後のバイタルデータなど予後情報を収集する。そしてこれらのデータを統合したうえで、縦断分析を行う予定である。

また、本調査は兵庫県新温泉町、山口県岩国市と地方都市における調査となっている。そこで、より都市度の高い地域における受診行動についても調査を行い、比較できるための対象選定と協力依頼および可能であれば実査を行う。

 

本年度の研究成果

l  学会報告

Ø  渡邉大輔,2012,「中高年齢者の精神的健康と社会関係資本─マルチレベル分析による地域レベル効果の検証」『日本社会学会第87回大会』於北海道学院大学.