2012年度学術交流資金(電子教材作成支援)研究成果報告書
講義:アジアワークショップ
作成物:Field Explore ver 2.2.7 英語版 (Download Site)
申請者:総合政策学部 梅垣理郎

背景

政策研究において、政策を取り巻く個別的文脈の詳細な把握と、課題の当事者との恊働(コラボレーション)の中から、「解決すべき課題」の特定と解決策を模索するスタイル高まっている。昨今、政策の研究者のみならず実際の政策に携わる実務家も、前述の諸点を達成する意味で、政策の現場への参加を志向する傾向にあるのは、その証左といえよう。

申請者が担当する講義の履修者の多くは、アジア諸地域の開発政策等に多大な関心を寄せる学生である。IADPプログラム(現IADC)の開始以降は、学部生・院生に加えて、東アジア(中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピン、ラオスなど)からの留学生が多数を占める。学部生・院生の中には、本キャンパスを卒業/修了後にJICAの国際ボランティアなどを通じてアジア諸地域の政策の現場へ参加する者も多い。また、留学生のほとんどは各々の母国の官公庁等での勤務経験を有し、本研究科を卒業後も地元の行政職等の役職に就き、ODAなどの開発プロジェクトに携わるケースも多い。したがって、申請者の講義を履修する学生・院生・留学生等に対しては、特に政策の現場への参加を巡る動作について、適切なトレーニングの機会を提供し、その促進を図ることは必須の課題といえる。

この動作において、デジタル技術の積極的な活用は中心的な位置を占める。政策の現場への参加する際には、研究者や実務家は、政策の現場との間の時間的・物理的・言語的な距離の克服という、本質的な課題に直面するからである。このとき、政策の現場との間の距離を克服するためには、たとえば現場に長期滞在(2〜3年)し、現場で言葉を学びながら、現地の人々の生活へ参加する努力が図られる。だが、これだと政策の現場に参加できるのは、その努力に時間と金銭と労力を割くことができる人々の専売特許という形になってしまい、あまり現実的ではない。逆に、時間的・物理的・言語的な距離があらかじめ克服できる(とみなされる)現場を選ぶこともあるが、これだと「政策の現場への参加する」ということは、参加ができる場所に限定したやり方ということになってしまう。大事なのは、ありとあらゆる手段を使って、政策の現場への長期滞在を前提とせず、あるいは政策の現場との距離がほとんど無い(とみなされる)場所に限定せずとも、政策の現場との距離を克服しようとする努力を継続してゆくことである。情報コミュニケーション技術の積極的な活用は、政策の研究者や実務家が、前述の意味において政策の現場との間の距離の克服し、政策の現場へ参加するうえで、中心的な動作の1つとなり、それを実現するための適切な道具(教材)が求められる。

2011年までの成果

申請者を中心としたグループでは、上述の問題意識に立ち、過去数年間にわたり、政策の現場との距離の克服を意図した、英語ベースの電子教材の作成に取り組んでいる。2009〜2011年度までは、ノートPC上での利用を想定したソフトウェア(Field Explorer)を開発し、効果の検証等を行った。このツールによって、1)政策の現場における政策研究者自身の時間的・空間的な動線の把握;2)テクスト型回答以外による政策現場の人々の自己表現の把握;3)二次的資料・文献の即時的な参照;4)観察記録の共有と即時的な書き換え、以上の諸点の促進が確認された。今後は、本ソフトウェアを中心としたデジタルコミュニケーション環境を提供し、その利用を前提とすることを促すことにより、学生が政策の現場との距離を積極的に克服することが可能になると期待される。

研究内容および2012年度の成果

アジアワークショップは、SOI(School of Internet)の協力の下、京都大学東南アジア研究センターと恊働で2009年度から運営されている遠隔講義である。広くアジア諸地域の抱える政策課題に関して理解するための科目で、講義は英語で行われている。履修者は慶應・京都の両大学に所属し、アジア諸地域の開発政策や環境問題などに関心を寄せる学部生・院生・留学生が想定される。本講義の履修者へ、Field Explorerを提供することは有効であると考えられるが、履修者が複数の拠点に跨がっている点、FieldExplorerの利用が想定される環境がノートPCだけに限らない点を踏まえると、既存の機能だけでは不十分である。

そこで、今年度より今後数年かけて以下の作業を行い、順次効果の検証を行なう

  1. ノートPC以外の環境での利用を想定した各種機能の強化
  2. クラウド機能の強化(既存のクラウドサービスへの対応、および専用サーバーの構築)
  3. iOS/Android 版の作成と、既存PC版との統合

今年度は、主に上述1と2の点を中心としてFieldExplorerの機能改善を行った。具体的には、1)については、データ保存領域としてのUSBドライブへの対応を、2)については、既存に実装しているクラウドサービスへの対応機能を強化した。上述の対応を反映させた分(英語版)を、Field Explorer verson 2.2.7 としてリリースし、上述のWebサイトよりダウンロード可能としている。

今後の予定

今後は、上述の点の中でも、クラウド機能の強化およびiOS/Android版の実装を進めてゆく予定である。


Last Update: 2012.02.28