イスラーム倫理とグローバル・ガバナンス〜学術交流拠点構築と活動を通じて〜

研究代表者:奥田 敦(総合政策学部教授)

 

       概略

Ø  イスラーム過激派に対する脅威が増す一方の国際情勢下において、イスラームの内発的倫理的復興を軸に、アラブ・イスラーム圏のみならずグローバルレベルでガバナンスのありようを実践的に研究する。イスラーム教徒が絶対的なよりどころとする啓示と、インドネシアからセネガルまで拡がりをもつイスラーム圏の動向を視野に収めながら、イスラームの倫理に着目し、国づくりの基礎としてガバナンスを探究する。また、ヨルダン・リビヤなどにおける学術交流拠点形成や拠点と交流を通じ実践レベルでガバナンス構築を図り、グローバル化時代における学術機関の対アラブ・イスラーム圏戦略を提示する。なお、主たる具体的な研究項目は次の6点となる。

²  イスラームを方法論としたガバナンス研究

²  イスラーム社会思想研究(文献輪読)

²  中東の民主化の現状と展望に関する研究

²  環境・エネルギー・水資源ガバナンス研究

²  イスラーム法文献研究

²  ハラールとハラーム研究

²  学術交流および拠点構築

 

       メンバー

Ø  奥田敦(総合政策学部教授)

Ø  廣瀬陽子(総合政策学部准教授)

Ø  香川敏幸(慶應義塾大学名誉教授)

Ø  山本達也(清泉女子大学 文学部准教授)

Ø  鄭浩蘭(フェリス女学院講師)

Ø  佐野光子(SFC研究所上席所員           (訪問))

Ø  稲垣文昭(SFC研究所上席所員           (訪問))

Ø  市川顕(総合政策学部非常勤講師)

Ø  野中葉(同)

Ø  植村さおり(同)

Ø  本田倫彬(博士課程)

Ø  姜宇哲(同)

Ø  小牧奈津子(同)

Ø  ゴギナシユヴイリ ダヴイド(同)

Ø  戸田圭祐(同)

Ø  生田泰浩(同)

Ø  小林周(同)

Ø  バール アブラール(同)

Ø  兼定愛(修士課程)

Ø  竹内沙於(同)

Ø  野原直路(同)

Ø  澤田寛人(同)

Ø  ボーアマル ハサン(SFC研究生)

 

1.     イスラームを方法論としたガバナンス研究

(ア)   51日;

@     「イスラームの視点に基づく我が国の 自殺予防対策の分析と抜本的な自殺の予防に向けた課題」(小牧)

A     「南コーカサス3国に対する日本の援助政策」(ダヴィド)

(イ)   718日;

@     「平和構築を目指す自衛隊と日本――経済成長支援へ収斂する国際平和協力と開発援助」(本多)

(ウ)   1016日:「南コーカサス3国に対する日本の援助政策」(ダヴィド・ゴギナシュヴィリ)

(エ)   1113日:「平和構築と自衛隊――国際平和協力の実相と日本流支援の形成」(本多倫彬)

(オ)   1127日:「日本の自殺対策の変遷と現代の対策に与えた影響の分析」(小牧奈津子)

(カ)   1218日:「韓国の対外政策における国際協力の変容」(姜宇哲)

 

1.     文献輪読
宗教と社会科学、公共宗教に関する文献の輪読を行った。

1.     ポール・ポースト(山形浩生池本昭男訳) 『戦争の経済学』バジリコ 、2007

(ア)   活動回数:計1回(515日(発表担当:本多))

2.     ジャレド・ダイアモンド (倉骨彰訳)『銃・病原菌・鉄(下)』草思社、2013年(第17版)

(ア)   活動回数:計9回( 529日(発表担当:澤田、戸田)、 65日(植村、小林)、 612日(兼定、野原)、 619日(竹内、小牧)、 73日(ダヴィド))

3.     アレキサンダー・ジョージ、アンドリューベネット(泉川泰博)『社会科学のケース・スタディ: 理論形成のための定性的手法』勁草書房、2013

(ア)   活動回数:計2回( 710日(発表担当:野原、澤田))

4.     マイケル・イグナティエフ『ニーズ・オブ・ストレンジャーズ』風行社、1999

(ア)   活動回数:計1回(710日(発表担当:戸田))

5.     ジェフリー・サックス『貧困の終焉――2025年までに世界を変える』早川書房、2006

(ア)   活動回数:計1回(724日(発表担当:姜))

6.     ロバート・ニューワース(伊藤 真)『「見えない」巨大経済圏: システムDが世界を動かす』東洋経済新聞社、2013

(ア)   発表会数:計1回(724日(発表担当:植村))

7.     Brian J. McVeigh, Japanese higher education as a Myth, M E Sharpe Inc, 2002.

(ア)   発表回数:計1回(1127日)

(イ)   発表担当:バール

8.     ウルリッヒ・ベック(鈴木直訳)『〈私〉だけの神――平和と暴力のはざまにある宗教』岩波書店、2011

(ア)   発表回数:計2回(12223日(予定))

(イ)   発表担当(発表順):小林、野原、小牧、ダヴィド、本多、野中

 

3.中東の民主化の現状と展望に関する研究

1.     研究発表「カッザーフィー政権の崩壊過程分析――リビアの産業政策とビジ ネス環境の検証を通じて」(小林)

(ア)   日程: 515日(SFC

2.     「デモ続くトルコの混迷 五輪招致への影響は? 」内戦続くシリア情勢( BSフジ プライムニュース)(奥田)

(ア)   日程:625日(フジテレビ)

3.     116日:「新生リビアのガバナンス構築における課題」(小林周)

4.     1113日:「エジプトーー125日革命以後の社会政治状況と『クーデター』に至る過程」(野原直路)/エジプトの現状に関する報告(ムハンマド・サーリヒー)

5.     1225日:「シリア危機の中のアレッポにおける慈善活動――今後の研究とアレッポ支援に向けて」(植村さおり)

@     11月以降は「地域戦略研究(イスラーム圏)」の授業と連動

 

2.     環境・エネルギー・水資源ガバナンス研究

1.     研究報告

(ア)   109日:「中央アジアのエネルギー安全保障」(稲垣文昭)

@     「地域戦略研究(イスラーム圏)」の授業と連動。

2.     翻訳プロジェクト

(ア)   世界経済フォーラム・ウォーター・イニシアティブ、Water Security: The Water-Food-Energy-Climate Nexus(『ウォーター・セキュリティーー交叉する水・食糧・エネルギー・気候変動』)

(イ)   監訳・訳:市川顕、稲垣文昭、奥田敦、香川敏幸、小林周

(ウ)   訳者:ニーズ対応型水問題研究会

(エ)   今年度中の出版を目指して翻訳の最終チェックと掲載論文の執筆中。

 

3.     イスラーム法文献研究

1.     ハサニー『完全な人間』

(ア)   アラビヤ語原典『الإنسان الكامل』の訳出

(イ)   イスラームにおいて模範として共有される預言者ムハンマドの倫理観を整理した。本年度は、「万有への慈悲」、「家族と扶養者への慈愛」、「子ども、孤児、未亡人、病人たちに対する慈愛」、「動物に対する慈愛」、「慎み深さ」、「寛容さ」、「約束の履行における誠実さ」「忍耐における完全性」、「禁欲における完全性」、「許しにおける完全性」の箇所を訳出したの箇所を訳出した(pp.111-135.)。

(ウ)   奥田、植村、戸田、竹内、兼定

(エ)   56日、62日、630日、727日、112日、127日、1228日、125

1.      毎回5時間程度の勉強会

2.      学部のアラビヤ語スキル(講読)と連動

 

4.     内面的倫理的イスラーム復興

(ア)   ヨルダン、インドネシア等、各フィールドにおける調査

 

5.     ハラールとハラーム研究

(ア)   1122日:ORF2013セッション企画

@     「ハラールビジネス最前線」

1.      発表者:福井義郎(神奈川県観光課課長)、二宮伸介(株式会社二宮代表取締役社長)、野中葉(慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師)、

2.      モデレータ:奥田敦(同学部教授)

(イ)   研究報告

@     102日:「インドネシアにおけるムスリマのヴェールの拡がりと意味の変遷」(野中葉)

A     1224日:「ウスール・アル=フィクフ学の課題――豚はなぜハラームなのか」(奥田敦)

1.      「地域戦略研究(イスラーム圏)」の授業と連動。

(ウ)   フィールド・ワーク

@     マレーシア政府ハラール認証機関(JAKIM)など訪問(224日〜26日)奥田・竹内

A     マレーシアおよびインドネシアのハラルビジネスの現状(325日〜44日)

 

6.     学術交流および拠点構築

(ア)   ヨルダン日本協力協会設立

@     フィールド・ワーク(9月)(学部特別研究プロジェクトと連動)奥田、植村、戸田、竹内

A     設立記念行事(315日(予定))(学部特別研究プロジェクトと連動)

1.      河添学部長、奥田、植村、戸田、兼定

(イ)   アラブ人学生歓迎プログラム(ASP2013113日〜18

@     アラブ3カ国から4名を招聘。(学部研究会活動と連動)

A     奥田、植村、小牧、戸田、兼定、竹内、野原、ハサン

(ウ)   アラブ世界訪問プログラム15 34日〜12

@     モロッコ訪問(学部特別研究プロジェクトと連動)奥田、兼定、ハサン

 

 

参考

ORF2013発表内容

 

T大学院研究プロジェクト「イスラームとグローバル・ガバナンス」

概要

大学院 政策・メディア研究科においては、プロジェクトとしてイスラーム世界、アラブ世界、さらにはイスラームそのものやグローバル・ガバナンスとイスラームとのかかわりについての研究を、現地の拠点との密接な連携によって進めている。それはイスラーム世界の「真実」と「現実」を知り、かつ両者を十分に峻別したうえで、それ以外の地域や人々とも問題を共有し、その解決の模索を通じて実践的に学ぼうとする研究・活動である。フィールド・ワークはもとより、クルアーンを中心とした原典研究、グローバル・ガバナンス研究の蓄積、学術拠点ネットワークの拡充、学術交流活動、遠隔教育の試みまで含めて、これまでに培われてきた萌芽を確実に育て、より総合的で包括的かつ実践的なイスラーム研究を機軸としたグローバル・ガバナンス研究の展開を図っている。

 

アラブ民主化運動の現状と展望

アラブ世界の民主化運動に焦点を当て、現状を分析するとともに、イスラームと民主主義との関係について考察を行っている。2013625日には、BSフジ『プライムニュース』において、「デモ続くトルコの混迷 五輪招致への影響は?」をテーマに、内戦の続くシリア情勢につき奥田教授が解説を行った。そこではシリアの人々の窮状に加え、この問題への各国の対応や国内の対立構造など、現状で何が起きているのかが語られるとともに、シリアが大国の代理戦争の場となり、軍需産業の餌食にされているとの指摘がなされた。その上で、こうした紛争を解決するには、イスラームの教えのレベルから当事者達の信仰心に訴えかけ、信仰を取り戻させることの重要性が示唆された。また、第12回アラブ人学生歓迎プログラム(ASP2013)の招聘者から、モロッコ、エジプト、レバノンにおけるアラブ民主化運動に関する意見を聞き、各国の現状について理解を深めた。さらに、地域戦略研究(イスラーム圏)の講義では、エジプトからの招聘者であるムハンマド・アッサーリヒーさんより、同国の情勢につき分析・解説がなされ、今後の展望について議論を深めた。

 

中央アジアにおけるガバナンス研究

中央アジア地域におけるガバナンスについて、水資源問題など様々な角度から分析と考察を行っている。20128月から翌年3月にかけて、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業/基礎事業/石炭高効率利用システム案件等形成調査事業」に参加し、主にキルギスとウズベキスタンの電力をめぐる社会経済状況の分析ならびに、石炭火力発電所と石炭炭鉱の実態に関する調査を実施した。なお201310月からは、同じくNEDOによる「キルギス共和国における熱供給所の石炭ボイラ更新案件発掘調査」に参加し、同国の熱供給所の改修等を通じた石炭の高効率化に向けて、事業運営手法のあり方につき、人材育成等をも視野に入れ検討を行っている。また、世界経済フォーラム・ウォーター・イニシアティブによる”Water Security : The Water-Food-Energy-Climate Nexus”の翻訳作業は最終段階を迎え、掲載論文の執筆と合わせて今年度中の出版を目指している。

 

イスラーム法文献研究

カラダーウィーの『優先事項のフィクフ』について、下訳作業の完了した本年度は、出版に向けて日本語訳文の検討を行っている。また、ホスニーの『完全な人間』では、イスラームにおいて模範として共有される預言者ムハンマドの倫理観について考察している。本年度は、慈愛や慎み深さ、寛容さ、誠実さ等の概念につき論じられた箇所を訳出した。

 

内面的倫理的イスラーム復興

ヨルダン、インドネシア、トルコ等、各フィールドでの調査を通じて、イスラームの信仰に基づき様々な社会活動を行う人々の姿を描き出す中から、彼らの内面的倫理的なイスラーム復興の動きを捉えようと分析・考察を行っている。それは、イスラームの教えという真実のレベルから、現実を解釈・評価する試みでもある。20133月には特別研究プロジェクトの一環として、NPO法人 日本トルコ文化交流会(日ト会)のコーディネートのもとイスタンブールを訪問し、イスラーム信仰に基づく社会奉仕運動である、ヒズメット運動の活動の現場を視察した。また10月には、奥田教授と小牧が日ト会のコーディネーターとともに米国を訪れ、同国内でも拡大を続ける運動の現状を視察するとともに、ヒズメット運動に関する国際シンポジウム(RUMI FORUM主催)に出席した。シンポジウムでは、ヒズメット運動が異文化間・異宗教間の対話の促進と、平和の構築に果たした役割について考察されるとともに、運動の中長期的な展望と今後の課題に関して活発な議論が交わされた。

 

 

 

U イスラーム世界における海外拠点ネットワークの展開

 

これまで奥田敦研究室では、右の地図にあるようにシリアやレバノン、モロッコなど、16の国と地域にまたがって研究・教育・活動を行ってきた。ここでは、近年特に関係を強めているヨルダンの拠点構築、SFCで行われたリビヤ人技術者研修、201310月にSFC研究所に設立された「イスラーム研究・ラボ」について紹介する。

 

リビヤ人技術者研修

2012年度「神奈川県海外技術研修員募集事業」において、リビヤからハッサン・バルコウリー氏が訪日し、奥田教授のコーディネートによりSFCにて研修が行われた。彼は都市インフラを専門とし、研修では中島直人准教授の指導の下、リビアの首都トリポリの交通インフラにおける問題点を検証した。さらに、鎌倉市の交通問題対策事例を学び、解決策を提案にまとめた。

 

 

新たな学術交流活動拠点の構築

2013年の夏、アンマーンのアリババインターナショナルセンター所長のアリー・アル=ハーッジ博士や奥田敦教授らが発起人として名前を連ね、ヨルダンの社会開発省に申請を行っていたNPO「ヨルダン・日本協力会」設立の認可がおりるなど、ヨルダンでは新たな学術交流活動の拠点構築が進められている。このセンターは、タイムール・ハンドーク氏を中心に、文化交流や中級レベルの日本語授業の提供などを目的とするだけではなく、慈善活動への取り組みなども視野に入れた包括的なセンターを目指すものである。

ヨルダンとSFCとの関係は20123月のアラビヤ語現地研修を契機に始まった。これまで春夏合わせて4回の訪問を行い、現地日本語学習者らと共同スキットビデオの撮影、日本フェアの開催、ASPへの招聘などを通じ交流活動を行い関係を深めている。

 

 

「イスラーム研究・ラボ」設立

〜イスラームとイスラーム圏に関する総合的な研究活動とその成果の発信を目指して〜

これまでSFCの奥田敦研究室では、イスラームとイスラーム圏について、基礎研究・地域研究・応用研究の3つの分野にわたって研究・教育・活動を行ってきた。そして201310月、こうした実績と幅広い海外拠点ネットワークを生かし、総合的な研究活動と研究成果の発信を行うための「イスラーム研究・ラボ」がSFC研究所内に設置された。

イスラーム基礎研究

イスラーム法におけるハラールとハラームに関する基礎概念を、聖典クルアーンや聖預言者の言行録における関係個所を読み直すとともに、この分野の重要文献に依拠しながら整理・考察する。

イスラーム地域研究

インドネシアからセネガルにまで至る奥田研のイスラーム圏におけるネットワークを駆使し、ムスリム圏全体を視野に入れ、日本国内外のハラール・ビジネス、ハラール食品の現状を調査する。

イスラーム応用研究

「ハラール・マニュアル」の作成、アラブ人学生歓迎プログラム(ASP)開催支援、リビヤ復興支援プロジェクト、アレッポ復興支援プロジェクト、一般向けイスラーム理解講座・アラビヤ語講座プロジェクトの準備、水とエネルギーの安全保障についての研究などを行う。

 

主な構成メンバー

奥田敦

総合政策学部教授(ラボ代表者)

野村 亨

総合政策学部教授 

武藤 佳恭

環境情報学部教授 

花田 光世

総合政策学部教授 

廣瀬 陽子

総合政策学部准教授 

ジャームース・ラーウィヤ

総合政策学部訪問講師(招聘)