学術交流支援資金 外国語電子教材作成支援(2012年度)報告書

 

科目名:環境情報学の創造(EXPLORING ENVIRONMENT AND INFORMATION STUDIES

研究代表者:加藤文俊(環境情報学部)

 

 

1 はじめに

 本研究では、学部生対象の「総合講座科目」と位置づけられている「環境情報学の創造」の講座・演習のデザインをつうじて、SFCにおける「実学的」アプローチに関わる考え方・方法論の整理を試みた。詳細は後述するが、春学期は、「Fun Theory」と呼ばれる問題発見・問題解決へのアプローチを主題に、「しかけ」づくりを介して実践的な課題に向き合うよう講義・演習が設計された。秋学期は、GIGA科目として開講し、ものづくりの実習等をふくむワークショップを中心に構成された。

 「環境情報学の創造」では、環境情報系(環境デザイン、人間環境科学、先端生命科学、先端情報システム、先端領域デザイン)の各領域における問題発見・解決のパラダイムについて学習するべく、受講生はグループプロジェクトとして「しかけづくり」や「ものづくり」ワークショップに取り組んだ。一連の課題をつうじて、社会における問題解決のためのコンテンツやプロダクトをデザインする感覚を養い、「創造」を自らの手で 実現するための基礎的なトレーニングを積むことを目指した。これからの社会で求められる能力は、書籍からの受け売りの知識や言葉遊びではなく、五感を動員して思考し、問題を発見・解決していく能力である。受講生自身が手を動かして成し得た経験とそれにともなう知識を体得することで、経験に基づかない概念のむなしさを知るとともに、物を作ることの喜びを感じる機会を提供するものである。

 

 

2 講義・演習のデザイン

2-1 春学期

 春学期は、「Fun Theory」と呼ばれる問題発見・問題解決へのアプローチを主題に、「しかけづくり」を介して実践的な課題に向き合うよう構成した。「Fun Theory」のスローガンは、「Fun can obviously change behavior for the better」であり、人びとは「面白さ」をきっかけに自発的に行動しうるという想定で、さまざまな問題解決へのアプローチを試みている。ルールや制度として、人びとの行動を促すのではなく、(好奇心を刺激しながら)人びとの小さな行動の集積として状況の変化を誘発しようという思想は、まさに「自律分散協調」という概念が意味するものであり、この課題に体験的に取り組むことによって、問題発見・解決のみならず、その背後にある思想について考える機会を提供することができる。

 こうした考えをふまえると、問題の発見・同定から、「面白さ」を醸成し具体的な行動を誘発する「しかけづくり」、さらには現場における実証実験にいたるまで、一連のプロセスを「全体として」デザインすることが求められる。つまり、「しかけ」を考案し形にするためには、環境情報学系の知識を総合的に活用することになる。概念の理解や技法のトレーニングには、(それなりの)時間とエネルギーが必要である。また、ものづくりやデザインの動向を知り、あたらしい方法について考える、実験するマインドも要求される。そのため、こうしたトレーニングやマインドの醸成を支援することが不可欠だと言えるだろう。

 春学期は土曜日開講の演習等もふくめ、下記のとおり全16回で講座を設計した。

 

- 1回(2012/04/12)環境情報学教室へようこそ:環境情報学の教室とは、この地球そのものである。現在の地球と人類の文明が置かれている状況、そして SFC の位置づけを簡単な技術史を交えて把握し、環境情報学を俯瞰する。

- 2回(2012/04/19)問題発見のためのワールドカフェ:履修者全員が主体的に議論に参加することを通して、この授業を通して解くべき社会的問題を各自が提案する。

- 3回(2012/04/21)社会を変える意思 (土曜日):「総合政策学の創造」との合同授業として、これからの社会を考え、改めて自らが行動していくためのひとつの契機とする。

- 4回(2012/04/26チームをつくる:この授業の残りを通して一緒に活動する仲間たちと、息を合わせてひとつの問題に取り組むためのトレーニングを行う。

- 5回(2012/05/02)情報とデザインの視点:演習を通して、仕掛けづくりに必要な情報とデザインの力について考える。

- 6回(2012/05/10)生命と地球規模の視点:演習を通して、仕掛けづくりに必要な生命・健康と地球規模の視点で物事を見る力について考える。

- 7回(2012/05/17)企画・進捗レビュー:仕掛けづくりの企画とその進捗について、相互に意見を述べ、改善していく。

- 8回(2012/05/24)企画・進捗ライトニングトーク:仕掛けづくりの企画とその進捗を全チームが発表し、フィードバックを得る。

- 9回(2012/05/31SFC のプロジェクト (1) パーソナルゲノム時代をどう生き抜くか:SFC人が関係するプロジェクトの例に体験的に関わる。

- 10回(2012/06/07 SFC のプロジェクト (2) ファブラボが生みだす:SFC人が関係するプロジェクトの例に体験的に関わる。

- 11回(2012/06/14SFC のプロジェクト (3) いいたてを話そう:SFC人が関係するプロジェクトの例に体験的に関わる。

- 12回(2012/06/21)学びの対話ワークショップ:これまでの各自の学びを振り返り、コミュニケーションを通して他者の学びについても理解を深める。

- 13回(2012/06/28)「総合政策学の創造」:「総合政策学の創造」スタッフによるプロデュース回。

- 14回(2012/06/30)政策コーカス + 仕掛け審査会 (土曜日):各チームの仕掛けのビデオを鑑賞する。

- 15回(2012/07/05)発表会:優秀チームのプレゼンテーションを行う。

- 16回(2012/07/12)環境情報学は創造できたか:総評と授業の総括を行う。

 

2-2 秋学期

 秋学期も、春学期と同様の問題委意識にもとづき、環境情報系の諸領域における問題発見・解決のパラダイムについて学習することを目指した。一連の演習(ワークショップ)では、どの研究プロジェクトでも共通に求められるであろう「ものを作る能力」「そのための仕組みや構造を考える能力」の獲得を強調した。これからの社会で求められる能力は、書籍からの受け売りの知識や言葉遊びではなく、身体を通して思考し、問題を発見・解決していく能力である。演習を通じて「創造」を自らの手で実現するための基礎的なトレーニングを積むこと、そして、受講生自身が手を動かして成し得た経験とそれに伴う知識を獲得するとともに、物を作ることの喜びを感じてもらうことを主眼に置いた。「総合講座科目」として、環境情報学部生としての今後の4年間で何を学ぶべきかを考える際のマインド醸成を試みた。

 秋学期はGIGA科目として開講し、3回(2回)をひとつの「セット」とするワークショップを組み合わせる形でデザインした。

 

- 1回(2012/09/27)イントロダクション:環境情報学部と総合政策学部のミッションと今後のビジョンを共有する。本講義のスケジュール、評価基準等について説明する。

- 2回(2012/10/04)チームビルディング:簡単なワークショップを通じて、チームづくりを行う。

- 3回(2012/10/11)学習パターンワークショップ:ワークショップを通じて、SFCでの学びの方法を体得する。

- 4回(2012/10/18)デジタルファブリケーションの演習(1):レーザーカッターで照明とランプシェードを作る・3Dデータと2Dデータを作成する・Google Sketch Up, AutoDesk 123D, InkScapeの紹介、ソフトの使い方を覚える・FabLabModel Makerの紹介、ソフトの使い方を覚える・展開図と組立図

- 5回(2012/10/25)デジタルファブリケーションの演習(2):レーザーカッターで照明とランプシェードを作る・さまざまな素材と設定の比較・アセンブリ・照明効果の確認

- 6回(2012/11/01)デジタルファブリケーションの演習(3):レーザーカッターで照明とランプシェードを作る・さまざまな素材と設定の比較・アセンブリ・照明効果の確認

- 7回(2012/11/08メディアデザインの演習(1):3D映像を作る・目の仕組みを学ぶ・既存の3Dディスプレイの仕組みを学ぶ・アナグリフ用メガネを自作する・立体画像を作成する

- 8回(2012/11/15)メディアデザインの演習(2):3D映像を作る・3D映像コンテンツを作成する・適した3D映像提示手法の提案

- 9回(2012/11/29)メディアデザインの演習(3):3D映像を作る・3D映像コンテンツを作成する・適した3D映像提示手法の提案・3D映像コンテスト

- 10回(2012/12/06)メディアデザインの演習(4):

- 11回(2012/12/13Production and Innovation Network in East Asian IT Industry:総合政策学部との「交歓講義」(担当:井口知栄君)

- 12回(2012/12/20)実空間のインタラクションの演習(1):2足歩行ロボットを用い実空間での物理運動の制御について学ぶ・ロボットを動かしてみる・ロボットのモーションを作る

- 13回(2012/12/27)実空間のインタラクションの演習(2):2足歩行ロボットを用い実空間での物理運動の制御について学ぶ・ロボットによる格闘、障害物競争、パフォーマンスコンテスト

- 14回(2013/01/17)まとめ:学期をふり返り、総括を行う

 

 

3 まとめ

 上述のとおり、「環境情報学」は実践を志向した学を目指している。人びとのリアリティに向き合い、それに対してどう応えるかという、調査者の自覚とふるまい自体を育む上でも重要な領域だと言えるだろう。こうした「実学」的な側面に着目するとき、われわれは〈観察者〉から〈関与者〉へと視座を変え、あたらしい方法や態度を身につけなければならない。本研究においては、「環境情報学」を形づくる概念やキーワード、さらにはその実践のひとつである「しかけづくり」および「ものづくり」を課題やワークショップという形で展開した。これらは、事例として今後の学習環境デザインに役立つよう整理することによって、「総合講座科目」における知識の生成に寄与することを目指したい。

 上述のとおり外国語による電子教材化をすすめることにより、現場志向の調査研究のための学習支援に貢献しうる。近年、調査者はたんなる〈観察者〉に留まらず、能動的に現場に働きかける〈関与者〉としての役割を意識することが求められており、とりわけ「実学」を志向するSFCにおいては、実習プログラムと事例の体系化、そして(日本語のみならず)外国語による公開が必要だと認識している。

 

 春学期は、課題の進捗管理、成果報告にFacebookのページを活用した。既存のSFC-SFSと併用しながら、グループプロジェクトの結果のみならず、プロセスについてもコミュニケーション機会を構成した。

https://www.facebook.com/eeis2012s

 秋学期はSFC-GC科目として、講義・演習を記録した。下記サイトにアップされた講義ログは、スライド資料等とともに、電子教材として今後の授業設計に役立てることができる。

https://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2012_26696