2013年度学術交流支援資金報告書

 

大学院プロジェクト科目名:環境デザインの手法開発とその支援システム

文責 長谷部葉子 

所属/職名 環境情報学部 准教授

 

研究科題名:コンゴ民主共和国日本文化センターを拠点にしたジャパン・ウィークの開催と大学間学術交流

説明: C:\Users\k107447\AppData\Local\Microsoft\Windows\Temporary Internet Files\Content.Word\image001.jpg説明: C:\Users\k107447\AppData\Local\Microsoft\Windows\Temporary Internet Files\Content.Word\image002.jpg説明: C:\Users\k107447\AppData\Local\Microsoft\Windows\Temporary Internet Files\Content.Word\image003.jpg説明: C:\Users\k107447\AppData\Local\Microsoft\Windows\Temporary Internet Files\Content.Word\image004.jpg

 

研究概要

申請者らは2008年度よりアフリカ中西部コンゴ民主共和国キンシャサにおいて研究教育活動を展開しており、2012年度にはコンゴ側のパートナーチーム「アカデックス」が、外務省の「草の根無償資金」を受けて2013年度現地のISPゴンベ教員大学敷地内に「日本文化センター」を建設することができた。今年度は開設したばかりのこの施設を拠点に、慶應義塾の教員とコンゴの学術専門家が集い「ジャパン・ウイーク」と銘打った大学間学術交流活動を展開することをそのゴールとしていた。すでに同拠点で進行している日本の科学技術や文化の紹介・日本語教育について、両国の教員と大学生がともに学ぶイベントを開き、専門的な意見交換の機会を設けるという内容の研究活動であった。

 

研究組織

氏名

所属・職名・学年等

研究分担課題

長谷部葉子

環境情報学部准教授

教育学・日本とコンゴの教育比較

安井正人

医学部薬理学教室教授

保健衛生指導、途上国の医療

藤屋リカ

看護医療学部専任講師

保健衛生指導、途上国の看護

サイモン・ベデロ

環境情報学部非常勤講師

途上国での学校運営

エミリーヌ・アコンガ

コンゴISPゴンベ教員大学学部長

コンゴにおける外国語教育

細井洋介

映画監督

記録映像作成

合計

6

 

【研究の背景】

本年度の本研究活動は、2008 年から申請者らが継続してきているアフリカでの研究教育活動の新たなキックオフに位置付けられた。我々はコンゴ民主共和国首都キンシャサ郊外のキンボンド地区にアカデックス小学校を建築・運営してきた。すでに3 棟の校舎を建設し、今年度は校門となるアーチの建設も完成し、現地での学術的なネットワークを形成している。その上で2012年度には、我々のコンゴ側のパートナーである任意団体「ACADEX」が、我々日本側の慶應チームの支援の下、日本国外務省の「草の根無償資金」を1000 万円受給することができた。これに伴い我々の学術上のパートナーであるISP ゴンベ教員大学に土地を提供していただくことで、13 3 月にはISP キャンパス内に日本文化センターを開館することができた。ISP には2011 年度より我々慶應チームが中心になって日本語クラスを開講し、現在SFCの卒業生らが長期滞在して日本語教育に従事するなどの関係があり、この日本語クラスが日本文化センター内に移動し、さらにそのセンター内の道場で日本の武道の稽古が定期的に実施され、このセンターが我々にとってアカデックス小学校に次ぐ第二のキンシャサにおける活動拠点として成長してきている。

また、建築チームと教育チームで始めたコンゴでのこの教育実践活動には、2012 年度より医学部・看護医療学部からの教員・学生の参加も始まった。両学部の教員の指導のもと、学生は小学校の建設と運営のみならず、小学校児童の健康データの収集と分析、キンシャサ市内の病院視察や孤児院での介護実習などを実地体験している。建築学・教育学分野で始まった本活動は、医学・看護学分野を巻き込んだ、全方位的かつ双方向的な日本とアフリカをつなぐ研究教育活動になりつつある。

我々のこうしたアフリカでの全方位的、及び日本とアフリカの双方向的な活動が、日本文化センターでの活動とも分かちがたく結びついていることを内外に示すためのキックオフ活動の実施のために、現地の日本国大使館、ゴンベ教員大学と協働し当該文化センターで学術交流イベントを実施した。

この研究資金の申請当初は、1週間のジャパンウィークを計画していたが、実際は1日にすべてを凝縮したジャパンディに縮小することを余儀なくされた。これは、2013年度6月に在コンゴ民主共和国日本国大使館で火災が発生し、日本国大使館そのものの大使館としての機能回復に時間がかかり、時間をかけた協力体制での企画・運営が不可能になったためであった。

この当初予定していたキックオフ企画が縮小されたことで、予定を変更して、キンボンド地区のアカデックス小学校でのより広範囲な家庭訪問と家庭環境及び意識調査を実施した。

 

【計画当初の研究目的に対しての現状報告】

当初の研究計画では以下の3つの研究目的を提示しており、その流れに即して現状報告を行う。

1.大学教員の連続レクチャを核としたジャパン・ウイークの開催による、慶應義塾大学SFC のアフリカにおける活動の現地での紹介・普及

ISP ゴンベ教員大学敷地内に竣工した日本文化センターは、2013 3 月に建物は仮使用を開始し、すでに慶応出身のスタッフがそこで日本語クラスを運営している。ただしまだ道場施設の畳などの諸設備が3月の開所式に輸入が間に合わなかったため、正式な開館式典の開催を見送った。そして138 月の最終週を目標に、この場所で我々自身が「ジャパン・ウイーク」と銘打った開館記念活動を企画・開催しようと考えるに至った。当初の予定では、渡航する4 名の慶應義塾の教員(長谷部・竹林・藤屋)らがそれぞれの専門領域についてのレクチャを行い、同時にコンゴ側からもISP ゴンベ教員大学の教員を招いて専門分野の講演を行う(学校経営・外国語教育・公衆衛生・観光などの諸分野)ことを計画していた。またオーディエンスは、慶應とISP の両大学の学生の他、現地の教育・文化関係者や一般人などに広く開かれたものを想定していた。研究背景でも述べたが、6月の日本国大使館の惨事で、企画そのものを1週間から1日に縮小することを余儀なくされた。その結果、今回に関しては、丸一日をフルに使って、慶應義塾の教員4名がそれぞれの専門領域とコンゴでの研究意義についてのレクチャをするにとどまった。しかしオーディエンスは当初想定していた通り、広く開かれたものとなり、コンゴと日本の双方向的なレクチャと意見交換は実現できなかったが、日本側からの日本の発信の場として第一歩は実現した。この活動を通じて両大学・両国の専門家の交流を促し、慶應義塾大学SFC が今までコンゴ民主共和国で行ってきた活動を現地で広く広報することが、本研究活動の大きな目的であるが、この目的に関しては、その実現の第一歩を踏むことはできたといえる。

2.学生を巻き込んだワークショップ開催による若者間の交流の基盤づくり

コンゴ日本文化センターで開催されるジャパン・ウイークでは、教員のレクチャのほかに、日本からコンゴへ短期渡航する学生にもプレゼンテーションをしてもらい、両国の若者がこれから長期にわたって交流をすることができる基盤を準備する予定であったが、これは時間の都合上割愛され、教員のレクチャ中心に展開し、学生のプレゼンテーションそのものは、別途当文化センターの日本語授業の一環としての文化紹介の中で行われ、活発な意見交換が発生した。本来ならば、具体的には日本の学生に、2008 年より継続してきたコンゴでの我々の活動内容について、建築設計・児童教育・公衆衛生などの側面から実施例を紹介し、日コの若者による交流ワークショップを実施する予定であったため、この実現は2014年度まで持ち越されることになった。この交流によって、その後のアカデックス小学校でのプロジェクト活動、日本文化センターでの日本文化発信活動へのコンゴ側のサポーターを見いだし、我々の活動がより前進させることができると考えられ、コンゴ側のオーディエンスの反応からその手ごたえを実感することができた。交流の基盤をつくることも本研究活動の重要な目的であり、これは縮小しても達成できたといえる。

3.キックオフイベントの実施による日本文化センターでの日本紹介の恒常化

日本文化センターはすでに建物は出来上がっているがまだ本格的な使用はされておらず、キンシャサ市内での知名度も限定的である。市内には旧宗主国であるベルギーの文化広報施設はあるが、内戦後の各国による文化基盤整備はまだまだであり、恐らくこれから、欧米諸国がそうした事業を展開することが予想される。一方で本文化センターは外務省の草の根無償資金を受けて建設された施設であるために、現地日本大使館が当該施設にかけている期待も大きい。またキンシャサのJICA 事務所からは関連するイベント(現地職員の講習会など)で文化センターを使用したいという要望も上がってきており、一定の施設利用ニーズはあると考えられている。我々慶應チームが、この日本文化センターできちんとした開館イベントを企画し、十分な広報と共にその施設の使用方法をキックオフイベントとして示すことは、そのあとの本施設での日本文化紹介を軌道にのせ、安定的にセンターが使用されていくためのはずみになると思われる。そうした文化センターの情報発信の恒常化も、本研究活動の目的である。この目的達成のために、2013年度も当文化センターでの日本語授業に文化紹介授業をできるだけ組み込み、また国営のラジオ放送やテレビ放送の番組でその活動・授業内容を紹介してもらい、認知度を高める工夫をしてきた。日本紹介の恒常化には、日本人講師によるカリキュラム展開が必須であり、直接現地に赴くほかに、オンラインでの講義配信を視野にいれ、具体的な方策に着手する段階に至ったといえる。

 

【予想された研究成果に対しての実際の研究成果】

当初本研究活動の予想される研究成果として、以下の3点を提示した。ここではその各々に対しての

実際の研究成果を報告する。

1.実践的で効率的な国際的大学連携の実現

本案件は、コンゴの現地大学の敷地内に日本の政府資金で建設された施設を拠点に、慶應義塾大学SFCの研究室と現地大学の教員・学生が交流するというものであった。また、多くの資金はプロジェクト参加者の自費で賄われ、非常にやる気のある参加者によって維持されてきた活動でもある。大学間の公式な交流枠を先に作って潤沢な資金の下で活動をしてきたものではなく、小さな人的な連携が徐々に大きくなって包括的な流れにまで成長しているものだと言える。毎年参加者ができることを精査しながらすこしづつ実績を積み上げてきており、それゆえに交流の内容は実践的かつ効率的である。今回日本文化センターという新しい拠点ができてそこを着実に実りのある場所にするために、ジャパン・ウイークを企画し、我々の活動を現地でより広報しようとしている。日本とコンゴの2つの大学が、小さいながらも着実な連携の一歩を踏み出すという成果を当初期待していた。

現実に即した研究成果は、先に述べたジャパンウィークがジャパンデイに縮小されたことで、相互理解の深化も縮小されたという事実は否めない。しかし、現在にいたるまでの交流の内容が実践的かつ効率的であるため、各方面の関係者に理解されやすく、また注目されやすい状況におかれている。そのため、発信する機会が日常的なそのプレセンスそのものに与えられているという成果を6年間の積み重ねた結果の成果として実感することができた。

2.若い世代への交流の引き継ぎと持続可能性の確保

本案件は2008年度より長谷部らSFCの教員を中心とした教育と建築の2チームがコンゴ民主共和国で展開してきた活動の重要な展開点であり、6年目を迎えた我々のアフリカでの活動はすでにSFCの学生を100人以上現地に送り込んだ実績がある。毎年モチベーションの高い学生が自ら活動に参加しており、徐々に複数回渡航する学生や、現地に長期滞在する学生も出て来た。また、コンゴ側からの参加者も日本側の参加者と対等で双方向な関係を築くことができている。プロジェクト担当の教員は、今回の「ジャパン・ウイーク」という交流企画を実現することで、キンシャサ市内の日コ交流拠点を広く広報し、こうした若者間の関係を安定したものにできると考えている。教員主体の活動から学生主体の活動へ、日本主体の交流から日本とコンゴの間の対等な交流へ、交流の世代的引き継ぎと持続可能性の確保が期待される成果であった。この点に関しては、今回の企画縮小という予定変更にもかかわらず、十分にその成果を上げることができたといえる。それは、今回の現地でのフィールドワーク期間以外に2012年度から、コンゴ人日本語受講者で教員育成プログラムに進級した中から選抜し、3か月間日本語教師育成プログラムの研修生として3名日本に招へいして2年目を迎える。この現在に至るまでの来日した6名のコンゴ人研修生がコンゴへ帰国後、日本とコンゴの橋渡しとしての大きな役割を果たした結果の今回の成果であるといえる。

3.新しい日本文化発信方法の提示

コンゴはつい数年前まで内戦があり、現在でも世界最貧国の1つだが、すでにキンシャサは内政も安定し、豊富な地下資源を目指して世界各国が援助外交を展開するホットスポットである。この数年のキンシャサ市内の経済発展も目覚ましいものがある。そのなかで各国の文化政策はまだ玉石混淆であり、旧宗主国のベルギーが過去の遺産をベースに少し先んじている程度である。今回日本国外務省は、我々のコンゴ側のパートナーであるアカデックスに草の根資金を支給し実際に現地大学の中に文化センターが出来た事について、大変な期待をかけており、日本大使館、JICAも全面的なバックアップを約してくださっている。ここで大学の学術交流と言う形式で、新しい活動拠点の活動開始を広く広報することは、アフリカ研究をすすめようとする慶應義塾大学SFCにとっても、広くコンゴで資源外交を展開しようとする日本国にとっても利益であることは間違いがない。今回のコンゴ日本文化センターでの交流事業の実現は、日本の従来の大型政府開発援助とは異なる、少額で小回りのきいたアフリカでの日本の新しい文化発信方法を実現するという成果が期待していた。結果的に今回のジャパンディは規模縮小といっても、交流事業導入の実現は果たした。今度は、日常的に日本紹介授業を展開する中で、段階的に双方向性の学びの仕組みを実現することが課題となっている。これは、コンゴにおける日本人という人的資源の

供給及び日本に定期的にコンゴ人研修生を招へいする循環システムをどのように日コ双方にメリットをもたらす形で継続的に実現できるかが今後の課題のかなめとなっている。今後の方向性が明確になり、より双方向性の交流事業の実現可能性も同時に明確になったのが、今回の成果といえる。

 

【今回の研究成果の公表】

20131122日・23日 六本木ミッドタウンOpen Research Forumにてポスターセッションとトークセッションに出展。ポスターセッションは特別展示出展に選ばれた。またトークセッションにも多くの来場者が訪れた。

 

20138月―9月のフィールドワークに関しては、以下のYou-tubeで公開している。

3分間プロモーションバージョン http://youtu.be/NqPRvSsHBJU

24分間本篇バージョン http://youtu.be/GwVGwnxvM2Q